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Love War!  作者: 夕氷嘩
6/8

vs6.「戦意喪失」


「そんなに落ち込むことないよ、雫…誰も気にしてないから大丈夫だよ」

「……」


せっかくの美保の言葉も、右から左へ半分筒抜け状態。

必死に慰めようとしてくれる美保には悪いとは思うのだが、当分立ち直れそうになかった。


今は休み時間なので、美保の席に避難中。

あいつの隣の席になんて、一分一秒でもとどまりたくなかった。

幸い、美保の席の周りは女子で固められていたので、心置きなく落ち込むことができる。

女子に囲まれた席がこんなに羨ましいと思うなんて…すでに相当この学園の雰囲気に侵されてしまっている証拠なのかもしれない。

先入観もあるのかもしれないけど、男子が怖い。

できれば近寄りたくないし、関わりも積極的に持とうという気には到底なれそうになかった。

心なしか男子の自分を見る目も厳しくなっているような気がする。


何もかもあの男のせいだ…


先ほどの失態を思い出して、また落ち込む。


確かに私も大人気おとなげなく言いすぎた部分はあったかもしれない。

けれど、間違いなく喧嘩を仕掛けてきたのは向こうだ。

どちらかといえば非があるのは、あの男の筈だ、と自分で自分を慰めてみるものの、効果無し。

溜まりかねた様に重くため息を吐き出す。


「はぁ…」

「あの…、佐竹さん、だよね?」

「え?」


顔を上げると、そこには何人かの女の子が囲むようにして立っていた。

驚いて目を瞠っていると、彼女たちは顔を見合わせながら喋り始める。


「気にする事ないよ。あんなの、うちのクラスで良くあることだし」

「うんうん、言い争いなんてしょっちゅうだよね」


他の女の子たちも、それに同意するようにして頷く。

もしかして…この子達も自分を慰めに来てくれたんだろうか。


「確かに小野寺君がああいう風に女子に突っかかるのは珍しかったかもしれないけど…でも、この学園ではああいうのが当たり前だから」

「そうそう、男子なんて放っておけば良いのよ」


小野寺…?

一瞬誰のことを指しているのか分からなくて考えてしまったが、すぐにあの腹立たしい男のことだと思い当たった。


「珍しいの?」


にしては、随分と傲慢な態度だったけど…

いつもあんな感じなのかと思ってた。

そう尋ねると、美保は困ったように首を竦めた。


「うーん、いつもはね、言い争いとか喧嘩が起きても、小野寺君って何も言わないし静観してることが多いの。第三者的というか…我関せず、って感じかな」

「うんうん、だから今日みたいな小野寺君は珍しいよね。私びっくりしたもん」


…じゃあ何?

あの喧嘩腰な態度は私にだけだったってこと?


