第八章
他の地域まで反乱が広がったことでバイルでは風向きが変わった。
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その日は劇団の発表会の日だった。
俺は元カイルの支持者で今は政治的にはどこにも属していない野蛮人みたいな男だ。ただそんな俺でもある劇団が俺のことを誘ってくれたことで居場所ができた。今は劇団上のウイングという好人物に世話になっている。着るものから住むところ食事までもだ。昔はカイルが好きだった。カイルの野蛮ながら人当たりの良さが心地よかった。今はプロトとかいう青年が国の実権を握っているらしい。胡散臭いやつだ。カイルはそのまま亡命してしまったが今ではいい思い出だ。
「ラン。そろそろ上がってきてくれ」
「はい。これはこっちでいいですか?」
「そのへんにおいておいてくれ」
俺はランとして新たな居場所を見つけた。
この国では長らく娯楽が禁止されていた。支配層はそんなことには興味がながったらしく一般市民はいつだって娯楽に飢えていた。そんなときウイングが劇団をつくり今では大繁盛している。今日は最後の舞台装置位置決めをしているところだった。
本番が始まった。舞台ではウイングが演じるオペラ歌手が悲劇のヒロインを慰めているところだった。俺の役がやってきた。俺は「木」に扮してただ立っているだけだった。
今日は観客がそんなに多くなかった。たぶん先日起きた観覧船と輸送船へのテロ行為が影響しているんだろう。
今日俺は家族をこの劇へと招いていた。
年の離れた妹のスザン。8歳
弟のヨハン。11歳。
俺とは干支の分だけ年が違う二人が前の席の左側に二人座っていた。家族が劇に出ると聞いて二人の眼は輝いていた。俺は動かない木の役だったがそんなことは二人は関係ないらしくあとでどんな感想だったかと聞いてあげるとでも言うように二人はニコニコしていたのだった。
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ホケンという機能の大切さは霊がよく知っている。
ホケンとして神の代理人朝廷あるいは王を選び支配させる。
物事には裏表がありときに裏は表より深く影響は甚大である。裏から支配を広げるため霊は高級という手段をとる。
影には光がなければならない。光は弊害を持っている。そして物事の闇を照らし出し人々に広く有用である。
気候ということによってもこれは頷ける。
気温差で温度に差が生じ快不快が生まれる。
人の陽、陰は霊媒の影響を受けているか否かによって判断できるがこのとき陰を動かしているのが機構である。
この機構は王の所有物であり万物に影響する。
これが所謂植物園と同義なのは多様性の維持のためである。概して王=光は有益である。
機構は錨がなす。
船が港に停泊することを考えればわかる。
錨が降りていない船が陽で錨が降りているのが既に陰である。人は遅かれ早かれ陰になる。錨は王の不動性であり神話で言われているように(例えばポセイドン)象徴である。
朝廷による支配をmightrageという。
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ノタリコンを多用する。
神を信じている。
神を信じない人は無神教という神をまた信じている。この図式には必ず信じるという枠組みのなかに入ってしまう。
信じることは言葉を信じることだ。
言葉を信じるのは言葉が何かを生むからだ。
そして言葉は元(言)気の元である。全てはここに帰ってくる。最初の約束事。
人は生産するために存在している。
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害は有用である。
害は閉じる力であるからだ。
干支にも亥がある。
12年を閉じるものとして。
暦とは霊界と人との関わりから生ずる精神の陰である。
人の意識は広く閉じることで特徴立つ。
だから害は有用である。
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閣内留府中の覚者が最後の死を迎えるとき同時に大震災となるが覚者がこのことを知るのは同時代にもう一人覚者が出て覚者自身が閣内留府霊になる必要がある。だが原因については覚者は自分のものだとは及ばない。もっと深いところにあるからである。
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神丸は少し自分のことを上の人種だと思っていた。
みんなを笑わしせこいことはする。したいからするそういうやつだった。
そんな神丸が転機となったのは仕事をやめたときだった。
どうしても家にいたかったというのが本当らしい。
上座部が好きでどうしたら家で始まり家で完成するのか見てみたかったというものもある。家では祈祷を中心に夕方起きて料理をしてTVをみて終わる生活をしている。誰にも会うことはない。神丸には60代の彼女がいたがその彼女とは事実婚というような状態でもう何年も前からそんな感じだ。その彼女はグループホームに入っており一回だけそこに行ったことがある。タバコが据えないのが悩みだと言っていた。
転機があれば人は変われる。
もう神丸はアダルトビデオを四年間以上見ていない。
生い立ちがとんでもなかったせいか早いうちから自分でする習慣ができてしまった。神丸は児童養護施設出身だった。そこでは盗み暴力が日常だった。普通とは違ったのだ。神丸は変わった。祈祷にも力が籠る。
神丸は勝ち組だった。
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現代心理学が明らかにしたのは人生の一つの目標はキャラクターの確立である。社会でのあらゆる達成や達成の見込みなどを含んだ期待値を考えた上での他者からのその人の見え方である。その点先進的な人というのはこのキャラクターの2面性、最局地からの最局地を確立した人のことだといえそうだ。つまり才能が開花しないから開花する。マナが足りないから足りるに変化する。自殺から非自殺に変化するなどである。
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月から届いた光がピアノを弾く
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働かない人を働かないからと言って避難する社会は未熟だ。蟻の世界でも二割ほどは働かないで何もしない。働かないことで全体の休眠の力を高めている。人類でも同じだ。転送機というまだ見ぬ技術のため、それを使って宇宙にゴミを捨てるために働かない人はどうしても必要なのである。開発の全体像はフルマラソンではないのだ。
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閉ざす力が亥でありそれは大切だということは分かっている。天才というのもまた人生に必要な力であり天才にも閉ざす力が大きく関係しているのである。例の如くノタリコンにより天才とは天塞てありふさぐ力であり人生において畏くもどこまで天との関係を塞ぐことが出来るかが重大なようである。それは天の贈り物を囲い込み閉じ込める力であり人には多かれ少なかれ備わっていくようである。
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閉じされた古城でも理性は落ちない。それは意志(石)が冷たいからだ。stone cold