↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サバ缶食ってりゃ死なねぇだろ!……たぶん。  作者: さかき原 枝都は


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/56

第13話 第一章 サバ缶と不思議な出会い

 週が明けて、社内の空気はいつも通りだった。

 だが、私の心はいつもと違う。

 昨日の午後、智春さんと二人きりで資料整理をしたこと。

 それが、頭の中で何度も再生される。


 ――仕事中なのに、顔が熱い。


 朝、デスクに座ると、同期の香織が小声で囁いてきた。

「野上さん、昨日、池上さんと一緒に会議室にいたでしょ? ちょっと噂になってるよ」

「えっ……な、何の噂ですか?」

「『あの二人、距離近すぎる』って……」

 耳まで真っ赤になった。

 まさか、社内で勝手に「接近しすぎ」認定されているなんて。

 でも、よく考えれば、確かに机の距離は近かった。手が触れそうになる瞬間もあった。


 そんな時、向かいの部屋の窓から智春さんが顔を出す。

「おはよう」

「おはようございます……!」

 思わず小声で返す。

 周囲に同僚がいる中での挨拶は、やけにドキドキする。


 でも、この距離感もまた、心地よい。

 社内で距離を保たねばと思う反面、向かいの部屋ならちょっとしたハプニングも許される――そんな甘い妄想が膨らむ。


 昼休み。

 社内カフェでランチを買いに行くと、偶然智春さんと鉢合わせになる。

「お、野上さん。今日もここか」

「はい……」

 カートを押す手が少し震える。

 昨日までのデート気分の名残が、まだ胸の中でくすぶっているからだ。


 智春さんは、平然とコーヒーとサンドイッチを選ぶ。

 その天然ぶりに、私の心臓はますます混乱する。


 午後、再び会議室での作業。

 同僚は別の業務でいないため、また二人きりになる。

 資料の整理をしながら、私は心の中で小さくつぶやく。

 ――もう、どうしてこんなにドキドキするんだろう。


 彼は相変わらず鈍感で、時折私の視線に気づかずに書類をめくる。

 その無自覚さが、もどかしくておかしい。


 作業中、ふと外から声が聞こえた。

「野上さん、智春さんと仲良いね~」

 誰だ……?

 カーテン越しに外を見ると、同期の女子たちがコソコソ笑っている。

 社内で噂になっていることを、どうやら窓越しに察知されたらしい。


 ――や、やめてよ……!

 思わず顔を手で覆う。

 でも、智春さんは何も気にせず、相変わらず無表情で書類を整理している。

 その鈍感さに、さらに胸がキュンとする。


 作業がひと段落して、彼が資料をまとめ始める。

「じゃ、今日はここまでかな」

「はい……お疲れさまでした」

 言葉は普通でも、心臓の音はいつもより速い。

 ふと視線が合い、彼の目が少し笑っているのを見つけた瞬間、頬が熱くなる。


 帰り際、向かいの部屋のドアの前で立ち止まる。

 彼は小さく振り返って、手を振る。

「じゃ、また明日」

「……はい」

 ドアが閉まる瞬間、心の中でため息が漏れる。


 ――ああ、もっと近づきたい。でも、社内では難しい。

 向かいの部屋なら、もう少しだけ自由なのに。


 夜、ベランダに出る。

 向かいの部屋のカーテンが揺れる。

 夕暮れの光の中で、彼のシルエットが見える。

 私は思わず胸が高鳴る。


 ――今日も彼と同じ時間を過ごしているんだ。

 それだけで、心が満たされる。


 翌朝、会社でまた偶然会う。

 噂は少し広まっているらしく、同僚の視線を感じる。

 でも、智春さんは全く動じない。

 その鈍感さに、私はまた笑ってしまう。


 午後、再び資料整理のために二人きりになる。

 私は小さなメモ帳を取り出し、心の中で計画を立てる。


 ――今日もハプニングを起こそうか。

 少しだけ近くに座ろうか。

 彼の注意を引くチャンスは、今しかない。


 作業中、ふと彼が「これ、ちょっと手伝ってくれ」と近づく。

 距離が近い。

 肩が触れそうで、息が止まりそうになる。

 手を差し出された瞬間、私は思わず心の中で叫ぶ。


 ――智春さん、なんでそんなに無防備なの!


 彼は何も気づかず、淡々と資料を整理する。

 その無自覚さに、笑いをこらえるのが精一杯だ。


 午後五時。

 作業が終わり、帰宅の時間。

 向かいの部屋での小さなハプニングは、今日も私の心を刺激してくれた。

 社内での噂はあるけれど、私にとっては些細なこと。

 それよりも、智春さんと過ごす時間が、何よりも大切だ。


 ベランダに戻ると、向かいの部屋のカーテンがまた揺れる。

 夕暮れの光に包まれて、彼のシルエットが映る。

 私は心の中でそっと呟く。


 ――明日も、また会えますように。

 向かいの部屋での、ささやかな幸せが続きますように。


 こうして、社内での噂と向かいの部屋の小さな日常が、私の心を忙しく揺さぶる。

 恋心はまだ言葉にできないけれど、確かに育っている。

 智春さんとの距離が縮まるたび、胸が高鳴る。

 向かいの部屋と会社の二重生活――そのどちらも、私にとっては宝物だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。