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第32話:拘束される


巨大な火球がネロへと逆流してきた。

彼は両腕を大きく広げ、魔法《水の盾》を詠唱する。瞬く間に水流が身体の周囲に湧き出し、生き物のように渦を巻き、次第に球状の水の盾を形作っていく。

だが完成するよりも早く、火球が直撃。轟音と共に再び激しい爆発が起こった。


爆発の衝撃波は辺り一帯に広がり、周囲の建物を震わせ、数え切れぬほどの窓ガラスが粉々に砕け散る。

この時点で、もはや単なる口論や小競り合いの域は完全に超えていた。


ネロの身体は爆風に吹き飛ばされ、高所から石畳の街路へと叩きつけられる。

その様子を目撃した冒険者や兵士たちは慌てて駆け寄り、動かぬ彼の身体を見下ろした。

頭に浮かんだのはただ一つ――戦いは終わったのか?


「勝ったか?」

空中に浮かぶレンが、反応のないネロを見下ろす。


《スキル解除:紅雷神剣》


システム音声が響くと同時に、レンの周囲を包んでいた紅いオーラと頭上の雷雲は徐々に消え、空気は平穏を取り戻す。

紅雷神剣も元の銀色のクレイモアへと戻った。


レンはゆっくりと地面に降り立ち、剣を手にしたまま真っ直ぐネロへと歩み寄る。

とどめを刺そうとしたその時、ひとりの男が前に立ちはだかった。

黒髪に白髪が混じり、薄い口髭をたくわえた中年の男。軍服を纏い、左胸にははっきりとした部隊章が輝いている。


「失礼だが、少々お話をさせてもらいたい」

落ち着いた声でそう告げると、周囲を兵士たちが取り囲み、一斉に武器を構えた。


「あなたは?」

剣を下げつつも冷静な眼差しで、レンが尋ねる。


「私はロイド・ストリング。リベイア第一駐屯部隊の隊長だ」

ロイドは重々しい声で告げる。

「あなたはこの街の規律をいくつも破った。

第一に――市街での争いを起こし、市民を危険に晒したこと。

第二に――戦闘によって複数の建物を破壊し、損害は数百万セリンにのぼること。

そして最後に――あなたは子供を一人殺した」


「損害は私が弁償する。しかし他の件については――」

レンは一瞬言葉を切り、低く呟く。

「あそこに倒れている子供はただ者じゃない。しかもまだ生きている……だから退いてくれ」


ロイドは眉をひそめ、意味が分からず戯言だと判断した。

「何を言っているのかさっぱりだ。……おい、拘束しろ!」


号令とともに兵士たちが一斉にレンへと迫る。


「待て、誤解だ! 私はテロリストじゃない、話を―― 本当は俺は――」


!!!


