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第四種因果律違反事案:「逆説の無限ループ」

 我々が戦う相手は、『時間』そのものではない。時を歪める、我々自身の『渇望』である。──クロノ・マギカ隊 隊長 アウラ・コレット



 第四種因果律違反事案:「逆説の無限ループ」



 事案の発生地は、歴史の記録から消された、とある都市の廃墟だった。

 この場所の時間の流れは、外界と乖離し、局所的に『自己矛盾パラドックス』を内包した無限ループに陥っている。廃墟に入った者は、過去の自分の行動が未来の自分を規定し、その未来の自分が再び過去の行動を繰り返すという、『永遠の連鎖』を、不可逆的な『確定事項』として知覚させられる。それは、予言や幻視ではない。時間が因果の輪を離脱し、強制的に自己を補完し続けているのだ。


「カノン、現在の廃墟内部における『因果率カザリティ・ファクター』は?」


 アウラ・コレットの声は、かつてないほど低く、警戒の色を帯びていた。彼女は、地面に落ちた破片が、一瞬前の位置に戻り、再び落ちるという現象を、慎重に避けながら進む。手元のクロノ・デバイスが、時間軸の循環を示す、不安定な間欠バイブレーションを発している。


「隊長、同期率の計測は困難です。この空間は、因果の連鎖が過剰に自己完結しており、外界時間の一秒が、内部では『無限の繰り返し』として閉鎖しています」


 カノンは、廃墟の最奥、地下の研究施設の陰で演算に集中していた。彼女の専門である『律速演算』は、この『自己完結する因果』に対して、計算結果が永遠に収束しない可能性があり、最大の危機的状況だ。


「敵は『オウロボロス』、因果律の外側から、自身の存在を証明しようと、過去と未来を噛み合わせ続ける『残留思念』です。トリガーは……過去の悲劇を消そうと、『タイムパラドックスの研究に人生を捧げた歴史学者と科学者チーム』におけるリーダーの、『因果律への超越的な渇望』です!」

「『過去の後悔』、『未来の恐怖』、『現在の執着』、そして今度は『因果の渇望』か。奴らは、我々自身の存在の根幹を喰らおうとしている」


 アウラは、廃墟の中心、時間の流れが最も捩れている空間を見据える。そこには、過去と未来の自分が同時に存在し、お互いを指差すという、矛盾を絵に描いたような光景が、黒い影として凝集していた。これに触れれば、その者はその座標で、自身の存在そのものがパラドックスの渦に巻き込まれ、消滅と再生の永遠の連鎖を強制的に体現させられる。



◇ 魔法の行使:矛盾の収束と解放



 アウラは、因果の輪が最も固く閉ざされている、自己矛盾空間の中央、『オウロボロスのリング』を予測した。


「カノン、目標地点の時間を『無限解放インフィニット・リリース』と『無限収縮インフィニット・クロック』の同時展開! 目標、外界時間比、両極で1.0 \times 10^{6}(10の6乗)!」

「了解! ……実行! ──超並列展開、開始!」


 カノンが演算を終えると、オウロボロスのリングの内部だけ、時間が極限まで加速(解放)し、同時に減速(収縮)した。外側から見れば、変化はないが、内部では一秒が百万秒に圧縮され、同時に百万秒に引き延ばされている。これは、因果律そのものに対する『量子的な不確定性』の強制注入だ。

 オウロボロスは、確定した因果の閉鎖をセンサーとする。この極端な不確定性に耐えきれず、因果の輪から引き剥がされ、中心部へと凝集した。

 アウラは、その瞬間を待っていた。


「『局所的零点化ローカル・ゼロ』、発動!」


 アウラのデバイスが、白く、無色の光を放った。

 ターゲットは、超加速と超減速の狭間に凝集したオウロボロスの質量。

 時間を、遡及も解放もさせない。因果律そのものを一時的に『存在しない』状態へと、ほんの0.001秒だけ還元させる。

 オウロボロスは凝集する直前の、『過去と未来の自分が噛み合う確定情報』の状態から、因果の鎖そのものが一時停止した『単なる情報』へと変質させられた。

 そして次の瞬間、カノンの同時展開魔法が解除される。

 両極端な時間操作と、それに続く『因果の零点化』、これは、自己矛盾を否定し、存在の根源を白紙に戻す『無の刃』だ。

 圧縮と解放、そして零点化のエネルギーを浴びたオウロボロスは、「何故だ」「わたしはどこに」という戸惑いのノイズを発し、その不定形の身体を『因果の残骸』、つまり単なる無害な真空エネルギー及び空間の振動へと還元させられ、消滅した。



◇ ペナルティと代償



「事象収束を確認。外部時間との同期を再確立します」


 カノンの報告に、アウラは全身から力を抜いたように、深く息を吐いた。

 彼女の身体の、左半分の皮膚が、一瞬で乾燥し、まるで数十年経過したかのように皺が寄り、右半分の皮膚は、赤ん坊のように滑らかで未分化な状態となった。


「隊長! 今度は『存在の因果分裂カザリティ・スプリット』ですか!」

「問題ない。『局所的零点化』は、常に『存在の因果律からの離脱』を要求する。因果の連鎖を無力化する代償として、わたしの存在の0.001%が、『過去の自分』と『未来の自分』とに分裂させられただけだ」


 アウラは、左右で極端に異なる自身の皮膚を、ただ静かに見つめる。それは、因果律そのものに干渉する行為が、どれほど彼女自身の『連続性』を危うくするかを物語っていた。

 彼女たちは、時間を操作しようとする者を罰するのではない。

 彼女たちは、『今、ここにある時間』の、あまりにも複雑で、あまりにも絶対的な『因果の連続性』を守る。

 そして、その戦場には常に、『因果から解放されれば楽になる』という、人類が生み出した最も根源的な『存在の渇望』の残滓が、漂っているのだ。

 アウラは、左右の皮膚が収束し、正常な状態に戻ったのを確認してから、カノンに声をかけた。


「撤収。次の『時間の汚染』は、おそらく数ヶ月後の、『時間を神と崇めた教団』の残留思念が引き起こすだろう」


 彼女の瞳は、常に連鎖し、決して断ち切れない現在のその一点を見据えていた。それは、終わりのない、時間の防衛戦である。

最後まで読んで頂いてありがとうございました!

次回更新は2025/12/22 18:10です。

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