四月一日の道化 オマケ (10)
「……なんだ、初めからばれてたんだ」
全てを理解した私はそう呟き、思わず吹き出してしまった。
今の今まで、偽った気持ちの下で泣き続けて道化にでもなったつもりでいた私が、それこそ本物の道化のように滑稽だったからだ。
あの日の去り際の、何か言いたげな水下の表情を思い出す。水下のことだから、私の気持ちに応えられないことを申し訳なく思っていたのだろう。本当にどこまでもお人よしの馬鹿だ。
そんな彼を好きになった。その想いは、確かに届いていたのだ。
「それなら志藤が気に病むことなんて、もう何もないよ。それだけで後悔する必要なんてもうなくなったもの。……それに」
私は改めて、志藤に明るく言葉を掛ける。
あの日、偽りの気持ちで笑う必要なんてなかった。その気持ちの下で涙を流す必要もなかった。七年前の四月一日の道化など、初めから存在しなくてもよかったのだ。……もしその存在に意味があったとすれば、それは、自分の行為に罪を感じながら生きてきた目の前の彼を、罪の意識から救い、笑わせてやるくらいのものだろう。
「私、今幸せだから」
言いつつお腹のあたりをさする私の左手の薬指を見て、志藤は私の言わんとすることを察しただろう。だが彼は、あえて確認するように私の目をじっくりと見た後で
「嘘、吐いてないみたいだな」
と顔をほころばせた。
「当たり前でしょ」
と、私も笑みを返す。
その笑顔が、悲しみを隠し、誰かを騙そうとするための偽りの面ではないと、今なら自信を持ってそう言える。
おしまい
Next→「letter」