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蜂の巣と聖女の護衛  作者: 朝霧


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後日譚

 後日譚とやらを語ってみましょうか。

 聖女を狙った襲撃事件というかスライム巨人事件から数日、学園はすっかり平和を取り戻しました。

 数日は事後処置でバタバタしていましたし、校舎が一部壊れたりなんだかんだ色々あったので、三日ほど授業が休みになりました。

 休みになったことではしゃぐ生徒が多い中、大きな秘密を抱えたスライム巨人事件の例の四人は気が気ではありませんでした。

 例のあれについて寮長と聖女様、そして学園長が話し合った結果、エレクトリックフェアリーへのカミングアウトは聖虹宮で行われることになりました。

 こうなってしまったのは自分のくだらない冗談のせいだからと、聖女様が自ら責任を負ってくださったそうです。

 そして、必死で止める寮長の言葉を完全に無視してアダマス様を女生徒に仕立て上げやがった国のお偉いさん達もその場に招集されることになりました。

 その場で何が起こっても責任はわたくしが負う、誰に何が起こってもうちの生徒の将来に悪影響は絶対に及ばさないようにする、とまでいってくださったそうです。

 そうして授業お休み二日目の今日、とうとうカミングアウトの時となりました。

 私を含めたあの時の四人は庭園東エリアに集まって、その時をただ静かに待っていました。

 全員が神妙な顔付きをしています、日課の散歩でたまたま来たらしいウッドハウスくんが見てはならないものを目撃したような顔で慌てて引き返して行きました。

 それから数分後。全員のスマホが一斉に通知音を響かせました。

「きた……!!」

 誰がそう言ったのかも確認せずにスマホの画面を見ます。

 グループ名「例の秘密を知る者」に新たなメッセージが。

 メッセージを送ってきたのは寮長、その内容は以下のとおりです。

 『聖虹宮への誘い込み無事成功。終わり次第おって連絡する』

 寮長は「止めきれなかったのはボクの罪だ、甘んじてあの雷地獄を受ける」と言っていたそうなのですが、聖女様が「あなたは全力で止めてくれていたのだから」とカミングアウトを行う場に立ち会わず、ただあの妖精を聖虹宮に連れていくだけで、以降は建物外で待機するということになっていました。

 あの妖精は一度完全に放電すればおとなしくなります、そのあとネチネチと嫌味攻撃をすることはありますが、雷地獄を連発するようなことは基本ありません。

 つまり、どうにかなりました。

 成功です。成功しました。私達、そして私達の電化製品に危険が及ぶ可能性はほぼ無くなりました。

「よっっっっっっしゃああああああああ!!!!」

「ばんざい!! りょーちょーばんざい!! せいじょさまばんざい!!」

「……よ、よかった」

 翅中毒が叫びながらガッツポーズを決め込み、一人お化けが両手をあげてはしゃぎ、毒野郎が心底安堵した顔を両手で覆いました。

「どうにかなりましたか……」

 ここ数日、気を張っていた元凶がようやく消えてくれたので、全身から力が抜けました。

 無理矢理女性に変身させられていたアダマス様のことは心底可哀想だと思いますし、聖女様や連帯責任でついでに連れて行かれた他の四騎士の方も可哀想だとは思いますが、それでも自分達があれに巻き込まれずに済んだことへの安堵の方が大きかったです。

 聖女様がいれば誰かが死ぬことはないでしょうし。

 そのまま四人全員で心の底から安心しきって、いつのまにかお祭り的なムーブに。

 全員で購買に駆け込んでジュースやらお菓子を買い込んだ後、乾杯を決め込みます。

「乾杯!!」

「ばんざい!!」

「聖女様万歳!!」

「寮長万歳!!」

 美ジュースを全員で一気飲みして、買ってきたお菓子の袋を開けまくって貪ります。

 カミングアウトの前にあの妖精にバレるかもしれない、そんな心労からあんまり食欲がなかったのですが、今はなんでも気持ちよく喉を通っていきます。

「あー……やっと、やっと本当の意味で平和が戻ってきた気がする」

「ずっとこころがおもかった……」

「気が気ではなかったからな、あれからあの瞬間まで」

「本当ですね……ああ、何はともあれ、どうにかなってよかったです」

 そんなふうに言い合って、全員で笑いました。

 そのまま飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎに突入、この前の食虫植物さん (仮)が騒ぎを聞きつけ何事かと様子見に来た後、慌てて逃げ帰っていきました。

