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第8話 皇子白光殿下

業務日報

 干天の月十日

 記録者 コンス侯爵家冒険公社 スーナ支社長 男爵サイアム

 収支報告は帳簿の通り。皇子一行の到着により、冒険公社としては開店休業状態。

 騎士三十名をともなって到着したのは予想通り白光殿下。

 皇太子の地位を弟君の金波殿下とあらそって敗れた皇子だ。その支持はいまだに分厚いが、冒険公社をいとなむ両侯爵家はその争いからは数歩距離をおいている。

 演台の上から、観念した客人の姿を見つけた殿下はそれはそれはもう会心の笑みを浮かべた。

 こういう事態にならないよう「友人」から彼の身柄を預かったのに、ふがいないことこの上ない。

 読みあげた帝の慰労の手紙に意外なことがかかれていて、殿下も驚いていた。

 客人の偽名に並べて本名が書かれており、功績を嘉して宮廷魔法使いとして召し抱えるとあった。なぜ陛下が知っているのだろう。

 客人は子爵位を持つ貴族でこの登用に無理はない。

 ロドミゴ様がにやにやしているので、なんとなくわかりはしたが。

 だが、殿下があのことに本気であれば客人は結局まきこまれるのではないか。

 このことを日報に書くことははばかられる。だが、もしことが起きてしまったとしたらと思うと書き残さないということはありえない。

 殿下は帝冠をのぞんでいる。そして客人はその能力を示してしまった。

 客人はだからこそ「友人」の力を借りてこのスーナに自らを隠した。あの後継者が口ほどにないことがわからないのは殿下だけだった。

 内戦など、誰も望んでいない。


業務日報

 干天の月十一日

 記録者 コンス侯爵家冒険公社 スーナ支社長 男爵サイアム

 収支報告は帳簿の通り。昨晩の伯爵邸での皇子歓迎パーティでだいぶかせがせてもらった。殿下は客人を連れて帰りたそうだったが、ロドミゴ様が侯爵家としても感謝したいなどなどまくしたて、数日を後始末と送別に費やして帝都に送ることでまとまり、殿下はしぶしぶ帝都へと戻っていった。

 ツァーン侯爵家の家令に本日、証拠の数々を見せた。特にあとから追加した手帳の内容には絶句して、取り決めの履行について確約の一筆をくれた。

 ダンジョンの氾濫を起こしたのが誰かはわからない。だがツァーン侯爵家の家令の敗北感に満ちた横顔を見ていると、証拠もなく彼をなじる過ちを犯しそうになる。


業務日報

 干天の月十五日

 記録者 コンス侯爵家冒険公社 スーナ支社長 男爵サイアム

 収支報告は帳簿の通り。スーナの日常に復してうれしいかぎり。

 客人は明日、ロドミゴ様とともに帝都にむかうということで個人的に送別の一席をもうける。呼んでもないのにロドミゴ様が参加してきた。

 帝都に戻れば殿下の野心に巻き込まれるというのに、客人が晴れやかな顔をしているのでわけをたずねると、殿下は決行にうつることはないという。

 とくとくとロドミゴ様がその説明を始めたときは、主家の坊ちゃんであるがつきとばしたい気持ちになった。支社長としてはよくないと反省する。

 殿下が跡目争いに負けたのは当然という話だった。あの方が客人を探している間に、皇太子殿下は彼の陣営の切り崩しを進めていた。今時はあてにしていた軍事貴族の半分が中立または皇太子側に転じていかに客人とてひっくり返すことのできない情勢になっているだろうという。

 この工作には冒険公社を持つコンス、ツァーン両侯爵家も加担している。内戦になれば冒険者たちはそっちに駆り出される。うれしい話ではない。

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