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旅の始まり



「よし、パッキング完了!」



私がキャリーバッグの底にギュウギュウに押し込んだのは、最高級のふかふか羽毛布団。


その上に、王家の夜会でも視線を独り占めにするであろう深紅の正装と、魔力を帯びた翡翠の装飾衣を丁寧に重ねる。

あとは、旅の醍醐味であるおやつ——特製のビスケット缶を隙間に差し込んだ。



「マリアお嬢様!? 何をなさっているんですか、そんな破廉恥な……っ、いえ、はしたない格好で!」

「今回の婚約破棄は、ナナリーレス第三王子が勝手に宣った世迷言。どうかお気になさらず!」



壁際でヤジを飛ばしてくるのは、我が儘な私に散々振り回されてきたはずの侍女たちだ。

せっかく「人生の絶頂(自由時間)」を噛み締めているのだから、静かに見守ってほしいものである。



侍女の一人、ナリタが私の手元にある銀貨を凝視して顔をひきつらせた。



「その銀貨……辺境伯領の紋章ですよね。国外追放を命じられたわけでもないのに、なぜそんな準備を?」

「ふふん、いい質問ねナリタ! 感謝するわ!」

「はあ……(嫌な予感しかしない)」



婚約破棄された翌日に、なぜ私がウキウキと荷造りをしているのか。 それは——。



「私はずっと、旅に出るのが夢だったのだ! 婚約破棄という最高の口実ができるまでは忘れていたけれど!」

「……は? 気持ち悪い。」

「旅なんて、護衛もつけずに市井の者が泥にまみれてすることですよ?」



あれ。おかしいわね。

もっと「お供します!」とか「行かないで!」とか、そういう湿っぽい反応が来ると思ったのに。


二人の侍女はあからさまに溜息をつくと、冷ややかな視線で部屋を見渡した。



「第一、部屋の片付けすらできないお嬢様が、魔導書を散らかしっぱなしでどうやって生活するんですか?」

「そうです。旅先では誰も、脱ぎ捨てたドレスを拾ってはくれませんよ?」



「むむむ……!」

私は二人を睨みつけ、脳内シミュレーションを開始する。


手元にあるのは、地下の国家備蓄倉庫から(こっそり)拝借した軍資金。

荷物はキャリー一つにまとめたが、羽毛布団が容赦なく体積を奪っている。


このままでは移動が困難だ。



(……そういえば、裏庭に不法投棄されていたボロボロのリヤカーがあったわね。あれ、使えるわ)



「名案があるわ! 二人とも、耳を貸しなさい!」


どうせいつもの思いつきだろう、と肩をすくめる二人に、私は極秘の「移動プラン」を耳打ちした。


数秒の沈黙。



「……飛行魔法で、リヤカーを浮かせながら旅をする?」

「それなら、リヤカーを引いて歩いた方が魔力の消費を抑えられるのでは!?」



「ちっちっち! 違うのよ。私はリヤカーを『引く』んじゃない。空飛ぶ絨毯みたいに『乗る』のよ!」



私は魔法学校を首席で卒業した才女、ナリタの鼻先に指を突きつけた。


「古代魔法の理論なら、あなたにも解るでしょう?」

「……確かに。リヤカーは構造が単純で、物質としての概念が固定されています。模擬試験でも浮遊対象としてよく使われますし、魔法構築の相性は最高に良い……って、実用化する馬鹿がどこにいますか!」



「もし高度が落ちても、自由落下の加速度を相殺する術式をコンマ一秒で展開すればいいだけだしね」



私がニッコリ笑ってパッキングを再開すると、侍女たちは何かを諦めたように静かに頷き、部屋を出て行ってしまった。

一人残された部屋でキャリーケースを見つめていると、廊下からドタドタと騒がしい足音が聞こえてくる。


人数にして十人ほど。


「バタンッ!」


豪快に扉が開く。

そこに立っていたのは、私を捨てたナナリーレス王子の妹——王女殿下だった。



「あ、マリア様。……お兄様は今、書類仕事で死にかけていまして……」


彼女が差し出したのは、公文書の切れ端。

そこには殴り書きで『……文通をしよう』という、未練がましさ全開の文字が。




(ふふっ……、私が帰還する頃には、この国がひっくり返るような極上の土産話を持ち帰ってあげるわ)



「ごめんなさい。殿下に伝えてくださる? 『文通する暇があるなら、自分のケツは自分で拭け』って」



私は不敵に笑い、ドレスの裾を翻した。

呆然と立ち尽くす王女を背に、私の足音は未来への期待を刻むように廊下へ響き渡る。





この時の彼女たちは、まだ知る由もなかった。



この日、薄汚れたリヤカーに揺られて王都の門を潜った少女が、わずか数年後。


——失われた古代魔法を現代に蘇らせ、世界の魔導体系を根底から覆す「稀代の賢者」として歴史にその名を刻むことを。


——そして、彼女が気まぐれに持ち帰る「土産話」が、一国の存亡、いや世界の理さえも左右する壮大な叙事詩の幕開けとなることを。



「さあ、出発よ! 自由はすぐそこだわ!」

この先も読んで、



「面白い!」

「この先も読みたい!」


と思っていただけたら、ブックマック登録や【★★★★★】評価をよろしくお願いします!!


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あと、いいね(≧∇≦)bも有難うございます!!


           【作者:夜明け前】

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