報復合戦 後日談
話しはまだ続く。
あのあと、任意同行で現行犯逮捕された幹江は、事情聴取を受けてはじめて、誰の指示で恵美を襲ったかを告白した。この場合は、指示というよりも、美砂子と意気投合して起こした結果だったために、共犯容疑となる。
長崎市警察署から呼ばれた美砂子が、隆史を連れて入ってきた。この間に廊下で、手錠をかけられた幹江とすれ違う。これから、牢屋にてひと晩すごす予定らしい。蒼白した顔で女の背中を見送ったのちに、目的の部屋へと向かう。扉を開けて入るとそこには、松本秀次郎刑事と鬼束あかり刑事とに保護されていた、秋富士恵美と史土菜穂の姿。いろいろな感情を混合させた顔を露わにして黙ってきた美砂子に、恵美は流し目を送ったあとで切り出した。
「あら。お互いにこうして拝見するのは、はじめましてですわね。入江美砂子さん」
「ええ。こちらこそ、はじめまして。秋富士恵美さん」
なんだか、ただならぬ空気を漂わせていく女二人を見た松本刑事が、たまらずに口を挟んできた。
「ええと……。今回、この秋富士恵美さんと臼田幹江さんの双方から事情聴取をしましたところ、私たちは秋富士さんと貴女、入江美砂子さんとによる痴情の“もつれ”からきた、痛み分けと判断いたしました。よって、お二人の“知人”である貴男、御藏隆史さんを仲介して話し合いによる解決をとっていただきたいのですが」
「解りました。この私も、始めから美砂子さんとお話ししたかったので、刑事さんのご提案を飲みますわ」
爽やかに快諾していく恵美を見た美砂子は、「ちょっと、なに一方的に決めてんのよ」と噛みついたところで、あかり刑事から制止されるのと同時に、こう念を押されていった。
「どうか落ち着いてください。―――今回は、これだけの事が起こった割には死人がひとりも出ていないのが奇跡的なんですよ。だからこそ、あなたがた当人たちのみで、お話しをして解決してほしいのです。―――ひょっとしてまだ、周りを巻き込むつもりですか」
「いいえ。今後は誰も巻き込まないことをお約束します」
「良かった。ありがとうございます」
渋々と受け入れた美砂子を見ていた恵美が、腰を上げて近寄ると、握手をした。
満面の笑みを浮かべて。
「ありがとうございます。貴女から受け入れていただけて、私、嬉しく思いますわ」
「ええ、こちらこそ。どう致しまして」