第6章
プロトの軍はバイルの軍だった。それは当たり前なことではなかった。バイルは長いこと分裂の時代が続いたためだ。今はプロトの下で力をつけている。財政は主にアイール川での航行の通行税や流れてくる物資の中継地としての役割が幸いし潤沢に増え続けた。それでも一番の収益は寄贈だった。世界からプロトに視線が集まり裏の社会でのアガティールへの反感の声が寄与し積極的にバイルに資金が集まった。軍備は18歳以上の男子の徴兵制度だった。それでもバイルの中ではそれを面白がらない連中もいた。バイルはもともと貴族のシステムが根強かった。プライドの高い純血派が占め歴史としてのゴールの強み穀物の生産性の高さを誇りにしていた。穀物を作るには広い土地が必要だった。国土はアガティールには遠く及ばなかったものの人々の土地に対する思いが高い生産性を産んでいた。良く言えば有効活用していたのだ。
総司令官としてのプロトの仕事は首尾一貫していた。議会で話し合われてことは議会に従いその議会のメンバーもプロトを信頼していた。仕事は朝4時から始まった。午前9時になると各界の関係者がプロトの自宅を訪れ商談や政府の交付金を期待しての話し合いが行われていた。多いときは1日で200人が訪れた。プロトはひっきりなしに各地に呼ばれてそのリーダーシップを発揮した。
ゴールの地にはバイルがあって政府として統治していた。だが国内はまだまだ開発の余地があった。プロトはゴール改造計画と銘打ったプランをマスコミに報道させそのプロジェクトを推し進めた。具体的には国内の道路状況の整理だった。馬車を進めるには道路が必要たった。残念ながらゴールの地では道路状況がよくなかった。道路が開発されれば流通革命がおき地方の経済が格段に良くなる。それを目指してのことだった。国民は新しいリーダーの下で期待ばかり膨らみある種の信仰が生まれ始めていた。プロトならなんとかしてくれる。プロトならなんでもできると。
実際国民は暇だった。新しい公共工事の仕事が入ってくると率先して働いた。それがゴールの強みだった。国民の質である。アガティールには軍事では今は敵わないかもしれない。それでも人間の質においては決して負けていないというのがこの国の風土だったのだ。
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人間性豊かな人というのは苦難も快楽も同時に手に入れたような人であろう。そこには置かれた場所で咲けという標語が深い意味でしっくりと嵌まるような状況である。日本人はこのことがよくわかっていないというのが私の私見である。才能は伸ばすもの、意見は言うもの。力は誇示するものであるというのがこの状況では言えないのである。何が求められているのか?ここでは犠牲一本である。犠牲の出し方というのは前線で起こらないとほぼ無価値である。これは標語を作った霊が決めた天国での決まりのようなものである。犠牲一本。全部差し出さなければならない。それが贄になるために。「これは政治システムの古代よりの原点となる器だ」天国がそう思うまでやり遂げなければならない。
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美学
美学は退行によって保持される。退行しない限り変わらないからである。美の上昇機運はそこから育まれる。
退くは「尻属」である。これはノタリコンだがこれによって高潔もまた退行に位置する属性である。一度高潔になると高潔の世界に留まるようになる。これから所謂退行処理が霊界によって施される。
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全く持って言語道断だ。プロトさんはいつも忙しいといって仕事ばかりだ。私の名前はユキ。トレスカーザミーアの大使としてゴール地方に赴任した。わたしたちの国では恋愛は自由でことあるごとに様々な地方で恋愛の性質を変えるかのように依存して子孫を残してきた。私には妹がいてその子の名はサキという。一緒についてきたいと言って付いてきたものの役には立たずいつも図書館に通っているみたいだ。私達は実は双子でいつも一緒にいた。小さい頃からだ。私はこの国の女性の性質を受け継いだようだった。それもそのまんまダイレクトに。私はプロトさんが好きなんだ。そう気づいたときこれは私の国の性質がもたらすものなのかそれとも私自身が抱いたものなのかわからなかった。遺伝子の性質について思いを馳せればたぶん遺伝子なのいだろう。こうやって強い人についていって子孫を残すことが私達の国の習わしなのだ。そう言ってしまえば簡単だがプロトさんはそれだけでは説明できない魅力がある。たぶん青年期特有の若さと力強さが光を発しているんだと思う。
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俺は珍しく図書館に来ていた。プロトリーダーに従ってから2年になる。時間が経つのは早いものだ。俺はエソの甥実質的指導者になる家庭で生まれた。本当は俺が継ぐはずだった。このバイルを。だがプロトさんが出てきてくれておsレは真っ先に彼に付いていくことにしたのだ。彼にはリーダーとしての才能が溢れている。先見的視野、溢れ出る期待感、そして部下への配慮という慈善心だ。いつか彼が俺に言ってくれたことがある。それはカイルがまだいた頃だった。俺達はエソが死んで落ち込んでいた。
その時プロトリーダーは
「落ち着け、エソは死んでも魂は生き続ける。俺に付いてきてくれないか。サザ」
俺は二つ返事で了承した。
彼の決断の速さと迅速な行動力はこの国を変えた。
俺は決してくじけることをせずついていくつもりだ。
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サザは図書館に来ていた。サザの考えはこうだった。
図書館でバイルについての歴史を調べささやかながら歴史を振り返って教養を高めるという理由だった。
図書館の2階のエントランスでここだと思った本を手に取り一心に読み込んでいたときだった。
「ここ大丈夫ですか?」
その人は若い女だった。短い髪に異国風の服装。髪色は黒だった。
「大丈夫ですよ」
一瞬心が動いたが平静を装い合図する。
「今日は暑いですね」
その女は見た目20代前半という感じだった。暑いですねと聞かれたら何か答えたほうがよい。世間体だ。
「そうですね。どこから来たんですか?」
「私はトレスカーザミーアから来ました。なんか面白そうな本読んでるなって思って」
「そうですか。この辺ではやっぱ珍しいですか。今の時代に歴史本なんて」
「いやいやそんなことないですよ。私も歴史は好きでいろんな国に行きました。」
「へえ例えばどんな?」
」「この国もそうですけど南部ヤマトとかリンド、アガティールとかいろいろです。」
「旅行好きで歴史好きですか。色々知ってそうでおもしろいですね」
「私なんて全然。姉の方が色々知ってます。私サキっていうんです。南部ヤマト風の名前でしょ?姉はユキっていうんです。もともとはヤマトにいたんですが親の都合でトレスカーザーミアに住んだんです。今はバイルに来ました。」
「お姉さんがいるんですね。想像できません」
「そうですか。私達は双子なんですよ。」
突然雨が降ってきた。
「いけない。傘を忘れてしまった。今日はこの辺で」
サザが慌てて言った。
「待ってください。私の傘でよければ入りませんか。」
「いいんですか?」
二人はたまたま出会った縁で同じ傘で帰路に着いた。
サザの住居は政府機関の橋舎だった。
「政府機関の人ですか?」
「ええまあ」
その瞬間サキの瞳が黒く焦点が輝いたように見えた。まるで猫が獲物を狙うときのように。そしてそれはトレスカーザーミアの女性の宿命天性の才能を意味しているかのようだった。すなわち強い男性に取り入り子孫を残すという性質だ。
雨はそのあと止んだ。
31歳のサザに春が訪れようとしていた。