あの短時間で、そんなに毛嫌いされるような要素が自分にあったんだろうか。


私の容姿が生理的に受け付けないとか?…そんなことを言われても、生まれ持ったものなのでどうする事もできない。

というか、そんな理由であんな態度をとられたのだとしたら、理不尽にも程がある。

仮にそうであっても、その感情を表に出すのはいくらなんでも失礼なんじゃないか。


だんだん腹立たしくなってきて、表情が自然と険しくなる。


あの金髪には極力関わらないようにしよう。

ろくなことがなさそうだ。


私はそう固く心に誓うと、ちょうど始業の鐘が鳴り始める。


ああ…戻らなきゃ。

休み時間って何でこんなに短いんだろう。


「大丈夫?雫…無理しないでね」

「うん、ありがとう」


何とか引き攣りそうになる顔を笑顔にして答える。

急に酷く陰鬱な気持ちが襲ってきたけれど、何とか表情に出さないように堪えた。

これ以上、美保に心配をかけるわけにはいかない。


なかなか動こうとしない足を叱咤し、私はその場を離れる。


またあの居心地の悪い、悪夢の席に戻らねばならない時を悔やみながら。




□ □ □ □ □




何とか1日の授業を終えた時には、心身ともに疲れ果てていた。

こんなに精根尽き果てたように感じるのは初めてかもしれない。


やっと彼女たちの言っていた意味を身を持って理解した気がする。

誰もあの時の自分など、本当に気に留めるようなことではなかったのだ。

それぐらい、授業中の生徒たちの様子は凄まじいものだった。


例えば数学の時間では、黒板に書いた答えが間違っていた男の子がいた。

最後の最後で計算ミスという、初歩的な間違い。

誰にでもある事だし、取り立てて騒ぐような事でもなかった筈だ。

しかし、その間違いを、クラスの女子が徹底的に貶すのだ。

再起不能になるんじゃないかっていうぐらい、容赦なく、けちょんけちょんに。


「そんな程度の問題で間違うなんて馬鹿なんじゃないの」

「小学生でもそれぐらい出来るよね」


あんな濁流のように非難の嵐を浴びせられたら、一溜りもないだろう。

もしも自分だったら、とぞっと背筋が凍る。


そこで女子らしい、と変に感動してしまったのが、その言い方にあった。

ひそひそと小声で喋っているように見せかけて、教師には聞こえない、けれどその男子の耳だけにはしっかり届くような声の大きさで彼女たちは話すのだ。

何て陰湿なやり方なんだろう。

普通に言うより、ずっとその方が効果的で、喰らう精神的ダメージは大きいのだから。


事実、その間違ってしまった男の子も、恥ずかしさからか怒りからか、顔を真っ赤にして身体を震わせていた。

見るに居た堪れない様子に、心から同情してしまったぐらいだ。

泣き出さないだけ、ましなのかもしれない。


女子たちによる男子への攻撃は、想像以上の猛威を奮っていた。

女子に対して自分の中で「蝶よ花よ」のイメージが強かっただけに、精神的に受けた衝撃は大きかったかもしれない。


けれど、男子も勿論そこで終わるはずがなかった。

やられっぱなしで黙り込むようなしょうであるはずがないのだ。


選択授業である、音楽の時間のことだ。

これまたひとりだけ飛び抜けて音痴な女の子がいた。

失礼かもしれないけど、お世辞でも上手とは言い難かった。


その女の子を傍目に、ゲラゲラと愉快そうに大声で笑う男子たち。


「相変わらずへった糞だなー。もうちょっと、どうにかなんないの?」

「あ~あ、俺鼓膜が破れそうだ」


酷い。

そんな身も蓋もない言い方しなくてもいいのに。


女子とは違うけど、これはこれでキツい。

幾らなんでも直球すぎないか。


今時のギャルのようなていをした女の子は、男子の嘲笑にこれ以上ないぐらい顔を紅潮させて、怒鳴り返した。


「うるさいっ、あんた達だって濁声でいつも騒音振りまいてるくせに!」

「あんだとっ!?」

「そうよ、そうよ!人の事とやかく言えるような身分じゃない癖に」

「お前らだって、きーきーいつも甲高い声出しやがって。耳障りなんだよ!」


あっという間に、音楽の授業そっちのけで、数人の男子と女子で言い争いが始まってしまった。

音楽の教師がおろおろと困惑している様子が目に映る。

喧嘩を辞めるように教師が促してみても、どこ吹く風状態。

まるきり無視されてしまっていて、その教師が気の毒になった。


私はただ、その様子を他のクラスメイトと共に傍観しているしかない。


―――本当に、なんなのこの学園…


何も教室クラスに限った話ではない。

廊下を歩いててもご飯食べに食堂に行っても、喧嘩しているグループを絶対どこかしらで見るし。

トイレに行っても、女子たちによる男子への罵詈雑言ばりぞうごんの嵐。


美保の言っていた通りだ。

お互いを牽制しつつ、学園生活を送っている。

なんて、窮屈で息苦しいんだろう。

こんなんで皆疲れたりしないんだろうか。


夕食を済ませ、寮の部屋に戻り、先にシャワーを浴びることにした。

気分的に、今すぐこの疲労感を洗い流してしまいたかったのもある。


風呂場から出ると、タオルで髪の毛の水分を拭き取りながら、リビングにいる美保に声をかけた。


「お風呂お先に頂きました。ありがとう」

「あっ、はーい」


読んでいた本から視線を上げて、美保は笑んだ。

一瞬だけ沈黙が流れる。

しばらくして見兼ねたように、美保が切り出した。


「雫…あの。今日、大丈夫だった?」

「え?」

「今日、その…色々あったし、吃驚びっくりしたでしょう?」

「ああ…まぁ…ね」


言葉を濁すと、気遣うように微笑まれた。


「今日はゆっくり休んでね。私もお風呂入ってくる」

「うん…ありがとう」

「いえいえ、じゃあおやすみなさい」

「おやすみなさい」


風呂場に姿を消した美保を見て、一息つく。

今日は美保に気を遣わせてばかりだ。

軽く自己嫌悪に陥って、肩を落とす。


しばらくぼうっとその場に佇んでいたが、湯冷めしてもいけないので、自室へと戻ることにした。

大分早めの就寝になってしまうけど、この分ならすぐ寝てしまいそうだ。


ベッドに潜り込むと、どっと眠気と疲れが襲ってくる。


他にも美保に色々聞きたいことがあったんだけど…

また今度でいいか。


疲労困憊。

まさにそんな言葉がぴったりな1日だったような気がする。


私は目を閉じると、すぐに深い眠りへと落ちていった。






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