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第三話 準備

 な 

  ぎ

〜逃げてからしばらく経った頃〜



「うぶっ、んぐ」


「大丈夫か?」


こいつしばいてやろうか?

お前のせいで今酔って吐きそうになってるんだが?


さっきからというか、その、助けてくれたときからずっと無表情だし。


「腹が立つ」


「立つのか?腹に足はついてないぞ?」


「腹が立つ!」


あームカムカする!なんなんだこいつ。流石に命の恩人だからといって何でも許してやるつもりはないぞ!!


「そんなことより、なんでもしてくれるんだよな」


「なんでも?そんなこと…あぁ言ったな」


そういえばそんなことも言った気がする。

え?私こいつになんでもするって言ったの?


過去の私無責任すぎるだろ。


私まだ魔法の詠唱できないぞ?

やっぱりあの小難しくて長くて噛みやすい気取った言葉ばかり使った詠唱文にしたのは失敗だったか…


これじゃあこいつに「そちの命貰い受ける!デアー!」とかやられたら死ぬしかないんだが?


「言ったには、言ったな」


「なら…」




あぁまずいまずいどうしようどうしよう。


こいつ常識あるよな?

ないな。あったらあの速度で屋根を走り抜けないからな。


逃げるか?いやああ言った手前だし一応命の恩人だし、けど踏み倒したいな。


誰だなんでもって言ったやつ、私か。過去の私無責任すぎるだろ(二回目)




「自分の記憶を蘇らせてくれ」


「はぇ?」


記憶?


「なにかおかしいか?」


「いや、てっきり命でも持って行くものかと」


「君は別にいらない」


は?こいつ失礼すぎるだろ。こちとらうん百歳ではあるけど乙女だぞ。


「けど、記憶…どういうことだ?」





「自分には記憶がない」


「自分は自身が何者で、どこから来て、名前がなんなのか、それがわからない」


「だから知りたい。自分が何者なのか」






なるほど、そう来たか。


「それなら安心してほしい。記憶を蘇らせる魔法なら、詠唱も簡単だからな。まだ舌の感覚はうまく掴めてないがそれぐらいなら使える」


「おお!凄い、流石魔女だ!」


「ふっふーん」


そうだぞそうだぞ?

もうちょっと崇めて奉ってくれてもいいんだぞぉ?

んふふやっぱり褒められると気分が良いな。


「それじゃあ唱えるぞ、とりあえず屈め」


「あぁ、頼む」


背が高いくて手が届かないから屈ませて、こいつの頭に手を置く。

こうすることで確実にこいつの記憶に干渉でこるようにする。





「〘深きイドに眠る一つの断片 暗闇の海を揺蕩うその姿 静かなるエゴに従いて蘇り給え〙『虚無への追悼』」





さて、これで大丈夫なはず…

































「邪魔をするな雑種風情が」





!?