レンは突如、殺気を感じ取った。

右手でロイドの身体を押し飛ばした瞬間、反対方向から風属性の魔法刃が飛来し、レンの右肩を深々と切り裂く。血飛沫が激しく舞う。


膝をついたレンは左手で傷口を押さえる。

全員の視線が刃が飛んできた方向へと向かい――そこには、死んだと思われていた少年が、まるで無傷かのように立ち上がっていた。


「まさか、その剣にそんな仕掛けがあるとはな……面白い」

ネロは興奮気味に笑みを浮かべる。

百メートル以上の高さから落ちても平然と立っている――そんな人間などいるはずがない。


「……ネロ!」

肩の傷を押さえながら、レンは震える声を上げる。


彼は悟った。

ネロは杖も詠唱もなしに魔法を操り、しかも複数の属性を同時に使える――それは、森で最初に遭遇した“あの魔力”と同じだった。


「こいつが……あの時の“第三の手”か」

レンは心中で呟く。

同時に《ヒーリング レベル3》が自動で発動し、裂けた傷口はみるみる塞がり、溢れた血も空気中に溶け消える。わずか五秒足らずの出来事だった。


その様子を見て、ネロは興味深げに言葉を発する。

「やはりか……お前の治癒は魔法じゃない。呪いのせいか?」


それは、一般の人間や並の魔法使いでは到底不可能な高位治癒魔法に匹敵する力――大賢者クラスでなければ扱えない領域だった。


別の仮説として「呪い」がある。

これは強力な高位の闇属性魔法であり、発動には苛烈な代償を伴う。

例えば、莫大な力と不死性を与えるヴァンパイアの呪いもその一つだが、その代償として純血の生き血だけで生きる不死者となってしまう。


間もなく、レンは平然と立ち上がった。

右肩あたりの服は裂けていたが、傷はすでに完全に癒えていた。

彼を捕らえようとしていた兵士たちは、この異常な光景に恐れをなし、思わず後ずさる。


「もう一戦、やるか?」


「望むところだ。今度は一撃で決着をつける」


ネロが再び挑発し、レンも即座に応じて剣を構える。


「その剣がある限り、魔法だけじゃ勝てないな……なら、今度は倉庫から武器を持ち出すか」


「倉庫だと?」


ネロが収納魔法を発動すると、彼の左右に虚空の裂け目が現れる。

彼は腕を交差させ、その中から陰陽の双短剣を取り出した。


二本の短剣は、光と闇という二極の力を明確に放ち、レンですらその異様なオーラを感じ取るほどだった。

勇者システムで武器の情報を解析しようとしたが、結果は《情報なし》。

材質すら不明で、ただ確かなのは光属性と闇属性の魔力が封じられているということだけだった。


未知の武器を前に、レンはわずかに警戒を強める。

深く息を吸い、集中力を高める。

「緋雷神剣」の発動には一度につき多大な魔力を消費し、連続使用は不可能。

しかも副作用は回復魔法でも癒せない──それが彼の大きな弱点だった。


それでも、レンは怯まなかった。

バフがなくとも、目の前の敵に勝てる自信は揺るがない。


「かかってこい!」

──「行くぞ!」


二人は同時に叫び、第三ラウンドが始まろうとした、その時──


「好き勝手はさせないわよ!」


少女の声が突如響き、気付けば二人の体は無形の魔力に押さえつけられ、ほとんど動けなくなっていた。


軽やかなブーツの足音が近づき、青いローブに広いつばの帽子を被った少女が姿を現す。

肩までのピンク色の髪と同色の瞳が輝き、片手にはオーク材の杖を握っている。


周囲の冒険者たちは、その姿を見て息を呑んだ──彼女はティナ。

多彩な魔法を操る高位魔導士であり、Sランク冒険者でもある。

しかも、彼女は一人ではなかった──


「重力魔法か……面白い。でもこんな程度じゃ俺は止められない」


ネロはそう言い、強大な重力の中でゆっくりと立ち上がる。

レンも同様に、必死に身体を起こそうとする。


「なんだと……? 重力に逆らって純粋な筋力だけで立ち上がるなんて」


「じゃあ、もっと重くしてあげる」


ティナが杖を床に軽く打ち付けると、重力がさらに強まった。

二人は再び床に押し付けられ、身動きが取れなくなる──。


二人はなおも立ち上がろうと必死に抗った。重力がさらに十倍に強まり、足元の地面はどんどん沈み込んでいく。


ティナの魔法が効力を失いかけたその瞬間、銀色の鉄鎖が二方向から飛来し、二人の体に巻きついて完全に動きを封じた。まるで二重の拘束を受けたかのようだった。間もなく二つの影が跳び込んできて、二人を地面に押さえつける。


レインを押さえ込み、その頭を床に押しつけたのは、均整の取れた体格の男。短い茶髪に緑色のヘッドバンド、動きやすそうな革製の装束を身につけている。もう一人、ネロを抑えたのは、妖艶な体つきの女。黒紫色の髪と獣のような耳を持ち、同じく革製の装束に、肩と膝だけに小型の防具を装着し、背には巨大な剣を背負っていた。


「少しの間、おとなしくしてな、坊や」

女獣人がネロの耳元で囁く。低く艶やかな声には、威圧感が潜んでいた。


「お前たちは一体……?」

レインは全力で身をよじるが、銀色の鎖は不思議なほど彼の力を奪っていく。


「黙ってろ」

短髪の男はそう言うと、短剣の刃をレインの頬に押し当て、威嚇する。


事態がさらに悪化しそうになったその時、遠くから重い足音が響き始めた。周囲の冒険者たちの目が輝く。そこへ現れたのは、胸に赤い獅子の紋章を刻んだ銀色の鎧を纏う大柄な男——ベレフギルドの証だった。


男が近づくと、ティナはほっと息をつき、「隊長」と声をかける。


「こいつら二人か。街で騒ぎを起こしたのは」

低く重みのある声と共に現れたのは、三十代前半ほどの男。厳つい顔立ち、左目には鋭い傷跡が走り、長い青髪が流れる。ネロもレインも顔を上げ、その身から放たれる圧倒的な気配を感じ取った。


「俺たちは『バラリアン』。ベレフギルド所属のSランク冒険者パーティーだ……もっとわかりやすく言えば——」


「『最強』の冒険者集団だ」


男は一歩一歩近づき、鋭い眼光で二人を射抜くように見据えた。

「ギルドの規則を破った罪で、貴様らを拘束する。覚悟しておけ」



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