 宴は寮長から再度連絡が来るまで続きましたとさ。


 その日の夕方、寮長達が戻ってきたという連絡が来た後、様子見に行った方がいいのかと悩んでいるうちにスマホにメッセージが届きました。

 相手はあの後ほぼ無理矢理連絡先を交換させられたアダマス様です。

 どこにいる、と聞かれたので素直に部屋だと答えると、訓練場に来いと返信が。

 おとなしく言うことを聞いて訓練場に赴くと、非常に疲れた顔のアダマス様が待っていました。

「お疲れ様です」

「……あいつ、頭おかしいだろ」

 全体的にぐったりしていました、一体どんな地獄を見たのやら。

 ふらりと歩み寄ってきたアダマス様が私の身体を抱きしめました。どれだけ恐ろしい目にあったのでしょうか、想像したくもありません。

「……正直舐めてた、あそこまでだとは思ってなかった……お偉いさん共がビビり散らしてたのは笑えたが、それどころじゃなかった」

 私達四人が飲めや歌えのどんちゃん騒ぎをしている間に酷い目にあったのでしょう、こんな彼を見るのは初めてでした。

「死なずに済んでよかったですね」

「……雇い主がいなかったら俺と他何人か結構やばかったがな」

「そうですか……ちなみに人以外の被害は?」

「学生相手だからと舐めてたお偉いさん共のスマホが全部ぶっ壊れた」

「あらまあ、忠告されていたでしょうに」

 アダマス様と聖女様だって私と寮長の忠告を聞いてスマホを寮に置いていったというのに。

 たかが学生と侮ったその人達が全面的に悪いでしょう、あの妖精のブチ切れのせいでうちの寮の電化製品が全滅したという話は通っていたはずなのです。

 それで結局どうなったのかを聞いてみると、エレクトリックフェアリーのブチ切れもあってアダマス様はアダマス様として学園に通うことになったそうです。

 実はトープさんの正体が男性で四騎士のうちの一人だったという話は後々説明されるとのこと。

 トープさんが諸事情あって退学、その代わりにアダマス様が転入……という話にするという案もでかけたらしいのですが、それを聞いたエレクトリックフェアリーがキレたのでその案は無しになったそうです。

 既に出来かけていたトープさんのファンクラブの人達は泣くのだろうなと思いました。

 代わりに女子の間でアダマス様のファンクラブとかができるかもしれません、顔がいいので。

 まあ、その辺りがどうなろうと私には関係ないんですけどね。

 それからしばらく彼はだんまりを続けました、心労が凄まじいのでしょう。

 すっかり日が暮れた後、ようやく彼は私を解放しました。

 そしてこちらの手を掴んだ後、小さく「飯」とだけ言って歩き始めました。

「あー、すみません、今日は」

「あ?」

 さっきまでたらふくお菓子を食べまくっていたので夕食は抜く気であることを伝えようとしたら苛立ちを全く隠さない顔で睨まれました。

 おとなしくついていった方が無難でしょう、食事は無理でも少しの水分ならまだ入りそうですし。

 彼はなんでか私と一緒に行動したがりました。

 それが嫌い以外の感情によるものなのか、他に何か理由があるのかは知りません。

 理由を聞こうとは思いませんでした、聞いたところできっと答えてはくれないでしょうし。

 別にどうでもいいんです、彼がそう望むのならそれで。

 昔からそうだったので。

 私達は互いに互いの言動で絶対に許せないことがあって、その決着は多分、まだついていません。

 少なくとも私は許していないのです、私の一番大事なものをくだらないといった彼のことを。

 けれど少なくとも私は一旦怒りを呑み込んでおくことにしました。

 彼が私に嫌い以外のなんらかの感情を抱いているのなら、私のこれまでの所業は確かに、簡単に許してもらえないことでしょうから。

 彼が今何を思って私をそばに置こうとしているのか、その真意は掴みきれません。

 きっと一生私のことを許してくれないのでしょうね。

 何の贖罪にもならないでしょうけど、それでも彼がそう望むのなら、私は何をされても彼のそばにいようと思います。

 正確には私に何をされても、ですけど。

 そんな私の真意に気付いたのか気付いていないのか、彼は私の手を握る力をほんの少しだけ強めました。

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