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第七種因果律違反事案:「絶対美の凍結」

 結末が完璧すぎてはならない。完璧な美とは、すなわち、それ以上の変化を許さない『死』だ。──クロノ・マギカ隊 隊長 アウラ・コレット



 第七種因果律違反事案:「絶対美の凍結」



 事案の発生地は、現代美術館の最上階にある、著名な芸術家が晩年を過ごしたアトリエ。

 そこには、彼が『人生の最高の瞬間』と信じて、最後に描き上げた未完成の肖像画が残されていた。

 その残留思念クロノス・ドグマは、「この未完成の美こそが、己の芸術の絶対的な結末フィナーレであり、それ以上の時間の経過は、美を汚す退廃でしかない」という、極端な『美の確定性への渇望』に基づき、アトリエ内部の時間を歪めていた。

 この空間は、一種の『永遠の静止画(エターナル・スナップ)』として固定されている。アトリエ内部の時間は、その肖像画が完成に近づいた『最も美しい瞬間』で停止し、その瞬間の美的な配置(コンポジション)にそぐわない全ての因果律の動き、つまり『変化』を否定する。空間に入った者は、その『瞬間』を乱す『ノイズ』として認識され、行動そのものが、『美の不変性』によって強制的に抑制される。


「隊長、事案名:『クロノス・マニエリスム』。時間の流れが、極めて静的で、過度に装飾的な『美の様式(マニエリスム)』として固定されています。外界時間の一秒は、内部では『静止画の鑑賞に値する永遠』として展開され、隊長の動作一つ一つが、『画の乱れ』として即座に補正されます!」


 カノンは、美術館の地下、空調設備に擬態した場所で、複雑な『美学的因果解析エステティック・アナリシス』を実行していた。彼女の演算によると、アウラ隊長がこのアトリエに入ることは、『美の瞬間』を破壊する『醜い侵入者』という役割に割り当てられており、いかなる攻撃も、『美の防御障壁(ビューティ・バリア)』によって『絵の一部』として吸収されてしまうという。


「奴は、自身の存在、そして作品を『時間という物語の、完璧なクライマックス』として固定しようとしている。芸術家特有の、『自己の完成への強迫観念』が、因果律に感染した形だ。『結末の未確定性』を『退廃』と見なしている」


 アウラは、アトリエの入り口に立つ。室内の光景は、まるで最高級の絵の具で描かれた油絵のように、色彩と構図が異常なまでに『完成』されていた。


「敵は『クロノス・マニエリスム』、時間を、『絶対的な美の瞬間』として永久凍結した残留思念。トリガーは……芸術家が抱いた、『最高の自己が、時の流れと共に劣化することへの、絶望的な拒否反応』だ!」


 アウラは、アトリエの中心、光の最も美しい場所に置かれた、その未完成の肖像画を見据えた。その絵こそが、この凍結された『美の時間』のコアである。



◇ 魔法の行使:変革の筆致ストローク・オブ・チェンジと時間の解放



 アウラは、この『絶対美の静止』から脱却するため、『美の固定』を支える『視覚的な確定性』に対し、『美の概念の拡張』を強制挿入する戦術を選択した。


「カノン、目標地点、肖像画の『最も静的な一点』に対して、『時空間多重露光クロノ・オーバーレイ』を展開!目標は、『結末の未確定性そのものが持つ、動的な美キネティック・ビューティ』! 外界時間比で0.003秒間、肖像画上に、『未完成な美が、未来に向かって変化する無限の可能性』を強制的に重ね書きしろ!」

「了解! ……実行! ──並行描画、開始!」


 カノンが演算を終えると、肖像画が置かれたイーゼルの周囲だけ、一瞬、色が『確定した色彩』であることをやめ、『未来の無数の色彩』の可能性を包含したように、微細に脈動した。まるで、絵筆が置かれる直前の、『選択の自由』が宿った状態だ。

 クロノス・マニエリスムは、その『絶対的な静止美』を、自身の存在基盤としている。この『美の動的な可能性』の強制挿入、すなわち『変化の美』による『静止の破綻』に耐えきれず、『美の様式』から剥離し、肖像画の中心へと凝集し始めた。

 アウラは、その瞬間を待っていた。


「『無限の未完インフィニット・アンフィニッシュ』、発動!」


 アウラのデバイスが、全ての色彩を内包するような、虹色の光を放った。

 ターゲットは、美の核に凝集したクロノス・マニエリスムの質量。

 時間を、『固定された完璧な結末』として凍結させない。『美しさ』そのものを、『未完成で、常に未来へと向かって変化し続ける動的な概念』として一時的に上書きする。

 クロノス・マニエリスムは、凝集する直前の、『完璧な静止』という確定した情報から、『美の連鎖』が強制的に『無限の未完』へと改変され、『結末を持たない、純粋な創作エネルギー』へと変質させられた。

 そして次の瞬間、カノンの魔法が解除される。

 絶対美の静止と、それに続く『無限の未完』

 これは、『完成された美』を否定し、存在の根源を『次の一筆が何になるか分からない、進化の自由』に戻す『時の解放』だ。

 未完と変化のエネルギーを浴びたクロノス・マニエリスムは、「美が」「なぜ」「固定されない」という激しい否定のノイズを発し、その不定形の身体を『芸術の種』、つまり単なる無害な光の粒子及び、ただの『時間の揺らぎ』へと還元させられ、消滅した。



 ◇ ペナルティと代償



「事象収束を確認。外部時間との同期を再確立します」


 カノンの報告に、アウラはアトリエの壁に手をついた。

 彼女の眼前の全てが、一瞬で『最も完璧な美の構図』と『ただの無機質な物理構造』とに、分裂して見えた。目の前のイーゼルが『芸術家が捧げた情熱の十字架』として認識される一方で、『木材と金属からなる三脚』という、極端な機能描写としてしか認識できない。


「隊長!今度は『審美眼の二律背反エステティック・パラドックス』ですか!」

「問題ない。『無限の未完』は、常に『絶対的な静止美の否定』を要求する。完成された美を無力化する代償として、わたしの認識の0.001%が、『完璧な情緒的価値(アート)』と『完璧な客観的機能(リアリティ)』とに分裂させられただけだ」


 アウラは、左右の認識の乖離が収束するのを待つ。それは、因果律の『美の固定性』に干渉する行為が、どれほど彼女自身の『世界への評価軸』を危うくするかを物語っていた。

 彼女たちは、時間を誰かの『絶対的な美の完成』として、凍結させようとする者を罰するのではない。

 彼女たちは、『今、ここにある時間』の、あまりにも自由で、あまりにも尊い『変化し、未完成であり続ける可能性』を守る。

 アウラは、視覚と認識が正常な『美と機能が共存する連続性』に戻ったのを確認してから、カノンに声をかけた。


「撤収。次の『時間の汚染』は、おそらく数週間後、『自分の人生の選択を、唯一の正解として絶対化したいと願った、極端な優位性への渇望』の残留思念が引き起こすだろう。敵は、『選択の物語(モノ・チョイス)』を固定する」


 彼女の瞳は常に、『最も美しい瞬間』で停止するのではなく、『次の一瞬がどうなるか分からない』現在のその一点を見据えていた。それは、『進化の自由』の存在基盤を守る、終わりのない時間の防衛戦である。


最後まで読んで頂いてありがとうございます!

次回更新は2025/12/25 18:10です。

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