二十一章
このところ体調が優れない皇帝パーディアだったが属国である南部ヤマトの技術者がセンティーヌにいることを知ってますます容態が悪くなった。
皇帝の機構は政治部、財政部、軍部、庶務部と大まかに分けられる。その中でも最もアガティール帝国で尊敬と崇拝を受ける職が選定ナイトである。選定ナイトはどの部にも属さずその権力は政治部右大臣すら越えている。彼らは6人からなる選定ナイトとして皇帝に直属し独自の統治権すら持っている。
この日選定ナイトの新しい任命式が行われた。序列六位が年齢により退役したのだ。その式典は厳かに、しかも秘密裏に行われた。知っているのは皇帝以下、その近くにいるものだけだ。テーブルには豪華な花、その壁には動物の鹿の剥製、ロウソクが六本並び五人の選定ナイトが集まっていた。赤の絨毯を並べた先に入ってきたのはカイルだった。
右大臣として活躍していたカイルを皇帝が見逃すはずはなかった。カイルの性格はもちろん皇帝は知らない。ただ仕事ができ話が上手いカイルを皇帝は気に入ったのだった。皇帝の前に跪き任命式を終えたのだった。五人の選定ナイトはカイルを歓迎しカイルも楽しそうにしていた。ただカイルの心中はもっと邪悪なことを考えていたのだった。「もっと上へあわよくば皇帝の座に」、と
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その日アガティール帝国ではアガティールの一部機関が主催、推奨するスポーツ大会が行われていた。スポーツの内容は射撃。
各国から選手が集まり盛り上がっていた。この場は外交の機会でもあった。シン皇太子は政治として利用しようとしその会場に足を踏み入れていた。観客席の特別室に入ったシンは開会の宣言をし射撃大会が始まった。アガティールは独裁と暴力により孤立していたようにも見えたがこれが所謂各国に対する飴の政策の一部だった。大会では誰も注目していなかったアガティールの選手が優勝を果たした。
彼は射撃に強かった前回も優勝している海国ウユニの選手を得点で遠ざけ勝っていた。三位の選手は同じく海国で石油が取れるティンバー国の選手だった。
すぐにシンはそのアガティールの選手を呼びつけてカメラマンと一緒に写真を撮った。会場は声援で盛り上がっていた。テレビカメラマンも今がチャンスだと言わん限り近づき栄光を記録に蔵めていた。シンは選手の名前などどうでもよかったので名前を知らなかったがその時初めて彼の名前を見た。ユーイという選手だった。アガティールの選手が優勝したのは大会が始まって以来初めてのことだった。すぐにアガティールの中継が始まり大会会場のスタジオに呼ばれ取材が始まった。アガティール帝国内の家庭ではテレビのお茶の間はその中継をしているチャンネルに釘付けとなった。
アナウンサーが質問をする。
「おめでとうございます。ユーイ選手。最後は10点三連発でした。勝因は何処にあったのと思いますか?」
ユーイという選手は出で立ちは若い青年だった。どこか鍛えているのがわかってくるような雰囲気で努力家がにじみ出ている。ユーイは少し考えた跡その頭に巻いたローブを少しずらし答えた。
「ぶっちゃけいっちゃうとね。アガティールが優勝するのは初めてでしょ?。いつも優勝するのはウユニの選手かティンバーの選手。何十年も。この差はわかる?これはね。アガティールの言語が3つの文字を使っているでしょ。平文字。名文字。解字。しかも解字ときたら他国が発明した文字でしょ。それに比べてウユニの言語はわかりやすく発音記号だけを文字としている。それも発明したのはウユニの人だ。ティンバーも同じだね。俺はねこんな3つの文字を使う民族では射撃の際意識が固定出来ないと思っている。特に集中を必要とする状況では頭の中でいちいち考えてきた癖が出ちゃうからね。だからさ俺は独自に文字を創った。それも簡単なものさ。それのおかげで射撃で優勝できたのさ。」
長い話の後アナウンサーは納得していろいろと他の事も聞き出そうとしていた。
こうしてユーイという一人の長い一日が終わった。
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吾輩はタバコを吸ったことを後悔すべきなのだろうか。タバコに限らないらしい。一般に中毒患者と言われるもののことだ。彼らは死後転生の速度が上がる。これは`地`の力が強く肉体の楽しみも依存系となるため死後の世界に長居しにくい。閣内留府霊のように長期間、天に留まる霊はさておき普通の霊よりも転生のスピードが上がるようだ。吾輩の考えはいつもできるだけ長生きしたいというものだ。長生きすれば時代が進む。技術が開発され社会はどうあれ少しだけ楽になる。タバコを吸ったことで天に留まる時間が少なくなれば早く転生してしまう。それでは吾輩の求める楽というものが一向に実現レベルまで達しない。しかし早く転生してもいいという面ももちろんある。人生は楽しい。できるだけ早く転生すれば楽しめてしまうのである。だから吾輩はあるがままに任せることにした。タバコを吸おうが吸わまいがそんなことは運に任せてしまうのである。