「どうした、成功したのか?まだ記憶が蘇った感じはしないんだが、大丈夫なのか?」


慌てて手を離してしまった。この魔法の行使中は不具合があるといけないから手を離してはいけないのに。


けど、それでも、


危なかった。


離さざるを得なかった。


あれは何だ?一瞬触れただけで体の震えが止まらない。こんなにも思考を纏めるのに時間がかかったのは初めてだ。


恐怖?きっと私はあれに恐怖した。


さっきまでリレイジ正教会の連中に追われていたときに感じていたなんとなくどうにかなりそうな恐怖じゃない。


どうにもならないものだけが発せる威圧感だった。


昔、強大な古龍に睨まれた時みたいに、いや、それよりも恐ろしかった。



「お、おい君!どうした、その表情、何に触れたんだ!?」


「あ、あ、あれは、なんなの?な、なに、なんなの?」


こいつ、とんでもない厄ネタだ。




◇◇◇




「なるほど、自分の記憶を蘇らせようとしたら何かがそれを阻止したと。ふむふむ、なぜ?」


「私が聞きたい」


なんなんだこいつは全く。

やっぱり頭のおかしいやつは頭の中までおかしいんだ。


今回でそれがわかったよ。


「はぁ、もうつかれた。帰る」


「は、君それは無責任なんじゃないか?」


私はこいつをキッと睨んでやる


「うるさい。お前が命の恩人だろうがなんだろうがもうやることはやっただろう?私は帰らせてもらう」


ふん、無理なものは無理だ。こいつにはちと厳しいことを言ってしまったが、そういうことだ。諦めてもらおう。


「なぁ、頼む」


「無理なものは無理だ」


「なぁって」


「っうるさい!いい加減にし






「もう、君しかいないんだ」






言葉が詰まってしまった。


君しかいない、か。


〜〜


「私達の村は、終わりだな」


「えぇそうね」


「みんな死んだな」


「みんな死んだね」


「お前ももうじき死ぬ」


「…けどあなただけは生きてる。だからね、みんなの分も生きてあげてね」


「…考えておくよ」


〜〜


そういえば、そんなこともあったな。


「なぁ、頼むよ君。後生だからさ」


頭を地面にこすりつけてこいつが頼み込んでくる。


そこまでしなくてもいいのに。


「いいぞ」


「!?」


「ただし、お前には大分長い間の旅を強いることになるがそれでもいいか?」


まぁ、こいつの目をみれば聞くまでもないか。


「勿論だ」




◇◇◇




地面に木の棒で雑に世界地図を描いてみせる。


「目指すのは、遥か彼方、北の霊脈、時の止まった場所。そこにある"全ての魔法が記された魔導書"だ」


「全ての魔法?」


「あぁ、そこにある魔導書には全ての魔法が書かれてる」


「それ本当にあるのか?」


「黙れ記憶喪失。私が実際見たからあるんだよ」


「見たのか」


そうだ。私は実際にそこに行って、魔導書も読んで、それで帰ってきた。


「ちょっと前に言っただろう?私は定期的に肉体の成長をリセットしてるって」


「そうだな」


「それが魔導書を読んで身につけた魔法」


そう、魔女の肉体が成長しすぎると魔物へと変貌してしまうことを知った私はそれをどうにかするために魔導書を求めて途方もない旅路を歩んだ。


山を超え谷を越え、最後に………なんかして、そこへたどり着いて魔導書を読んだのだ。


「その魔導書には肉体をリセットする"生まれ変わりの魔法"以外の魔法も書いてあったから、お前の記憶を蘇えらせることへの障害を無くす魔法もきっとあるはずだ」


「君は今知らないのか?」


「魔導書にはおよそ七千近い種類の言語で魔法が書いてあった。見た当時は出身した村の言葉と共通語しか知らなかったし、魔導書がそんなめちゃくちゃに書かれているとは知らなかったんだ」


「それ、今見に行っても大丈夫なのか?言語わからないんじゃないか?」


「大丈夫だ。今は目で見たものを自動で翻訳する魔法があるからな」


便利な時代になったもんだ、とはこいつの前では言わない。私はおばあちゃんみたいだとは言われたくないんだ。


「それでお前、いつ行くんだ?場所を印た地図を描いとくから教えてくれたらその日に渡しに行くぞ。あとついでにさっき言った自動で翻訳する魔法のスクロールもやる」


「は?」


「あぁ、スクロールっていうのはな、開いてキーワードを唱えるだけでその魔法が使えるようになる本なんだ。最初は少し嫌いだったんだが、使ってみると便利でな。頭に直接叩き込まれる感覚は苦手だが、良いもんだぞ」


「そこじゃない」


は?どういうことだ?

何が言いたいんだこいつは


「どういうことだ?」


「君がついてこないことだ」


は?どういうことだ?

何が言いたいんだこいつは


「なんでわざわざ私がついていくんだ?これだけ教えてやったら別にいいじゃないか。それについていくにしてもこんな幼児体型連れ歩いていたら噂になるぞ。うわ、見てみろロリコン冒険者爆誕だ、御赤飯をぶちまけろってな」


「別に構わない」


「いや、お前が構う構わないの話じゃなくて私が面倒くさいかくさくないかの話で…」


「後生だから頼む」


「お前後生使いすぎだろ」


なんだこいつ。こいつ本当に私が役に立つと思ってるんだろうか?


「じゃあ聞くが、なんで私を連れていきたいんだ、ん?」


「まず第一に、自分は記憶喪失だ。そして、身分を忘れている。次に、金が無い。ついでに君との会話でわかったが自分には常識がない」


おお、こいつ自己分析が上手いな。座布団をやろう。見世物にしてはおもしろい。


「それに…」


「それに?」



「一人は寂しい」





そうか、一人は寂しいか…


「わかる」


「わかってくれるか」


私も長い間を一人で過ごした時期は何度もある。やっぱりきついものだ。私達を作ったやつがいるとするなら、そいつは社会を形成する生き物の作り方がうまいと褒められているだろう。



「それじゃあ出発するか」


「今からか?」


「勿論」



出発っていうのはなるだけ早いほうがいいもんだ。それだけ時間に余裕が生まれるからな。


「そうだ、私の自己紹介をしておこう。私は魔女のセイラム・ダンバース。セイラムが名で姓がダンバースだ」


「なら自分は、自分は名前がわからないな」


そういえばこいつ名前がわからなかったな。

それなら…


「メディック」


「?」


「お前は今日からメディックとでも名乗ったらどうだ?」


「どういう意味だ?」


「医者だ。お前はお前の記憶を治すために旅を始める。だからメディックだよ」


「…」


返事がない。顔をみても…よくわからないな。こいつはずっと無表情だ。


「気に入らないなら別にそれでもいいぞ。別のを考えよう」


「いや」


こいつは手を前に出して私の言葉に待ったをかけた。


「気に入ったよ。自分は今日からメディックだ」


「気に入ったのなら何より」


こいつはよくわからないな。






いや、メディックはよくわからないな。

さて、次の更新はいつになるでしょうね

勢いだけでものを始めるのも考えものだね

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