第三章
エソはかなり信用のおける人物だった。
長い間バイルの国の補佐官として活躍していた。
プロトは18歳になっていた。
母親の反対を押し切り反アガティールを掲げる武道派組織バイルに志願し見事に受かった。
バイルはゴール地方でかなりの力を持つようになった。
政治にも干渉したりフィランソロピーなどの活動で市民からの支持を得ていた。
エソはある日プロトにこういった。
「なあプロトよ。お前ももう18歳だ。もしアガティールが攻めてきたらどうする?」
プロトは答えた。それも一瞬で。
「俺はアガティール帝国を許さない。だからバイルに入ったんだ。当然蹴散らしてやるよ」
エソは一旦考えた後再度問い直した。
「プロト。お前は何が一体過去にあったんだ?」
プロトはそれには答えなかった。
だがプロトは密かに胸に思った。
エソは信頼できる。
まず確実にカイルとは違う。
カイルというのはエソと争っているなかなかの実力者だ。傲慢で権力欲があり人との争いが好きな奴だ。
その御蔭で武闘派の連中はカイルに従うようになってしまった。
今バイルで起こっているのがこの総司令官の座をめぐった権力闘争だ。
ここには穏健派のエソと武闘派のカイルとの一騎打ちという構図がある。
プロトはもちろん信頼のおけるエソについて従った。カイルは野蛮という性格が合っていて人殺しが好きだった。正義の名のもとに実行するのが大好きな野蛮人でありエソとは相容れなかった。もちろんプロトとも。
今度エソ勢の決起集会がある。そこにプロトもついていくことになっていた。そこでプロトはエソの補佐をする予定だった。前日の晩奇妙な郵便が届く。
内容は簡単に
「お前は監視されている。いつかお前は。。。」
という謎の予告文だった。エソはそのことをプロトたちに伝えなかった。なんてことのないいたずらだと思ったからだ。だがこのことが後に起こる事件に少なからずも警備の面で後手に回ることになるとは実行者以外知らなかった。
当日
群衆の前でエソは演説をした。
「現在のバイルの情勢は極めて劣悪である。アガティールの侵攻に加えバイルでも内部分裂の危機がある。そこでだ。みなの衆、新たに国内で流通する外国製品に関税をかけ国内産業をまもっていこうではないか。そうすることで新たな歳入が増え国防にも予算が回せるというものだ。俺に着いてきたいものは言ってくれ。俺の仲間が全力で歓迎する。ぜひとも俺に力をくれ」
エソの演説の最中だった。
「バン」
突然銃声がなった。その瞬間エソが壇上から倒れた。
プロトはすぐにエソに駆け寄ったが頭を打たれて重症だった。かすり傷にみえたが頭は大変なことである。もう状況が悪いことは明らかだった。
見物人のなかに銃を持った男がいた。すぐにエソ側の支援者に取り押さえられた。
エソは死期間近だった。最後にいいたいことがあるかのように口を動かした。周囲の人間が集まり状況を見守った。
エソはボソッと口から言葉を漏らした。
「プロト、お前を俺の後継者に指名する」
その言葉は衝撃的だった。
周りにいた者たちも訝しむようにプロトのことを見ている。
実際プロトはまだ18歳だった。それだというのにバイルという国を背負って経つかもしれない後継者、それもエソというリーダーの後継者に指名されたことがありえないことだった。そしてエソは息を引き取った。
周りにいた連中はどいつもこいつも実力者ばかりだった。自分たちの権力が使える立場というものを重んじ自分たちだけのことしか考えない無能者ばかりだったというのがプロトの感想だった。だからこそだ。だからこそプロトがこの国を変えていかなければならなかった。
翌日から牢に捉えられた実行犯の拷問が始まった。かと思ったがその男はかなりのビビリでありすぐに真相を吐いた。
「俺は金で雇われただけだ。命令したのはカイルだ」
そこにプロトはいた。
状況はわかった。カイルの一派が絡んでいることもわかった。
プロトはいった。
「金で雇われたどうかなんて関係ねえ。お前はエソになんの恨みがあったっていうんだ。エソを失ってこの国は大混乱だぞ。」
「そんなことは知らないね。さあ早く解放してくれ」
「そんなことってなんだ。お前のやったことは重大だ。お前だってゴールの地の住民なんだろ?罪悪感はないのか?」
「俺はゴールで生まれたがむかしからエソの奴を恨んでたんだよ。それに罪悪感だって。?戦争に戦争、戦争で始まり戦争に終わる現代の空気感のせいなんだ。俺は悪くない。さあ早く開放してくれ」
