第二十九章
東から昇った太陽はまだ南の空に昇ったばかりだ。正午頃プロトの下に来訪者があった。トレス・カーザミーアの王子サイトという人物だった。何用かと思ったが他国から来た来人を無碍にするわけにもいかずサザと共に対応することになった。今は忙しいのだが。
その男サイトはプロトたちに謎の警告を残していった。大国アガティールは強大でありいくら風向きが変わったからといって簡単に勝てると思うなかれとのことだった。そしてカーザミーアはセンティーヌと同盟国には理由あって協力できないとの申し出だった。それは良い。元々トレス・カーザミーアは昔からアガティールに支配されていたわけではない。近年のアガティールの懐柔策によりアガティールに好意的になっただけの国である。元々でないことから戦争になってアガティールに共同戦線を張ったところで士気が高いわけでもないだろう。
サザは初めから疑っていた。どうしてカーザミーアから使者が?何かのスパイだろうか。等と疑ってはいたもののこれは何か良くないことがあるのかもしれない。
カーザミーアはアガティールに本当に協力するかもしれませんね。
サザは言った。
それならカーザミーアも叩いて目を覚ましてやる。
しかしどうなのだろう。カーザミーアはGAIASにより殲滅を受けた国である。
どういうわけか懐柔策に従順である。
裏で何かありそうだ。
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「カーザミーアへの金はどうなった?」
カイルの声だ。
密室で誰かと話している。
「カーザミーアに金とGAIASを渡せば向こう一生アガティールについてくるだろう」
カイルの読みである。
カーザミーアの土地は農耕に適さない。だが昔から中継地として栄え銀行業や不動産などで生計が立てられてきた。そういう職業の人が多い国というのは野心家が多い。少なくてもこの世界ではそうだ。
カイルはGAIASの技術を渡しカーザミーアに共に世界を支配しないかと裏で取引していた。
殲滅を受けたって所詮他人のことだ。
「今生きているトレス・カーザミーア人にとっては目先の利益のほうが大事なのだ。そういう国であるカーザミーアというのは。」
部下に話を終えると庭に出て酒を飲み始めた。
カイルは既に実質的指導者だった。
*
「それでどうだあの技術は?」
カイルとある人物が電話をしている。場所はカイルがいる庭とトレス・カーザミーアの領土のある島。
「順調です。我々が送り込んでいるスパイからの情報ですとセンティーヌは既にGAIASに類似した技術兵器を4機所有しているそうです。」
「やはりな。あの女ならやりかねん。ブラックボックスって言っても開発者なら可能だろう。」
謎の人物とカイルの話はセンティーヌの有利を取り崩すほどの情報のやりとりだった。
「それでS計画はどの段階になった?ワルター・セビウス」
驚くべきことだ。かつてアガティールの軍人で将軍にまでなったワルター・セビウスが今はトレス・カーザミーアに寄生虫のように入り込み外部との通信まで任されている。これは国同士の対話でである。
そこはタカラ島という島だった。
何の変哲もないもないただの島だったが4年ほど前から住民は近づけなくなった。それも近くに住むことさえ出来なくなった。やっているのは爆撃だった。大きな衝撃音が聞こえてくる。
このS計画は所謂AIによる無差別爆撃の実験のことだ。あらゆる障害を一斉に排除することを目標として人力での目視をやめてAIによって爆撃するという恐ろしい計画だった。
トレス・カーザミーアはAIの技術は世界一だった。
最初は使えない技術だと思われていたがGAIASの登場により情勢が変わった。
それに目をつけたのがカイルとワルター・セビウスである。GAIASにAIを搭載し無差別に殺してしまう。このタカラ島ではAIの認識の精度を上げるため島中を実験場として日夜爆撃が行われている。AIによって。
「計画は90%の精度まで来ました。砲門を少し弄る必要はありますがこれで敵の都市は壊滅可能になります。」
ワルターが報告するとカイルはほくそ笑みながら酒をズカズカ飲み始めた。
GAIASの登場で世界は変わりAIがそれを援護する。そういう軍事革命の世界に彼らは生きている。センティーヌの盟主であるプロトはこの力の前にどうやって立ち向かうのだろうか。




