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Love War!  作者: 夕氷嘩
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vs1.「首尾は上々?」

佐竹さたけさん、ここがあなたのお部屋、304号室よ」


そう言われて、目の前にある木造りのドアを、私はじっと見つめた。

確かにドアの上の方に「304」という数字の、洒落たプレートが飾られている。


「ルームメイトの、あなたと同じ2年生の渡辺わたなべ美保みほさんに細かい説明をあなたにしておくように頼んでおいたから。後は渡辺さんに聞いてね」

「はい」

「じゃあ、私は用事があるからこれで。また詳しい寮の説明とかは追々していくから…分からないことがあったら、いつでも聞いて頂戴。始業式に遅れないようにね」

「はい、ありがとうございました」


そう言い残すと、女子寮の寮長を名乗る「前原」という黒髪ロングの美人は、颯爽と姿を消していった。

その後ろ姿を見送ってから、小さく息をつく。


目の前の扉を凝視しながら、緊張して高鳴る胸を必死に落ち着けようと、私はゆっくり目を閉じた。


ああ、駄目…落ち着け、自分。

私こういうの、本当に苦手なんだよね。


先程ここまで案内してくれた前原さんの話によれば…、自分のルームメイトだとかいう女の子はこの部屋の中にすでにいるはず。

こんな事で尻込みしている自分が馬鹿みたいだけど、緊張するものは緊張するのだ。

見知らぬ、しかもこれから生活を共にしていく子との初対面…

一体どんな子なんだろう?


ええい!いくぞ!


意を決して、扉をノックしようとした時だった。


「ガチャッ」

「痛っ!」

「―――えっ?」


突然、顔面に降りかかった衝撃に、痛すぎて思わず床にしゃがみ込む。


な、何が起きたの…?


事態が呑み込めず、じんじんと痛む顔を手で覆っていると、上から慌てたような声が聞こえてきた。


「え、えっ?ご、ごめんなさい!!どうしよう、やだ。あの、大丈夫ですかっ!?」

「あ、いえ…大丈夫ですから」


痛みを堪えて体を起こすと、目の前には心配そうな表情を浮かべて、ひとりの可愛らしい女の子がこちらを覗き込んでいた。


うわぁ…猫みたいな子だなぁ…


びっしりと睫が生えた、大きな猫目。

肩ほどまでに整えられた薄茶の髪は、ゆるくカールしている。

身長は私と同じぐらいだから…結構小さめ、なのかな?


―――って、あれ?

もしかしなくても、この子…


「あの…、もしかして佐竹さたけしずく…さん、ですか?」

「あと、それじゃあ、渡辺美保さん?」


お互い少しの間瞬きして顔を見つめ合っていたが、しばらくして気が緩んだように、ほっと笑みが浮かんだ。


そりゃそうだよね。

この目の前の部屋から出てきたんだもん。

この部屋の住人以外に他ならない。


「あ、じゃあ改めまして、渡辺美保です。これからよろしくお願いします」

「こちらこそ…佐竹雫です。雫、って呼び捨てでいいよ」

「本当?じゃあ私も、美保って呼んでもらえると嬉しいな」

「了解!」


にっこりと微笑んだ美保につられて、私も笑顔になる。

良い子そうで、心底ほっとした。

これで性格の悪い、ケバイ女の子だったらどうしようかって、ちょっと怖かったんだよね。


「あっ、それよりも顔大丈夫だった?ごめんね。私、突然ドア開けちゃったりして…痛かったよね」

「ううん、大丈夫だよ。私があんなところでぼーっと突っ立ってたのがいけないんだし…気にしないで」


美保だって相当びっくりしたはずだ。

まさかあんなところに、人がいるなんて思いもしなかっただろう。


「本当にごめんね。あ、中にどうぞどうぞ」

「うん、ありがとう」


案内されて、中に入った部屋は、思っていた以上に広くて驚いた。


「結構広いんだね」

「びっくりしたでしょう?私、『渡辺』だから出席番号が一番最後で…生徒数が奇数だったから、ひとりだけはぶれちゃって寂しかったんだよね。この部屋広いから余計に…。だから雫がこの部屋に来るって聞いて、本当に嬉しかったの」


照れたようにそう言う美保の可愛さに、くらりと眩暈がしそうだった。


ああ、もう…

こんなに良い子をルームメイトにしてくれて、神様仏様本当にありがとう!

今回ばかりは貴方たちの存在を信じます、なんて適当なことを考えながら、部屋の内装をぐるりと見回す。


「雫の荷物は、雫の部屋に運んでおいたよ。こっちの右側の部屋がそうだから」


がちゃりと扉を開けた部屋は、6畳ぐらいのシンプルな家具で統一された部屋だった。

机とベッドとクローゼットと…ベッドの脇には確かに、自分のトランクが置かれている。


「お風呂とトイレはこっちで…兼用のリビングがここね」

「キッチンまであるんだね」


どんだけ揃えがいいんだ、この部屋は…

大体、お風呂とトイレが兼用なのではなく、各部屋に1つずつ付いていることも驚きである。

さすが県内でも屈指の有名進学校、とでも言うべきなのか。

学生なら学生らしく、もう少し質素なものでも良い気がするけど。


「うん、でも私も滅多に使わないよ。ご飯は食堂で食べてるし…たまにお菓子を作ったりするぐらいかな?」

「ふーん、そうなんだ」

「うんうん。…あっ、そろそろ始業式の始まる時間だね。詳しいことはまた色々説明するから、とりあえず今は講堂に向かおっか。今日は始業式の後は何もないから、暇なはずだし」


美保の言葉に頷くと、私達は部屋を後にすることにした。




ルームメイトは優しげな可愛い女の子。

今のところ、首尾は上々…なのかな?




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