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Love War!  作者: 夕氷嘩
5/8

vs5.「ご対面」


気持ちに踏ん切りをつけるように、ガラリと大きな音を立てて扉を開けた。


一気にいくつもの視線がこちらに集まるのを、ひしひしと感じる。

身体に穴が空いてしまいそうなぐらい浴びせられる、痛いほどの視線。


「佐竹雫さん、だ。今日からAクラスに編入することになった。皆仲良くするようにな」


くい、と小柳先生に首で合図されて、それが自己紹介をしろという意味なんだと分かった。

私はひとつ頷いて、ガチガチに固まった足を動かし、何とか中央へと進み出る。


ああ…

だからこういうの、苦手なんだって…


教壇の前に立つと、俯けていた顔を上げた。


水を打ったように静まり返った空気。

あまり歓迎する、といった感じの雰囲気ではなかった。

ごくりと唾を飲み込んでから、言葉を搾り出す。


「今学期から編入することになった、佐竹雫、です。短い間ですが、これから宜しくお願いします」


当たり障りのない、挨拶。

少し間があって、ぱらぱらと拍手が起こった。

その中に美保の姿も見えて、ほっとする。

美保が頑張れ、と口を動かしたのが見えて、私は答えるように微笑んだ。


自己紹介を終えていくらか緊張が和らぎ、冷静になって観察してみると、拍手をくれたのが女子だけであったことに気付く。

男子は、関心はあるようだけど、ただそれだけ。

どうやらこのあまり歓迎的でない雰囲気は、男子によって醸し出されたものらしい。


この学園の実態の片鱗がさっそく見えたような気がして、私は小さく息をついた。


本当にこういう感じなんだ、この学校…


始業式の時は着席して、皆ただ静かに話を聞いてるだけだったから、男女の仲が悪いかいまいち良く分からず、疑い半分って感じだったんだけど…

この分だと、美保から聞いた話は本当のようだ。

クラスの雰囲気を感じ取って、一気に現実味が帯びてしまった。


は、激しく憂鬱かも…

はたして上手くやっていけるんだろうか。


「皆分からないことがあったら、教えてやれよ。よし、じゃあ佐竹は…小野寺の隣が空いてるな。そこに着け」


指されたのは、窓際の一番後ろの席。

いわゆるベストポジション。

日当たり良好、教師から見えにくく、寝ててもバレない特等席。


先生、わざわざ私のためにこの席を空けておいてくれたのかな?


言われるがままその席に向かい、大人しく着席してから、うっと一瞬呼吸が止まった。


先生…

と、隣、男子なんですけど…

これって大丈夫なんですか。


顔は正面を向けたまま、自分の全神経が隣の席に注がれるのが分かった。

冷や汗を額に感じて、咄嗟に片手で拭う。

抗議の視線を向けてみるが、小柳先生はまったく意に介さず、という感じで事務的な連絡を続けている。


「最悪、俺の隣かよ」


ぼそりと隣から呟く声が聞こえて、思わず横を振り向いた。

不機嫌そうに、頬杖をつく横顔。

短く整えられた金髪がやけに目につく。

一瞬空耳かと思ったが、どうやら違うらしい。


「はい?」

「なんで俺の隣に来るんだよ。良い位置だったのに、一気にテンション下がるだろ」


あまりに勝手すぎる言い分に、カッと頭に血が上る。

目まぐるしく変わる環境に、疲れが溜まっていたのもあるのかもしれない。

後から考えてみれば、この時もっと冷静になって軽く流すことぐらいなんて事なかったはずなのに。


「なんであなたにそんな事、言われなくちゃいけないの?」


自然と声が刺々しくなるのが分かる。

思いっきり睨みつけてやると、隣の席の男はふん、と鼻を鳴らした。


「なんだ。大人しくて気弱な奴かと思ってたら、とんだ思い違いだったみたいだな」


こちらを一瞥して、男は嘲るように笑った。

だけど私はすぐに反応を返すことができなかった。

一瞬我を忘れて、その顔に魅入る。


涼しげな目元に、鼻筋がスッと通っているバランスの整った顔立ち。

いかにも不規則な生活を送って肌もボロボロそうな不良少年かと思いきや、肌の艶やかさに唖然とする。

私だって8時間たっぷり睡眠時間とっても、こうはならないのに…

明るすぎる髪だって、この顔でなら許せる気がした。

悔しいけど、似合いすぎている。


「なに人の顔じろじろ見てんだよ。気持ち悪いヤツ」

「なっ…」

「もしかして見惚れてたとか?」


勝ち誇ったような顔をされて、つい大声で怒鳴り返してしまった。


「ちっ、違うに決まってんでしょ!!バッカじゃないの?」

「ああ?」

「自意識過剰にも程があるわよ。恥ずかしくないの?そんなんで。ちゃんと脳味噌頭につまってるの?」


早口に捲くし立てるようにして言葉を紡いでから、我に返る。


あっ、と後悔した時にはもう遅かった。


クラス中の視線がこちらに集中するのが分かって、急激に熱が冷めていく。

小柳先生も話を中断して、驚いたように自分を見ている。

さあっと一気に頭の中が白くなった。


な、なんてことしちゃったんだろう…


隣の男もそっちのけで、自分が仕出かしてしまった事に、泣きそうになった。

穴があったら入りたいってこういう事なんだ。

穴に入るどころじゃない。

今すぐこの教室から消え去りたい。

いや、今すぐこの学園から立ち去りたい。


仮に男女の仲が悪かったとしても、上手い具合に紛れてやっていこうと思ってたのに…


そんなささやかな希望も、無情にも儚く崩れ去っていく音が聞こえたような気がした。




―――――転校して2日目。

すでに私の印象は最悪になってしまったようだ。


『何があっても、あまり気にするな』


…小柳先生。

せっかく頂いたお言葉なのですが、どうやら今の自分には慰めにもならないみたいです。




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