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梅雨の雨の憂鬱 オマケ (6)
「もうびしょ濡れ。だから、それは桜が使えって」
振り返った誠君の顔は、土砂降りを身に受けて、どこか心地よさそうに笑っているように見えた。いつぶりになるかわからない、無邪気な笑み。昔とちっとも変わらないその笑み。
その笑顔を見るのが辛かった。このところずっと、それが私に向けられることがなかったから。
けれど、その笑みが教えてくれた。
「ありがとう!!今度ちゃんと返すから!!絶対返すから!!!」
精一杯声を出す。
胸の奥からこみ上げる喜びが、嬉しさが、温かさが、遠ざかる背中に届くように。
最初から、これで良かったのだ。変わらない優しさを持つ彼に対して、私もあの頃のように、ありのままの気持ちでいればいい。振り返らずに土砂降りの中を走る誠君。それでも、いつか真っ直ぐに答えてくれる日が来てくれることだろうから。
予報なんて端から当てにしていない。誠君が昔言ってくれたその言葉は、正にその通りだった。
天気予報の外れたあんまりな雨空の下を、未来予報の外れた穏やかな気持ちで私は歩く。
私は少しだけ、雨の日が好きになれそうな気がした。
おしまい
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