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蜂の巣と聖女の護衛  作者: 朝霧


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2/17

入学式当日

 翌朝、入学式当日。

 友人三人と一緒に水晶の間に向かうと、教職員の方から一枚のプリント、クラス表を渡されました。

「アタシB組……ってかまーたミルと同じクラスなんだけど」

「あ、本当だ……離れたのは結局去年の一年だけだったな。……ええと、ココとタマは」

「私はA組でした、ココさんは……」

「あ、わたしもA組だ。やった、友達いると心強い」

 中等部三年の頃に同じクラスだったフレーズさんは別のクラスへ、代わりにココさんが同じクラスに。

 この学園というか私の人生で初めての友人とクラスが分かれてしまったことは地味にショックですが、その代わりにココさんと一緒ならまあいいかとも思います。

 ココさんはおとなしめに見えて意外と図太い、ではなくて心が強くて芯がしっかりした方なので。

「心強いのは私の方ですよ、ココさん」

 ココさんにそう言うと彼女は柔らかな笑みを浮かべました。

 友人が少ないとかその他色々あるのですが、聖女の件も含めてどうしようもなければ頼りにしたいのです、申し訳ないとは思いますけど。

 と、そこでフレーズさんが「げえ」と叫びました。

「うちらのクラス、ファンタスティック毒野郎と格闘バカと爆破三連の真ん中がいるんだけど!!」

「え? マジか……マジだ」

 B組にうちの寮の結構わかりやすい方の危険人物がいってしまったようです、お気の毒に。

「えー、ショック……ニグルムならタマかおばけちゃんがよかった……」

「格闘バカは去年同じクラスだったけど、意外とそこまで酷くないぞ」

「そうらしいけどさあ、むさ苦しいじゃん」

「ファンタスティック毒野郎と同じクラスかあ……えーと、うちのクラスは」

 ココさんがそう言いながらクラス表を見て、少しして「あ」と呟きました。

「どったのココ。ひょっとしてニグルムのヤバい奴がそっちに行った?」

「ううん。……ええと、中等部からいるニグルム寮生、うちのクラスはタマさんだけみたい」

「マジで? 羨ましい。……ほーんどれどれ…………って、ああーー!!」

 クラス表を見たフレーズさんが少しして大きな声で叫びました。

 多分気付いたのでしょう。

「なんだ急に大きな声を出して」

「いやだって!! ここ見て、ここ!!」

 フレーズさんに指差されたところを見たミルティーユさんが目をまん丸に見開きました。

「マリーナ・ローズドラジェ……って、聖女様か。そうかA組なのか聖女様」

「そこもだけどその横、寮!!」

「寮? ……うわっ」

 実はクラス表の各生徒の名前の横には、色付きのマークが付いています。

 白がアルブム、カエルレウスが青、ルブルムが赤、ニグルムが黒です。

 事前に寮長から聞いていたので知っていましたが、本当にニグルム寮なのですね、今代の聖女。

「え、聖女様ってニグルムなの……? それって大丈夫?」

 フレーズさんが心底心配そうな声でそう溢しました、ニグルムは少数精鋭の変人軍団なので無理もありません。

「……うちのクラスのニグルム寮生は私を除けば他三人は外部生なので、授業中は多分大丈夫なのではないでしょうか?」

 言外に寮では大丈夫じゃなさそうな事を言うと、フレーズさん達は「うわあ」という顔をしました。

 ちなみに聖女様以外の名前をチェックしてみると、気になる名前がちらほらと。

 マリーナ・ローズドラジェ、そして私を除いたニグルム寮生は二人。

 ユーイン・ウッドハウスとジル・トープ、こちらはどちらも知らない名前ですが、どちらかが聖女と一緒に入学するらしい護衛の方なのでしょう。

 それよりも気になったのはこの三名の名前でした。

 ルブルム寮生、クリノ・カーマイン。

 カエルレウス寮生、カイト・デイドリーム。

 アルブム寮生、ダンビュ・エクリュ。

 この三人の名前は知っていました、聖女を守る四騎士の名前だったので。

 つまり、聖女と聖女の護衛四名がA組に大集合という事です。心強いような全然そうでもないような。

 唯一名前がないアダマス・グラファイトに関しては……おそらく学園生活なんて窮屈な生活は嫌だ嫌だと大いにごねて護衛役から外れたのでしょう、四騎士のくせに。

 なのでおそらくウッドハウスさんかトープさんが彼からその護衛役を押し付けられた方なのでしょう、かわいそうに。

 かわいそうと言いつつニグルム寮生になったということは相当癖の強い人であるに違いありません。

 けれども、安心しました。

 もう二度とその顔を見たくないというのは嘘ですが、アダマス様がいなくてよかったです。

 とはいえ、もしどこかで遭遇したところで私のことなんてわからないのでしょうけど。


 友人達とクラス表を見て盛り上がっていたら、教職員の方にそんなところに居座るなとお叱りを受けてしまったので、水晶の間に入りました。

 クラスごとにまとめられた椅子に座っていろとのことだったので、ココさんと隣同士に座ります。

 B組の二人とは少し席が離れてしまいました、もう少し近ければ開始時間まで四人でお話しできたでしょうに。

「……ねえタマさん、ひょっとして知ってた?」

 会話の途中でそんな事を聞かれました。

「……バレてしまいましたか」

「あんまり驚いてなかったから、もしかしてと思って」

「そうですか……。ええ、実は昨日の夜、うちの寮長から聞かされていました。他に誰が同じクラスなのかまでは聞いていなかったのですけど」

「そっか。……まあ、なんというか、その……妥当、だよね。……ニグルム寮生の人達って、タマさん以外その……」

