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蜂の巣と聖女の護衛  作者: 朝霧


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ちょっとした昔話

 ここでちょっとした昔話を。

 昔々とは言っても今から十五年と少し前、御年九十九歳の聖女様がお亡くなりになられました。

 聖女とは世界に必ず一人だけ存在する特別な力を持った女性です。

 前の聖女が寿命で亡くなった場合、直後に生まれた赤子が新たな聖女に。

 前の聖女が寿命以外で亡くなるかなんらかの理由でその力を使い果たした場合、その聖女と同じ歳の女性が新たな聖女に。

 御年九十九歳でお亡くなりになられた聖女の次の聖女は、赤子として生まれました。

 聖女として生まれたその赤子は、本来なら国に保護され、国のためにその力を振るうべき存在だったのでしょう。

 しかし、そうはなりませんでした。

 どういう経緯なのかは一切合切不明なのですが、聖女として生まれたその赤子は、何故か十二歳になるまでの期間、とある犯罪組織で飼われることになりました。

 赤子の親が組織に売り渡したのか、それとも誘拐でもされたのか、真相はもう、闇の中。

 赤子は窓のない部屋に閉じ込められたまま、部屋に運び込まれる人々の傷の治療だけをやらされていました。

 それがおかしいことだなんて思ってもいませんでした。

 当たり前のように外の世界なんて知らないまま、やってくる人々の傷を装置のように癒やし続けました。

 その装置に名前などありませんでした。

 ただ失った手足すら治すその奇跡じみた治癒魔法が由来なのか、稀に天使と呼ばれていました。

 一人だけ、装置に名前がないと知った変わり者だけが、死んだ孫娘の名前でその装置の名を呼び始めました。

 ある日のこと、装置が十二歳になった頃、組織が壊滅しました。

 装置のことを死んだ孫娘の名で呼ぶ変わり者は、傷だらけの身体で装置を連れて逃げ出しました。

 そのまま装置とその変わり者が何もかもから逃げ切って、どこかの田舎町にでも移り住んで普通に生きることができていたのなら、きっとそれはそれで幸福な結末だったのでしょう。

 けれども、変わり者は装置を置いて死にました。

 装置を庇って死んでしまったのです。

 治す以外になんの能もない、それだけしか存在意義がなかった装置でも、死者を生き返らせることは不可能でした。

 変わり者の遺体の前で、装置はただ立ち尽くしていました。

 立ち尽くす装置の周りで、たくさんの人が争っていました。

 やがて、争いは終わりました。

 争いに勝った人達が、あらゆる傷を癒す装置を手に入れました。

 装置ではなく聖女という名で、入手ではなく保護という形で。

 それから色々あって、聖女と呼び名を改めることになったその装置は、一部の人間に大層嫌われたまま魔王との最終決戦に挑み、その決戦で消息不明になりました。

 消息不明となったその装置は、その後記憶を失った状態でとある少女に救出され極々普通の学生として生きることになったのですが、そのあたりは長いので割愛とさせていただきましょう。

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