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GAIAS-ガイアス【帝国からの独立】  作者: nanayoshisekai
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第三十九章

黄金の稲穂がある稲畑に来ていた。周囲は閑散としていて人はまばらで時折子供たちの遊び声が聞こえる。近くには穴が空いた帝国の旗が無惨に掲げられていてもうアガティールの面影はない。

ひぐらしのなく声が聞こえバッタが勢いよく飛び出した。

プロトはふるさとへ帰ってきていた。ここは以前父と母そして幼馴染のユンと過ごしたあの小さな村である。山犬が里へ下ってきていて人間を恐れている。プロトが歩き出すと一目散へ山へと帰っていた。

プロトはかつて見慣れた風景の前まで帰ってきた。

ユンの家である。

もう誰も住んでいない。ユンに報告したかった。ユンと話をしたかった。しかしユンは帝国に殺されてしまった。しかし帝国は自分が滅ぼした。このことだけでもユンにとっては大きな慰めとなるはずだ。

プロトは一束の花束をユンの墓標へ置きしばらく祈った。どれくらい祈ったのだろう。周囲には川のせせらぎが聞こえる。カワセミがいたかと思うと飛び去っていった。少しした後プロトはユンの墓標からゆっくりと立ち上がり一礼したあと立ち去った。

そのときだった。風がしなったかと思った瞬間よくわからない幻想が見えた。眼の前の岩のところにユンが立っている。ユンは悲しくても嬉しくともない厳かですこし微笑んでいる表情のまま立っている。

「ユン、ユンなのか」

プロトが言っても返事はなくただ微笑んでいた。その時プロトは自然と泣き出してしまった。

「俺はなんてものを見ているんだろう。」

プロトが次の瞬間声を発しようとうしたときユンは風の便りとともに消えていた。

とても不思議な経験だった。

ユンは俺が報告をしたとき聴きにきてくれたのだろうか。それともあの時助けてあげられなかったことを怒っていたのだろうか。おそらく前者だろう。ユンは笑っていた。

この村の風景とともに時代は変わった。今や帝国はなく殺戮者もいない。平和が訪れた。

各地で帝国により人は死に搾取されてきた。だが帝国の残滓すら残らないほど村は一新された。人々が新たな経済活動を探して仕事に勤しむ様子が有り有りと目に浮かんだ。

あのとき死んでしまったユンにもう一度伝えたい。

「ユン。帝国は倒したよ」と。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

戦後の各国の状況はこうだった。

センティーヌの隣国リンドはその農業技術を更に活かして穀物生産能力を飛躍的に上げた。

アガティールには賠償金を請求している。

市民の中にはアガティールをよく思わなかったことから親アガティール派と度々トラブルが生じている。

南部ヤマトでは有名な詩人カララスという人物が一躍有名となってこの戦後社会を皮肉った詩を披露し世間を賑わせている。

トレスカーザミーアでは市民の教養を高める教育が盛んに行われ大学が無償化した。

政治では二度とアガティールを産まないことを目指し世襲制をやめている。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


戦後15年経った頃。

プロトには新しい生活があった。

「お父さん。仕事?」

「そうだよ。仕事」

「もう!忘れ物だよ」

「サンキュー。ルイ」

プロトは政治の世界から惜しまれながらも引退し子供をもうけていた。

名前はルイ。女の子だ。

社会に出ればプロトのことを知らない人はいないくらい有名であった。故に隠棲できないことが悩みだったがこの度いい仕事が見つかった。研究者の職である。パルデア大陸の歴史研究者という職は研究対象が豊富で科学者にも引けを取らない面白さである。何分社会は今大量生産主義を採用し物が大量に消費されている。プロトはそんな社会で研究者になることを選んだ。時折テレビ番組からの取材などには対応しお茶の間を楽しませている。

人々が楽しんでいるのはプロトの子供ルイのことだった。ルイは性格がやんちゃでありえないほどの陽気っぷりだった。笑わせるのが好きで笑いすぎて怒る人が出てくる始末である。ルイワールドと呼ばれている。一度火がつくと止まらずマシンガントークが鳴り止まない。そんな子供だった。自分の世界を持っている。

そんなルイはもう中学校に入学する時期である。世間はそんなことを話題にしている。ルイは花のように思えた。


今日も変わらない毎日だった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

禍根はなかった。

もう新しい家族がいる。でも時おり昔を思い出して懐かしくなる。

時代を動かすのは人だ。

人々は新たな歯車を回して今日も地球が周っている。

なんてことのない日々に価値がある。

何もなくていい。ただ人のぬくもりがあれば。

でも時々思い出してもいいだろう。死んでしまった人のことを。

例えばユン。

幼馴染の彼女が生きていたら今頃結婚していただろう。でもそれは叶わない。

日常に光を。

死者の霊は時々持ってきてくれる。

泉から湧く水のように記憶は忘れない。

世界は動き出した。

ここからは歯車となって人知れず歴史に貢献していくつもりだ。難しいこともあるかもしれない。そんな時は忘れられない人のことを思い出そう。

きっと力になってくれる。

ここにプロトの新たな光が芽生えた。


                    終わり

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