四月一日の道化 (2)
頼まれて仕方がなく友人の忘れ物を取りに来ただけなのに、まさか存在の消滅を願われる羽目になるとは。こちらこそ嘘でしょと呟きたくなる不遇さである。そもそも部活に入っていない水下が春休みの教室にいる方がよっぽど嘘か何かのようだった。
「春休みだっていうのに、なんで教室にいるの?」
不思議に思った私は窓際で固まる水下にそう訊ねてみた。誤魔化そうとしてか、彼は質問で返してくる。
「そういう木崎は、どうして教室にいるんだ?」
「私は部活。と、ついでに志藤に頼まれてあいつの忘れ物を取りに来たの。で、水下は?」
あっさりと答えた後で、再度質問を投げかける。観念したのか、水下は歯切れの悪い調子ながらも白状をした。
「いや、俺も忘れ物を取りに……」
答える水下の目はこれでもかというくらいに泳いでいる。すぐに嘘を吐いているのだとわかってしまった。そうでなくとも、一向に忘れ物とやらを探そうとしていない時点で嘘なのは明白である。
さすがにこの程度の嘘で騙されるのも白々しく感じた私は
「どうせ吐くならもう少しマシな嘘を言いなよ」
と進言した。私の言葉に、水下の表情がまたしても驚きに染まる。まるで「嘘だろ」とでも言いたげな面持ちだった。あの嘘で騙せると思っていたことに対して私も同じことを言ってやりたい。