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四月一日の道化 (6)
いや、本当はもっと前から気付いていたのかもしれない。ただ単に認めたくなかっただけなのだ。
「ねえ水下。さやか、断るときに耳の後ろ辺りを触ってなかった?」
「触ってたと思う。でもなんでそんなことわかるんだ?」
唐突な私の問いに、そのときの情景を思い出したのか答える水下の面持ちは一層暗くなる。そんな水下に「いいこと教えてあげる」と前置きした後で、私は彼の知らない、とっておきの情報を伝えた。
「さやか、嘘吐くときに耳の後ろ辺りを触る癖があるんだよ」
「え?じゃあ……」
数秒かけて私の言葉をじっくりと理解した後、水下はそのことが示す事実にたどり着いたらしい。
さやかは水下の告白に嘘の返事をしていた。つまりそれはさやかもまた、水下のことを好いているということを示していた。