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言わないだけだよ

作者: P4rn0s
掲載日:2026/01/10

わたしは、よく見るその言葉が嫌いだった。

「ネットでリンチしている人間は、面と向かっては何も言えない臆病者だ」という、あの決まり文句だ。


それは、あまりに都合がいい。

言われている側の尊厳を守っているようで、実のところ、何も見ていない言葉だと思った。


違う。

面と向かって言えないのではない。

言っても通じない、と判断されただけだ。


相手の目を見て、声の調子を選んで、言葉を噛み砕いて、それでもなお届かないだろうと見切られた人間。

理解するための最低限の前提を持たず、説明を聞く姿勢もなく、反論と逆ギレの準備だけを万全にしている人間。

そういう相手に対して、人はわざわざ自分の時間と精神を差し出さない。


だから現実では黙る。

沈黙は恐怖ではなく、合理的な撤退だ。


けれどネットでは違う。

文章は証拠として残り、第三者の目があり、共通の文脈が共有される。

そこでは、相手に「分からせる」必要はない。

ただ「これはおかしい」と線を引くだけでいい。


リンチされているように見えるのは、その線の内側に入れなかったからだ。

議論の場に立てなかったからではない。

最初から立つ気がなく、立てるだけの知性もなかったからだ。


それを「集団心理」「卑怯者」「匿名の暴力」と呼ぶのは簡単だ。

そう言えば、自分がなぜ切り捨てられたのか考えなくて済む。

自分の言葉が、なぜ誰の共感も得なかったのかを直視しなくて済む。


でも、本当に怖いのはそこじゃない。


怖いのは、

「説明される価値すらない」

「対話の対象から外された」

その事実だ。


ネットで叩かれているのではない。

現実で、もう誰にも話しかけられていないだけだ。


それに気づかないまま、

「面と向かって言えないんだろ」と笑っている限り、

その人はこれからも、画面の向こうでしか名前を呼ばれない。


誰も、真正面からは、もう何も言ってくれない。

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