5/130
四月一日の道化 (5)
「ふーん。そっか」
私は私で一人勝手にショックを受け、そんな返事をするのがやっとだった。
水下がさやかのことを好きなのは気が付いていた。今更それを知ったところで、別段ショックを受けるようなことではないはずである。
だというのにショックを受けてしまうのは、きっと心のどこかでは水下が否定してくれるのを期待していたからなのだろう。彼の口からさやかが好きではないと聞きたかった。その一言が聞きたかったがために、よせばいいのに質問をした。その挙句、真実を知り一人で落ち込んでいる。
それならいっそ聞かなければよかったのだ。水下の下手な嘘に騙されたフリをして、さっさと部活に行ってしまうのが賢い選択だった。そうすれば、まだ真実を知らずにいられた。
それでも、聞かずにはいられなかったのは、つまり、私が水下のことを好きだったからということなのだろう。
水下のさやかに対する想いを知ることで、私の本当の気持ちに気付かされるとは、なんとも皮肉な話だと思った。