そんなのあり?
ありなんだよなあ。
時としてそう言うこと、あるんだよなあ。
なーんて。
あー、それにしても眠い。仕事なんておっぽり出して遊びにいきてーな。このままこの電車に乗ってさ……。
なんてダメダメダメ。
降りなきゃ。ここで乗り換えだ。
おっと、自己紹介が遅れたすまん。俺はふつーのリーマン。年? 聞くな。田舎の親から結婚しろしろとせっつかれてる最中だよ。そこから察してくれ。
それにしても毎日毎日スゲー人数だこと。どっから湧いてくるんだこの人ごみ。この分だとまた座れねーな……。やれやれ。
なんて思いつつ、俺はエスカレーターに乗った。ところで俺はエスカレーター、歩いて登る人。別に急いでるわけじゃないんだけどね。
で、いつものごとく、空いてる片側を駆け上っていた時だ。
後ろからいきなり強引に割り込まれた。おいおいおいおい。アブネーだろう。
文句言ってやろうかと思ったんだが、そいつはそれこそ脱兎の勢いでエスカレーターを駆け抜け、ホームに行っちまった。何なんだよ全く。
てか、もしかして俺と同じ電車かも? だってエスカレーターあがって走っていった方向同じだし……。
もしそうなら同じ車両にならないように気を付けよっと。
と思ってたらさっきのやつがホームにいた。やっぱ俺と同じ電車に乗るんだ。うげっ。
年は俺より少し若いくらい? スーツは一応着てる。汗だくだ。なんか目ギラギラさせてきょろきょろしてる。ひょっとしてちょっと面倒くさい人?
視界に入れないようにして電車を待っていると、なんとそいつがいつの間にか隣に来ていた!
うわ……。
電車がホームに入ってくる……急いで隣の車両に逃げよう……。
すると他の出入り口からもどどっと人が!
やばい。動けにゃい。
つーかこいつ花束とかもってんじゃん。朝っぱらから何する気?
嫌悪感マックス。でも顏に出さずに電車に乗る俺。そいつも乗ってきた。
しかも真隣(なんちゅう日本語や)。うぐわっ。
ど、どうやって離れようか。次の駅でさり気に……。いやもうこの場で離れようとした時だ。
「お、おはようございます」
とそいつがいきなり声をかけてきた!
俺は思わずヒエッと飛び上がった。が、そいつが声をかけたのは俺じゃなかった。
声かけられたのは、そいつの前に座っていた女性だった。
女性も普通におはようございますと挨拶返してる。
ったくおどろかすなよ。ってえれー綺麗な人じゃん。彼女なの? なんだよ隅に置けねーな。
親しいのかぽつぽつと会話を始めた二人。俺はなんかほっとしてスマホを取り出した。ゲームでもして暇潰すか。まだ電車出ないし。
会話はとぎれとぎれ聞こえてきた。男の方が少したどたどしい。分かる分かる、美人前にすると男は緊張するんだよ。分かるぜ相棒(いつの間に)。やがてスマホゲームに熱中し始めた俺。
その時だった。
「僕と結婚してください!」
スマホ落っことしちゃったワーイって。
それ言ったのはもちろん例の隣の男さん。
まさか俺にプロポーズ? いやーん照れるなってんなわけねえだろ。
スマホ拾うのも忘れて見入る俺。
て、いつの間にか跪いてるし。
相手の女性は口の形をОにして固まってる。そりゃそうだ……。てか通勤電車ですよ。
そういうこと、ここでする?
ここでする? ふつうやる?
周囲を見渡す。もはや車内がストップモーション状態だった。誰もがザ・○ールド状態(生々しい伏字だ)。みんなマジマジ見てる。なんかこっちまでこっ恥ずかしくなってきたっ。
「と、とにかく、外に、出ましょう」
女性はささっと立ち上がり、男の手を引いて外に出た。男の足はよろめいてた。おそらくさっきの告白で燃え尽きて白い灰になっちまったんだろう(なんだそれ)。
しっかりした女性で良かったな……君。
で、ここからが傑作だった。
電車がゆっくり走りだしたんだけど、みんな窓際に張り付いて、結末見ようとするんだよ。
ちょっと、見えないじゃん、どうなってんのって。
で、結局どうなったかって、
一番後ろの車両にまで行って確認したやつがいて、Vサインしてた。
いやいや、んなの見えないでしょと俺が言ったら、男が狂喜乱舞してたって。
遠ざかる電車から見えたくらいだからよっぽど飛び回ってたんだろう。嬉しさのあまり。
なりほどね。
はあ。
朝っぱらからえらい目にあった。
そのあと俺は、コンビニによった。今日の昼飯を買うためだ。
バンズとファミチキを買う。
そしてサラダ。
これが今日のお昼。挟んで食うんだ。
昨日まではこの組み合わせは神だと思ってたけど……。
思ってたんだけど……。
あ、いや、なんでもない。
なんでもない。ぐすん。
俺はちっとも羨ましくなんかないぞー!
羨ましくないんだったら。うう。