第三十五章
霊界にいる衆生が所謂全知と呼ばれることについて少々書きたい。彼らが何故全知なのか。なんの意味で全知なのかである。広い宗教に対して狭い宗教がある。一般に科学は人体の不思議に対し段を追って解明していくものである。人体には魔法と呼ぶべき転送がありこれは量子力学でも言われていることである。呼吸ですら有り得ないエネルギーの転送が行われておりこれは狭い宗教であると吾輩は呼んでいる。衆生はこの狭い宗教に対し莫大な知見を有している。この意味で全知なのであるがどういった衆生の特性なのだろうか。これがズカンである。王権の一種であり霊のレガリアの一つでもあるCROWN、王冠のことである。吾輩が覚者となったときからズカンはかかっていたがあるときからとても強いズカンとなった。これは頭冠ということでありこの状態になれば衆生はあらゆることを参照し始める。これは意識への参照でありまた未来過去への参照でもある。人間の世界でもある図鑑のようにこの頭冠はあらゆることがわかってしまうのである。人間の図鑑はその点間違いなどもあろうかと思われるし無用とも言われる項目があるかもしれないが衆生の頭冠は衆生という性質上完全であり狭い宗教という領域において他に類がない。西洋人が戴冠をしていたのは王に霊を集める王冠を地上に示しあらゆる知識を王権神授の下に呼び込むための儀式である。王冠はそのように使われる。
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当然であることを示す方言としての「もん」。何とかだもん。霊に言わされば北門から来たもん。蓋然性を現すこの言葉「もん」について。
北門から来た霊から逃げる方法は桃である。古くから桃は魔除けとして用いられその起源は木偏に北ということである。北門から来た霊は桃によって北門から逃げられる。来た門から逃げるので桃である。
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戦争が始まる予感がする。プロトとサザは思っていた。人々が盛んに国威発揚を掲げてデモ行進などを行っている。まるで取り憑かれたかのように行進している様を見ると時代が変わったことを実感した。
反対にアガティールでは戦争忌避の声が根強かった。そこは変わらなかったが政府は違った。
軍事演習をアガティールはすることになった。
少ない国家群と一緒に合同軍事演習である。
突然の発表だったので誰もセンティーヌの民は戦争がそこから起こるとは考えてもいなかった。しかしこの有り様の裏にはとても邪悪な人の裏の顔が隠されていた。アガティールの国民は外向けには戦争が嫌だと言いつつも心の底では他国を倒し支配したい欲求が渦巻いていたのだった。合同軍事演習もその結果がもたらしたものとも言える。
合同軍事演習はすぐに始まった。
まずアガティール内の鉄道を使い軍隊を送り込んだ。予定地はバイルの近郊だった。
このことに怒り狂ったのが今は島国にいたプロトだった。すぐに政府会議を開き対応策を考えた。考えるといっても故郷の近くで軍事演習など考えられずすぐにこちらも軍隊を送り込んだ。
最初はアガティール軍は合同で戦争兵器を無駄に消費させるためだけの空地に打ち込んでいただけだった。しかし軍事演習では予期せぬことが度々よく起こる。対面していたセンティーヌ軍に対して発砲が行われてしまった。それを機に両者は宣戦布告を開始し全面的な戦争が始まった。
この戦争には演習を始めたときからカイルもいた。
カイルはわざとセンティーヌに発泡するように命じそのいい訳はわざとじゃないというものだった。
ここにかつての選挙のようにプロト対カイルの戦争が始まった。今度は実弾を交えた怖い怖い戦いである。
