プロローグ
激しく降り注ぐ雨の中、高層ビルの屋上に一人の青年が立っていた。足を踏み出せば、そこは生と死の境界線。疲れ切った瞳で遥か下を見下ろしながら、冷たい雨に打たれ、まるで凍りつくかのような寒さを感じていた。
その時、屋上の扉が勢いよく開かれた。本来なら大きな音が響くはずだが、雨音がそれをかき消していた。黒いスーツを身にまとった男たちが続々と現れ、一糸乱れぬ隊列を作る。
彼らは一斉に拳銃を構え、青年へと狙いを定めた。
その光景を前に、青年はかつての仲間たちへと視線を向ける。しかし、今の彼らはもはや仲間ではない。ただの裏切り者であり、己の命を狙う敵でしかなかった。
権力と金のために、すべてを裏切った連中――
彼は薄く笑いながら、呟いた。
「……くだらない」
引き金が引かれ、銃声が響き渡る。
何発もの銃弾が身体を貫く。激痛が走るはずだが、それよりも心の痛みのほうが遥かに深かった。
どれだけのものを犠牲にして、どれだけの血を流して、この座を勝ち取ったと思っている?
頂点に立ったはずなのに、背後から刺される――結局、信じるに値するものなど何一つなかったのか。
彼は空を見上げる。
雨が降る曇天の空は、どこまでも暗く淀んでいた。
まるで、自らの人生を映し出しているかのように。
裏社会の頂点を極めた男の最期は、なんとも虚しいものだった。
意識が薄れゆく中、ふと聞こえたのは、不思議な声だった。
「我が名は……ネロ・クラウド・ルシファー……」
「この世界の創造者であり、破壊者であり、変革者なり……」
「――さあ、再び目覚める時だ」
次の瞬間、彼の意識は漆黒の闇へと沈んでいった――。
そして、目を覚ますと……彼は、新たな世界にいた。
「……戻ってきた、のか?」