「私以外のニグルム寮生が外部生しかいないのもそれが理由みたいですね」

「そっかあ……それにしても聖女様がニグルム寮生になるとは……うちかカエルレウスかと思ってた」

「私もそう思ってましたし、うちの寮長も同意見だったみたいです」

 ココさんとそんな話をしているうちに入学式開始の時間がやってきました。


 つつがなく入学式は終わりました。

 学園長の話が長くて寝そうになった事以外、トラブルは起こりませんでした。

 聖女を狙った悪者が現れ爆破三連三つ子娘にドーーン!!! されるみたいなことにならずにすんでよかったです。

 式が終わった後は各クラスに移動、高等部の校舎にはほとんど来たことがありませんでしたが、中等部とあんまり変わったところはなさそうでした。

 A組の担任は中等部の頃に時々寮長から話を聞いたことがあるお爺ちゃん先生でした。

 まったりおじいちゃんという印象の方ですが、ものすごい実力者であるのだとか。

 自己紹介や授業に関する説明は明日になるそうで、担任の簡単な挨拶が終わった後、解散の流れになりました。

「外部生のルブルムりょーせーのひとー。寮の場所とかわかんなかったら案内するぜー」

 名前は知りませんが顔だけはなんとなく知っているルブルム寮生の男子がそんな事を言いながら片手を上げました。

 そんな声が上がった後、顔だけは知ってるカエルレウスとアルブムの寮生が続けて似たような事を言い始めました。

 どうしましょう、中等部からこの学園に在籍しているニグルム寮生は私だけなのです。

 こういうのは本来なら筋肉バカかドラゴン内臓愛好クラブ部長の役目ですが、二人ともいないのなら仕方ありません。

「えーと……ニグルム寮生で寮の場所の案内が必要な方〜」

 反応はありませんでした。

 ちょっと悲しいです。

 ちなみに聖女様は何人かの生徒に話しかけられているようでした。

 ……ひょっとして、気付かれなかったのでしょうか?

 大丈夫だからスルーされたのか、気付かれなかったのか。

 このまま一人で寮に帰っていいのか、ですが寮長に頼まれていますし。

「おい」

 と悶々と考え込んでいたら、後ろの方から声をかけられました。

「はい」

 振り返ると黒いネクタイの見覚えのない男子生徒が立っていました。

「アンタ、ニグルム寮の人? 内部生の」

「はい」

「場所、よくわかんないから案内よろしく」

 男子生徒はぶっきらぼうな声でそう言いました。

「はい」

「オレ、ユーイン・ウッドハウス。アンタは?」

「タマス・ティールです」

 簡単に名乗り合いました、一見だいぶまともそうな方ですが、それでもニグルム寮生なので油断はできません。

 聖女様は相変わらずお話しモード、声掛けが必要か不要か悩んでいると、それに勘付いたらしいウッドハウスさんが聖女様の方を見ます。

「おい、そこの聖女。寮の場所わかるのか?」

 怒鳴り声とは言いませんが、よく通る大きな声でした。

 聖女様は突然大声で話しかけられて少し驚いたようでした。

「そこの親切な内部生の人が案内してくれるってさ。不要っていうのなら別に置いていくが」

 ぶっきらぼうですが理性ある言葉でした、どうしようすごくまともです。

 というか彼女への声かけは本来私がやるべき事、それを自然に引き受けてくれたウッドハウスさんってすごくいい人なのでは。

 聖女様は慌てて立ち上がった後、集まっていたギャラリーの人達に「お話はまた後日に」と言いました。

「申し訳ございません。実はよくわかっていないので、案内していただけるととても助かりますわ」

 こちらにてくてく近寄ってきた聖女様がそう言います。

 近くで見ると美しい方でした。

 虹色に輝いて見える銀色の髪とオーロラ色の目、それは聖女の力をその身に宿した者だけが有する色です。

 近くで見ると本当に美しい、その色がなくても元が綺麗な顔立ちをしているため、先代の聖女と違って本当に美しい人だな、と思いました。

 その美しさに見惚れて少しの間言葉を失う程度には。

「……それでしたらご案内いたします。……ええと、ニグルム寮生はあと一人いるはずですが」

「ああ、ジルですわね。……ジル!! こちらの方が寮まで案内してくださるそうなので、あなたもきなさいな」

 聖女様が窓際の女子生徒にそう声をかけました。

 声をかけられた女子生徒は小さく溜息を吐いた後、立ち上がってこちらに寄ってきました。

 黒い髪に黒い目の、かわいらしい方でした。

 とても可愛らしい方でした、ええ、本当に。

 だから、何か聞かれたらその美貌に目を奪われてしまった、ということにしましょう。

 見覚えがありました。

 すごくすごく見覚えがありました。

 聖女を守る四騎士のうちの一人、この学園には入学しなかったその人。

 少女の姿をしたその人は、アダマス・グラファイトに瓜二つでした。

 アダマス・グラファイトをそのまんま性転換したような見た目の女の子。

 彼に双子の妹か姉がいたら多分そんな感じの見た目の少女になるのだろう、というような見た目です。

 というかおそらくというかただの直感なのですが、あれアダマス・グラファイト本人なのでは?

 あの人に姉妹とかいなかったはずなので。

 私が知っているアダマス・グラファイトという人は男性だったはずなのですが、実は女性だったのでしょうか?

 女装男子、もしくは男の娘はエレクトリックフェアリーだけで十分なんですけどね。

 というか色んな意味で増えないでいただきたいのですがね、下手するとうちの寮の電化製品が全滅するので。

 そんなニグルム寮生第二の男の娘説のあるその生徒の目が私の姿を捉えた時、大きく見開いたように見えたのはきっと気のせいでしょう、そうに違いありません。

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