プロトの指示の下センティーヌの軍は整っていた。第一陣に歩兵部隊がいた。彼らは軍事演習が始まった頃から塹壕を築いていた。その後ろには遠方射撃として迫撃砲部隊がいてそこに並んで戦車が並走していた。第一陣の歩兵部隊は非常に士気が高くプロトは信頼していた。しかしアガティールにはGAIASという兵器があった。プロトの読み通り最初はGAIASを出さないようだった。カイルはカイルで純粋に戦争を楽しみたいという理由からだろう。カイルのことは結構知っているつもりだった。
歩兵部隊は次々と演習で奪われたバイルの土地を奪い返した。その裏には迫撃砲の正確な援護が勿論あったがこの土地が元々センティーヌのものだったことから土地勘が働きやすかったというのが本当だろう。
プロトの隣にはサザが軍事大臣の役割を以て就いていた。
「サザどう思う?」
「カイルの考えは最初はこちらに武があってもいいというものでしょうね」
「なるほどな」
そうだまだGAIASがいる。一瞬で現在の世界情勢を書き換えた恐ろしい兵器だ。しかしこちらにもGAIASのコピーがある。
このコピーを託したラーミア・シュルタンとは出撃前約束をしたばかりだ。
「プロト、必ず帝国を倒してね。私が作ってしまったあの子どもを倒して世界を平和を守って。これは約束よ」
ラーミアとの約束はぜひとも守りたいものだ。しかし状況によってはこちらが苦戦を強いられるかもしれない。でも何としてでも帝国をカイルを倒してみせる。
一方カイルは部下で将軍のワルター・セビウスと高みの見物をしていた。ワルターはこの戦争で将軍を任されていた。
「ワルターよ。どう見る?」
「やはり土地勘があるだけですね。こちらの物量には叶うわけもありません。近代兵器の力とくとご覧にいれましょう。」
そうだな。楽しみだ。ここでセンティーヌとかいうバイルから名前を変えた新興国家を打ち破り世界にアガティールの名を轟かせ俺のことを崇拝させてやるのだ。そうだな手始めにこのバイルの土地に俺の銅像でも建ててやろう。
「しかしこの戦争どちらが勝ってもおかしくないのぉ」
そう言ったののはこの戦争で即座に中立を宣言したトレスカーザミーアのタカサキだった。タカサキはアガティールに占領された後多額の賠償金を払って金で解決をした男である。タカサキは今も昔もトレスカーザミーアのトップに建っている。この態度は他国にも波及し次々と中立宣言を行う国家が増えた。
「元々は軍事演習とはいえこの規模やはりどっちが勝つかのぉ」
タカサキはどちらが勝っても都合が良いと考えていた。戦後処理ではリーダーになる筆頭国であるトレスカーザミーアなのだからだろう。しかし心の底ではセンティーヌに勝ってほしかった。
歩兵部隊が進んでいた。バイルを流れる一級河川テムイ川まで来たところだった。センティーヌの師団長ムイはこのままいけば自分たちの軍が勝利すると思っていた。部下にはクリスマスまでには帰れると約束しそのためには重い貢献が必要だと熱弁し部下もそれに応えてきた。テムイ川を渡ろうとした時だった。反対の岸辺の林の中からやけに士気が高い声が聞こえたかと思うとその数はみるみる内に増え一斉に発砲をしてきた。センティーヌの歩兵部隊は次々とやられ部隊は引き返すことを強いられた。
向こう岸にいた部隊、その正体はトレスカーザミーアの捕虜部隊だった。驚くべきことだった。
ワルター・セビウスは状況を注視していた。そして状況が動いたことに勝ち誇っていた。
何せあの部隊は先のトレスカーザミーアでの暴動の際タカサキから金と共に献上された生贄だったのだから。タカサキからはどう使おうと構わないと言われ早速ワルター・セビウスは使ったのだった。
タカサキは冷酷だった。国を守るため金と生口を捧げ大国アガティールの機嫌を取ったのだった。
この捕虜部隊は近代兵器で武装していた。士気が異様に高かったのは高額な報酬が約束されていたからに他ならずその任務はセンティーヌの歩兵部隊を押し返すことだけだった。いわばこれはカイルとワルター・セビウスのゲームのようだった。
そしてカイルの後ろには最大の保険GAIASが控えているのだった。この戦争は振り出しに戻った。プロトは頭を抱えてサザと話を始める。これからどう動くか。プロトは長引く戦争で疲弊していた。




