第二十八章
帝国の分裂が目立ち始めた。
大臣たちは皇帝に対する畏敬を失ってきているし選定ナイトに関しては各々好きなことをやり始めている。そんな状況に対して選定ナイトであるNo3トールという人物が異議を唱えた。
皇帝は本来神聖なものだし何事も国家に対する忠誠を忘れずにもっと気を引き締めるべきであると。これは当然の流れだった。本来の自浄作用である。このトールの意見に賛同したのはわずかだったがみんなどこかで納得した。
だがこれを許さなかったのがカイルである。
カイルはトールの暗殺を企てた。部下に指示をし食事に毒を盛ることにした。皇帝シンはそんなことは知りもせずただトールの存在に救われた思いだった。カイルはシンにだけはトール暗殺の計画がバレることのないよう立ち回り政府内に協力者を作っていった。トールの声は最初は小さかったが徐々に大きな輪となり大きくなっていた。選定ナイトたちも自らの義務と職責に対する畏敬の念を感じ始めて皇帝の前では好き勝手しないようになっていった。
時期尚早だと思っていたトールの暗殺も早める必要が出てきた。そこでカイルはトールの出自をまず探った。するとカイルと同様、元々は南部ヤマトの出身であることがわかった。部下達に指示をし画策を始まる。カイルの計画はこうだった。暗殺に毒見を用いる。当然誰がやったのか問われることになる。しかしトールは南部ヤマトの人間である。南部ヤマトはラーミア・シュルタンの出身地である。GAIASを設計した人物であるものの今はセンティーヌに亡命し敵国人である。その情報を活かして死んで当然であるとするのがカイルの計画だった。敵国人は敵国人。それで納得すればよいがしなくても構わない。政府内で不穏な動きをしたものは選定ナイトNo1であるカイル本人が裏で画策し動きを止めるという流れである。もう皇帝に信頼が集まるような動きは封じる必要があるとカイルは考えていた。すべて自分の傀儡として支配することがもうできる段階に来ていた。前先帝であるパーディアはもういない。この国の特徴は実力主義である。実力があれば事情は考慮せず何でも流れのままに動く特徴がある。パーディアが死んだときもみんな暗殺を疑ったが年齢からくるものだと錯覚した。そんな中政府内にでてきたのがカイルである。カイルのリーダーシップにみな酔いしれた。カイルのカリスマという事実がカイルの出自がどこであろうとも構わないというバイアスの働かせカイルの実力のみが評価された結果である。
毒見係が食事に毒を盛った。
カイルは笑みを浮かべながら状況を注視していた。
皇帝シンは少し前からトールを重役として側においていた。このままでは改革が進む気配があった。
食事はこの日閣僚を集めて行われた。トールの食事に毒がある。この事実だけでカイルは笑いが止まらない様子だった。しかし大笑いが我慢して状況を待った。トールが箸を持つ。食事を食べた。
すぐに異変が生じた。
トールが苦しそうに喚き始め周りは何事かと動揺し自分も大丈夫かと疑心暗鬼となっていく。
「これは毒だ」
カイルが大声で叫び周りに伝えた。内心は笑いで可笑しくなりそうだった。
その日は誰がやったのかという話題で持ち切りだった。しかし誰かがトールは南部ヤマト出身であることを口に出した。最近の政府内では純血派が勢いを持ってきておりアガティール帝国の民族色を全面に押し出していた。南部ヤマト出身であるとわかるとみんな一様に黙り込んでしまった。
カイルは死んだトールの部屋に向かった。部屋は本で山積みだった。家族の写真などが壁に貼ってある。
そこに奇妙な政府資料を見つける。それはシンの直筆だった。
内容は今後、センティーヌと和解しGAIASは廃棄するという内容だった。これには余裕ぶっていたカイルも尻もちをついたような形となりやがて怒りが彼を支配した。すぐにシンの前に恫喝のような形で詰め寄り尋問した。センティーヌと和解などあり得ない。やつらは潰す存在だ。カイルは2時間以上シンに恫喝を続け、ついにはもうしないという確約を得た。
*
危ないところだった。あのままトールが生き続けて政府内でセンティーヌとの和解の声が強まってしまっては俺がこの国にいる理由もなくなる。のし上がってきた意味もなくなるし何より俺の野望が打ち消されてしまうところだった。センティーヌとその同盟国を潰して世界を牛耳るというのが俺の野望だった。しかし皇帝も危ない存在だ。暗殺か幽閉というのがベストな選択肢だ。幸いトールが死んだことで政府内は再び皇帝に対する不満が出てきている。
しかし暗殺は出来ないか。シンには子どもがいない。アガティールそのものが崩壊することになる。
しかし一定の支持さえあれば俺が皇帝に即位することも夢物語ではないはずだ。シンはもう俺の傀儡だ。なんでもいうことは聞く。今度不穏な動きを見せたらどうなるかも言ってあることだしな。
こうして自浄作用として皇帝復権の動きが出てきたところをなんとか押さえつけたカイルだったがまだセンティーヌが十分な戦力を整えたことはまだ知らないのだった。




