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完璧容姿の貴女



「……なるほど。あそこで熱心に地面を這いつくばっているのが、その姪っ子さんね」



アルベールに案内されて街の広場近くまで来ると、そこにはおよそ貴族の親族とは思えない格好の娘がいた。


簡素な絹と麻を組み合わせた、動きやすさ重視の服。

髪や顔を隠すように布を被り、周囲の目を欺こうとしているみたいだけど……

その立ち振る舞いからは、どうしても隠しきれない「良質な育ち」が漏れ出している。



「ちょっと、そこの布被りさん!聞いてる?」



私が声をかけると、その娘はびくりと肩を揺らして、ゆっくりとこちらを振り向いた。



「……っ! ど、どなたですか?」



布の隙間から覗いたその素顔を見た瞬間、私はつい立ち止まってしまった。


(……なんて整った顔立ちなのかしら。)

化粧っ気なんて全くないのに、肌の質感も目鼻立ちも、透明感まである。

これなら「帝都の上級妃です」と紹介されても、納得してしまうレベルだ。



「……驚いた。あんた、そんな高解像度な顔をして、こんな掃き溜めで何を?」



私が呆れ混じりに尋ねると、彼女は私のバットとリヤカーを見て、一瞬で瞳を輝かせたわ。



「あ……! あなたが、おじ様の話していたマリア様ですね! 私は鲸鱼セラフィマ。この国の風情を正すために、まずは草の根から調査を行っているのです!」



喋ると、年相応かそれ未満の印象だ。

鈴を転がしたような美声は、すっと街中に響き渡る。



鲸鱼セラフィマ、無茶をするなと言っただろう。マリア殿、これが私の姪だ。志は高いのだが、いかんせん自分の『容姿』がどれほど目立つかを自覚していなくてね……」



隣でアルベールが頭を抱えているけれど、確かにこの美貌で隠密調査なんて、無理にも程がある。



「……セラフィマ? 随分と、大層な名前ね」



私はエクス号の引き手を握り直し、深いため息をつくアルベールを横目に、歩き出す準備を整えた。

「セラフィマ」と名乗った彼女の横顔を盗み見ると、あまりに整いすぎていて、この煤けた街並みが背景として追いついていないのがよくわかる。



「いいわ、歩きながら話しましょう。立ち止まってるわけにもいかないし」









「まずは、私の姉である莉杏リアンが……下級妃として連れ去られてしまったという話をさせて」


リリアは布の被り物を強く握りしめ、絞り出すような声で切り出した。

その瞳には、隠しきれない悲しみが刻まれている。



まず、鲸鱼セラフィマの話をまとめるとこう。



もともと莉杏は、この街を牛耳る商家の長男の婚約者という、将来を約束された地位にいた。

しかし、その男は莉杏との婚約を進める裏で、とある属国の女公爵、エミリアとの婚姻話も並行して進めていたのだ。


悲劇が起きたのは初夜のこと。


「俺は、お前を愛せない」と自ら切り出したのは、男の方だった。

しかし、男の裏切りを知った莉杏は、泣き寝入りなんてしなかった。


彼女は凛として、これが重大な「婚約破棄」および「貞操義務違反」に該当することを突きつけ、法的・道義的な落とし前として多額の賠償金を請求した。



けれど、巨大な権力を持つ商家にとって、一人の女の正当な主張などどうでもいい。

彼らは汚い手を使ってその請求をうやむやに握りつぶした。


そして、その直後。

莉杏は「下級妃」として後宮へ連れ去られてしまった。



本来なら一番の味方であるはずの両親は、商家との縁が切れたこと、そして娘が「傷物」として連行されたことを恥じ、一度は憂いを見せたものの、即座に彼女を切り捨てる。


「見損なった」


たった一言。

貴族社会ではよくある話だ。




「……ふん。話を聞く限り、お姉さんの莉杏さんは、大変なことに巻き込まれたのね」


私はエクス号の引き手を握る手に力を込め、隣を歩くリリア――セラフィマをじろりと眺めた。

布の被り物で隠していても漏れ出すその「規格外の美貌」を再確認して、私はニヤリと不敵に笑う。



「ねえ、セラフィマ。それだけ整った容姿を持っているなら、あんた自身が『公式ルート』でお姉さんを迎えに行けばいいのよ。」


「えっ……? 私が、ですか?」



驚いて足を止めるリリアに、私はバットを突きつけるようにして続けた。



「そう。あんたの見た目なら、皇帝陛下の妃の座なんて余裕。……だって今、この国には皇后が不在なんでしょ?少し名前を変えて、化粧でもしたらバレないわよ」


「私が、後宮へ……。でも、そんなことが……」


「あんたを最高位の妃として送り込む……そもそも位の高い貴族なんだからいいでしょ」



私の提案に、隣のアルベールが「なんて無茶なことを!」と泡を吹いている。

でも、この作戦が上手くいけば、根本的にこの国を変えることができるかもしれない。


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