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破局



 それから更に三ヶ月ほどが経ち。

 御藏隆史は秋富士恵美の隙をうかがいながら、入江美砂子との交際を続けていた。

 ベッドの上で躰を交わしているとき以外の、彼氏によるやや厳しい当たり方に恵美は多少なりの違和感を覚えつつも、それに耐えて、生涯唯一の男性である隆史と関係をつなぎ止めていた。だが、時が経てば経つほどにそのような関係を続けてゆくのにも限界を感じ始めていたのは、隆史の方であったのだ。

 このまま極上の容姿を持つ“女”である恵美との肉体を“つまみ食い”しながら、美砂子へと寄り添うといった二重の生活を継続していくのも、正直、そろそろ“良心が痛みだした”ようだ。ので、このようなことをベッドで美砂子に伝えてみたら、女は涼しげな目もとを緩やかに歪ませるなりに、隆史の目を見つめて切り出してゆく。

「いいんじゃない。アタシも、いい加減な関係に踏ん切りつけたくなっちゃった」

 そして、男の胸元に頭を預ける。

「アタシには貴男しかいないわ。―――あとは、貴男が答えを出してくれるだけよ」

「そうだな。いい加減切らないとな」

 美砂子の頭を抱き寄せながら、隆史は真剣にそう呟いていった。


 美砂子は恵美の存在を知っていた。

 ただし。

 恵美は美砂子の事を知らなかった。



 週が明けて、その晩。

 同棲先の部屋にて、隆史と恵美の二人はお膳を挟んで晩ご飯をいただいていた。もちろん、作ったのは恵美。彼女は例のことを全く知らないようで、目の前の彼氏へと微笑みかけながら、品良く箸を進めていた。

 そして、男は予告無しに切り出す。

「あのさ」

「なあに」

「お前、ちょっと前に俺にさ『返事を待っているから』って云っていただろ」

「……え……?」

 静かながらも驚愕。

 そして、朱に染まる頬。

「覚えていてくれたの」

「ああ。ずっと考えていたんだ」

「ええ」高鳴る鼓動。

「俺の答えは、悪いが『無かった事にしておいてくれ』だ」

「――――そ……っ!?」

 途端に冷める空気と、引いてゆく潮。

 これとともに生まれてゆく痺れ。

 はじめは、箸を小刻みに鳴らす。

 続いて、茶碗が震え。

 躰じゅうに広がってゆき。

 脂汗を噴かせて上着が肌に張り付く。

 声は、出ないの?

 いいえ。なんとか絞り出せるわ。

「そそれは、どういうことなの?」

「どういうことって、そりゃお前。今日限りで俺と恵美はこの生活を終わりにするってことさ。―――お別れだよ。なんかさ、最近、お前と居るとキツいんだ」

 聞きたくない言葉だった。

 愛しい貴男からは。

 たちまち“めまいに”襲われた。

 椅子から落ちそうになったところを、隆史の腕から支えられて、じぶんでも恥ずかしくなるくらいな程に男の二の腕と肩に力強くしがみついたのだ。

 声まで震えてきた。

「うふ、ふ……。今まで、ごめんなさい。私、貴男のことを考えていたようで、全然そうじゃなかったのね……。うふ、ふ……。―――私、隆史さんの意志に従う。けれども、今夜ひと晩だけ私と居て。……お願い……」

「ああ。お前がそう受け入れてくれたのなら、俺はそうするよ。―――今夜ひと晩までだぞ。明日からは別々だからな」

「ありがとう、隆史さん」


 ベッドの上。

 彼氏が繋がろうとしたところ。

「ちょっと待って。……ねえ、その新しい人ってどんな方―――――んっ……」

「それは云う必要はない」

 半ば強引に遮って、恵美の中へと入り込みながら、隆史は突き放していく。体内の圧迫感と同時に、快感を覚えていきつつ、恵美は必死に言葉を出していった。

「そう……ね。そうだわ。私が、知る必要……な、い……もの……」

 そう。今はそうだわ。

 あとから知れば良いことだから。

「ああ……。隆史さん……!!」

 恵美はこう彼氏の背中を抱き締めていったこのときに、当の愛しい男に見せることなく、頬にひと筋の雫を伝えさせていった。



 許せない!!

 愛しい隆史さんを奪うなんて。

 許せない!!

 何の苦労も無く横取りした女。

 許せない!!

 私から全てを奪った女。

 許せない!!




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