表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/32

澄んだ噴水


「……ふぅん。要するに、この街は『出口のない鍋』と同じなのよ」




私はバットの先で、熱湯が噴き出す地面を軽く叩いた。


老人の話や港の惨状を総合すれば、答えは単純。

汚い源泉が地下に溜まり、行き場を失った熱が街を壊している。





なら、やるべきことはたった一つだ。




「新しい、もっと巨大な『出口』を作ってあげればいい。」




私は港のど真ん中、一番地盤が固い場所へ歩み寄ると、バットを高く掲げた。




「ガイルもストレージもいない。なら、私の演算能力を100%物理に回せるわ。……全回路接続。座標固定。対象、この街の絶望の根源」




私は思い切りバットを地面に叩きつけた。




ドォォォォォォォォン!!!




ただの破壊じゃない。

私の衝撃波は、地下の「汚濁した層」だけを正確に貫き、その下にある深層の「清浄な水脈」まで巨大な穴を開けた。


力技だけど、今は仕方ない。老人とこの街を救える方法はこれしかないから。




「また、爆発……これじゃあ、経営再開もできない……」

「おじいさん、そうじゃないの。ちゃんと前を見てほしい……さあ、立って」



私は腰を抜かしている老人の襟首を掴んで、無理やり立たせた。

確かに、彼からすれば「せっかく残っていた建物まで吹き飛ばされた」ように見えるかもしれない。


でも、私の計算に無駄な破壊は含まれていないはずだ。




「よく見て。立ち上っているのは、さっきまでの汚い硫黄の煙じゃないわ」



老人が恐る恐る視線を上げた先――そこには、

夕日を浴びてキラキラと輝く、水晶のように透き通った水柱が噴水のように高く舞い上がっていた。



「……な、なんだ、この水は……? 冷たくて、それに、信じられないほど澄んでいる……」



老人の震える声が、静まり返った街に溶けていく。


立ち上がったのは、ただの水柱じゃない。

それは、幾千ものダイヤモンドを砕いて空に撒き散らしたような、圧倒的な「輝きの奔流」だった。



「綺麗……なんて言葉じゃ足りないわね」



立ち上る飛沫が肌に触れるたび、刺すような熱気は消え、代わりに清涼感が全身を駆け抜ける。


その水が地表を洗うと、硫黄で焼けて黒ずんでいた石畳は、まるで磨き抜かれた大理石のような白さを取り戻し、街全体が鏡のように空の色を反射し始めた。




港の入り江に目を向ければ、汚濁の膜が剥がれ落ちた海面が、深いエメラルドグリーンに染まっていく。 海底まで見通せるほど透明になったその水の下で、戻ってきた魚たちが星屑みたいに瞬いていた。



「……見て。泥に埋もれていた宝物を、私が少しだけ強引に掘り出してあげたの」



私はバットを杖のように地面に突き立て、光り輝く水のカーテンを見上げた。





(でも……まだ、終わりじゃないよね)


「……あ、そうだ。じいさん、後はよろしく。私、ちょっと片付けなきゃいけない用事があるから」



感動に震える老人をその場に残して、私は港の喧騒へと向かった。







* * *







私はスタスタと港の管理棟へと向かった。

街がどれだけ綺麗になっても、この街の物流が淀んでいる本当の理由を叩き潰さない限り、本当の復旧とは言えない。


バタン! と乱暴に管理棟の扉を開けると、中では役人や従業員たちが、止まったままの荷役計画表を囲んであーだこーだと無駄な議論を戦わせていた。



「なんだこのドチビ! 部外者はすっこんでろ!」

「ガキが迷い込む場所じゃねえ、さっさと消えな!」




(はあ……めんどくさいわね)


浴びせられる罵倒。

私は彼らを一瞥もせず、デスクに積み上げられた「物流管理資料」の束をひったくると、猛烈な勢いでページを捲り始めた。



「な、何をしやがる……!」

「黙ってなさい。」



私は資料の「物流項目」のページを指先で追い、瞬時に矛盾点を抽出していく。



「……やっぱり。ひどい設計ミスね。この『特別優先配送枠』、何なの? 温泉の掘削資材を運ぶために、食料品や衣料品の搬入をわざと3週間も遅延させてるじゃない。しかも、このルート設定……地盤沈下の危険がある場所をわざわざ通らせて、事故を誘発させてる。」



私は資料をバサリとデスクに叩きつけ、驚愕で固まる従業員たちに冷たい視線を向けた。




「いい? 温泉が噴き出したのはきっかけに過ぎない。本当は、あんたたちが私利私欲のために書き換えた腐った物流論理よ。港が温泉みたいになったのも、この無理な資材搬入計画で地下構造を無視して掘らせたからじゃない」




ぐうの音も出ない役人たちの前で、私は管理デスクに置いてあった赤ペンを奪い取ると、資料のデタラメな計画図に巨大な『×』を書き込んだ。




「これ、全部ボツ。今すぐ私が提案する最短・最適化ルートに書き換えなさい。」






十分後。静まり返った管理棟。

あんなに威勢の良かった「ドチビ」呼ばわりはどこへやら、今はただ、私の弾き出した圧倒的な正論に追いつこうと、役人たちが必死に書類を書き換える音だけが響いている。


ただ、まだ談笑している人がいるのは確かだけど。



「……ちょっと、そこ。口を動かす前に手を動かしなさい。この資料の42ページ、流通コストの算出が致命的に間違ってるわよ」




私は役人たちが呆然とする中、赤ペンを走らせながら流れるように指示を叩き込んだ。




「いい? 今すぐ、茶菓子の原料……小麦とサトウキビの輸送ルートを書き換えなさいしなさい。残り40%の陸路分、これも全て海路に切り替える。例外は認めないわ」


「な、なんだと!? 海路は潮風で荷が傷むし、何より損失率が……」


「損失率15%でしょ? データの読み方が甘いわね。今私が冷却した港を使えば、積み下ろしの時間は半分以下になる。陸路でダラダラ運んで、盗賊への対策費を払い、馬の飼料代を垂れ流し、貴重な時間をドブに捨てる……その累積コストを計算したことあるの?」



私はバットの先で計画書の一点を鋭く突いた。



「海路に一本化すれば、盗賊リスクはゼロ、維持費は3割カット、そして何より鮮度が維持できる。15%の損失なんて、陸路の遅延による機会損失に比べれば誤差の範囲よ。」



役人たちは、私の口から次々と飛び出す具体的な数値に、もはや言い返す言葉も見つからない様子だ。



「いい、さっさと入港スケジュールを書き換えなさい。この街の子供たちが美味しい茶菓子を待ってるの。大人のくだらない利権や慣習で、流通のパイプを詰まらせるんじゃないわよ」




私は最後の一文字を力強く書き込むと、資料を役人の胸元に叩き返した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