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四月一日の道化 (10)
ごめん。でもエイプリルフールだからさ。さやかのことも許してやってよ」
誤魔化すように私がそう言い繕うと、水下は何か言いたげな顔をした後で、しかし何も言わずに立ち去った。その足音が遠ざかり、やがて聞こえなくなる。
「……嘘でしょ」
思わず水下のように呟いていた。目の前にある現実に対する疑念ではなく、願望を口にした言葉。
誰もかれも嘘を吐くエイプリルフールなら、現実の一つや二つが嘘になったっておかしくない気がしたのだ。
ただ、何が嘘だったらよかったのか、わからなかった。
さやかの水下への想いか。水下のさやかへの想いか。私の水下への想いか。
いつまで経っても、答は出そうになかった。
オマケに続きます