プロトはこれ以上話しても無駄だと思った。それにエソはもういない。これからいろいろなことがあるだろう。プロトはまだトップに立ったわけではなかった。カイルとの一騎打ちが待っている。ここでこの実行犯を逃がしたらカイル達の笑われるに違いない。プロトは命令した。
「処刑しろ」
その実行犯は電気椅子で殺されることになった。
最後までカイルの連中は何をしでかすかわからないと思った。
カイルは殺戮好きで権力にしがみつく体質のある男だ。
カイルのやり方はなんとなくわかった。これからは俺も無情にならなければならない。
「やったよ。ユン。俺はカイルに勝ってこの国の王になる。そうしたらアガティールだってぶっ潰してやる。待っててくれ。ユン。天国で」
プロトの天眼は簡潔にできていた。
権力構造のしがらみを見抜き削減する。
実行力もあった。
すぐに部下たちに賄賂や献金をやめさせて独自にKOPという機関もつくった。このKOPは警察機構に対する諮問機関で独自の調査権を持っていた。ここに通報すればとりあえずは話を聞いてもらえるという仕組みを作った。
カイルの側は停滞していた。
暗殺などをしているぐらいだ。
市民からの信頼は薄かった。
元々カイルはゴールの地にいた貴族の末裔だった。純血派と呼ばれ崇められていたがそれは過去の栄光だった。カイルの周りにいる支持者も土地の豪族などの支援者だった。
一度カイルと話をする必要がある。プロトは思った。
電話回線はある。エソが残したものだ。エソは生前言っていた。
「カイルは危ない奴だ。すぐに部下を殺す。それに市民の声もまったく聞かない。諂うのはもっぱら自分より高貴な貴族にだけだ。そういう時は決まって賄賂を渡すんだ。とんでもないやつだよあいつは」
そんなことを言っていた。
エソはそう入っていたもののカイルには会ったことがない。
プロトが新たな後継者に決まったことは新聞で伝えれている。市民もそれをわかっている。当然カイルに耳にも及んでいるはずだ。
エソの死から一ヶ月後。エソの葬儀も済んだ頃だった。
電話がなった。
着信はカイルからだった。
出るか迷ったが執務室にはプロトの他には誰もいなかった。緊張はしたが電話に出た。
「よお。お前がプロトか。」
しゃわがれた男の声だった。隣には誰かいるのか話し声が電話に入ってくる。
「ああ俺がプロトだ」
「エソが死んだらしいな」
「ああ。でどの口がそんなこと言ってる?お前がやったんだろ?」
「お。すべてお見通しってわけだな?さては掴まえたあの男に拷問でもしたか?っていってもあいつはビビリだったか?他に適任がいなくてよ。あんな奴しか出てこなかったぜ」
「エソのことはもういい。お前は絶対潰してやる!」
「お前がか?ハハハ。無理に決まっている。まだ若造だろ。俺たちはな。エソさえいなければどうにでもなると思っているんだ。俺が次の選挙でリーダーになったらな。アガティールに献金決めまくって部下にしてもらんだ」
「とうでもねえ。市民の感情はどうするんだ?」
「俺たちだけよければいいのさ。まあいいさ。次話す時は選挙のときだ。どんなやつか見ものだぜじゃあな」
「ツツー」
実際とんでもないやつだった。俺たちはバイルはフィランソロピーなどの社会貢献活動もしている。それなのにカイルのやつは自分たちのことばかり考えている。
こいつには絶対勝つしか無い。それから少し考え部下を呼んだプロトはカイルの過去を調べるように部下に命令した。敵のことは少しでも知ったほうがいいという判断によるものだった。
カイルとの一騎打ちが迫っている。少しでも有利に勧めたい。
これからプロトの野心が膨れ上がっていく。だが同時に理性もまたプロトの中には内在していた。
プロトはむかしから用意周到だった。この国は稀である。
何事も計画を通して進めそれに合わなければその都度対策を考えた。
プロトに出来ることはいつもユンや家族が見守っているようにプロトの中から湧き出てきた。
これからは俺がアガティールを蹴散らすんだ。そのためには今、この国で頂点に立たなければいけないんだ。何がカイルだ。そんなやつはどうでもいい。俺が見据えるのはアガティールの皇帝パーディアだけだ。パーディアはもう何十年も国内で独裁体制をしいている。隣国にも度々攻め込んでいる。そして俺たちの村にも。
思い出すだけでも腹ただしい。そのせいで俺の幼なじみのユンが死んだんだ。俺はパーディアを許さない。
独特の野生と天性の直感でプロトの快進撃が始まる。