第二章
荒廃したパルデア大陸の地形は生物にとってそれほど快適とは言えない。なにせ鳥はみな低い高度を飛び魚は群れで泳がず獣に至ってはなかなか生殖に成功しない。これはみなパルデア大陸で前世紀に起こった隕石の影響によるものである。大気には二酸化炭素が充満し海にも硫黄などが多く溶け込むようになってしまった。意外にもそれに対応したのは人類だった。だがそれは生態的な意味においてであり社会的意味ではなかった。人々は戦争を好むようになり各国の経済的生産性は落ち込んだ。
こういった状況であるからにして人々は妬み、恨みなどの悔恨の情で生きるようになった。一部の先鋭的感性をもった人類だけが新しい時代をつくろうとしていたのである。
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人質になったプロトとユンはどこかに運ばれていた。外を見れば異国の文字で看板などが立っていた。一体ここはどこだろう。
「おいユン。絶対騒ぐんじゃねえぞ」
「うん」
「俺が助け出してやるからな」
そうはいったものの武装したプロの連中相手にプロトが何か出来るはずもなかった。ただユンを勇気づけたかっただけだった。何か、何かないか?辺りを見渡したプロトは大きなブーメランが転がっているのを見つけた。それは商業的に発売されたであろうただの玩具だった。車の中ではそれほど身動きはとれない。しかも手と足を紐で拘束されていた。運転席ではアガティールの兵士が何やら話している。その男は大柄で人相が悪かった。もう一人は何やら小洒落ていて話が巧そうだった。そうか今ここには俺とユンを含めて4人しかいないのか。プロトは思った。なんとかして逃げ出すことはできないだろうか。
「おいタン。あの二人を連れてきてどうするんだよ」
大柄の男が言った。それに対し小洒落た男は
「上の連中が勘違いしたんだろう。あのラーミア・シュルタンが匿われているってな」
ラーミア・シュルタン?
ここで初めてプロトはその名を耳にした。
だが今はそんな奴はどうでもよかった。
話はまだ続いていた。
プロトは何かを聞き出して逃げ出す手がかりが欲しかった。
「ワルター様によればあそこにいたはずなんだよ。どこかでスパイの連中が勘違いをしたか何かの手違いなんだよ」
小洒落た男は冷静に分析をしていた。
「で、マルよ」
大柄の男が言う。
「アイツらをどうするんだよ」
マルと呼ばれた小洒落た男は少し考えた後いった。
「捕虜にする。情報はもしかしたら知っているかもしれないから拷問にかけてもいいかもな」
「おいまじかよ。まだ子供だぜ」
「仕方ないだろ。他の連中は爆撃でみんな死んじまったんだからな」
ツー。電話が入る。マルと呼ばれた男が電話に出て携帯片手に運転を続けていた。
車は二時間ほどで空き地へと入っていった。
そこでユンとプロトは降ろされいろいろとやばいことが起きてしまうのである。
「おいユン。ここにブーメランを隠しておいた。」
プロトは背中にブーメランを忍ばせていた。手が使えない状況でも車内でなんとかブーメランを背中に忍ばせることに成功していた。
「おもちゃだけどよ。なんとか陽動に使えると思う。その隙に逃げ出してくれ」
「え、いやだよプロトはどうするの?」
「俺はいいんだ。俺はアイツラに殺されるようが構わない。ユンは家でハルが待ってるだろ。それにな。俺は男だ。女は守るものって決まってるんだよ」
時間が少し経過する。
その隙に色々考えたがブーメランを使うやり方しか思いつかなかった。何しろ俺たち二人はまだ11歳だからだ。
マルとタンと呼ばれる男二人が何やらおかしな物を持ってきた。ムチと布である。その奥には何やら台座が置かれ花瓶がそこにひっそりと立っている。
「おいお前ら。」
小洒落た男マルが二人に怒声を浴びせる。
「今から拷問をする。それが嫌だったらあそこに匿われていた科学者の情報を吐け」
こいつは何を言っているんだ?科学者なんてものは結婚式場にはいない。プロトはすぐに言った。
「俺たちは何も知らない。」
だがそれも無駄だった。すぐにユンが大柄の男タンに片手で持ち上げられ台座に座らされた。そして花瓶を持ち布を頭にかけて水責めが始まった。
ユンはショックで気絶していた。
プロトは怒りに震えて隙をみて男二人に飛びかかった。
だが無駄な抵抗だった。
しかしプロトは考えていた。
ブーメランを使いマルという男の打撃を防御することに成功した。
「おいこいつなんか持ってるぞ」
マルがそう叫んだ隙にプロトはマルに蹴りを噛ますことに成功した。これはプライドの問題である。捕虜として何もできないのではなくいうならばゴール地方のプライドとして一死報いたことになる。
マルはすぐにナイフを取り出しプロとの腹に薄く切り込みを入れた。これが拷問だ。
「こいつ俺たちの力がまるでわかっちゃいない。この女を殺してやる」
蹴りを食らわされたマルはすぐに激昂していた。
タンが動き気絶しているユンの首を締め上げた。
一分経った。
ユンは息絶えた。特に抵抗することもなかった。
元々病気がちだったこともあり最後の言葉も聞けなかったのである。プロトは考えていた。持っているブーメランを使って何かできないか。
そして同時にユンが死んだことに激しく心で泣いた。
どうすることもできない状況でもあきらめない事が大事だ。
プロトの父親の言葉である。医師である父親は何事もあきらめなかった。そうして多くの命を救ってきた。プロトは考えた。そして古典的だがある作戦を思いつく。
こいつらはラーミア・シュルタンと言ってたよな?
突然プロトが叫ぶ。
「あ、あそこにラーミア・シュルタンがいるぞ!!!」
「え?」
「え?」
二人の反応は同時だった。ふたりとも上司からきつく言われている任務の内容だからだろう。自然と振り返ってしまった。気にしていることは素にでやすい。
馬鹿げた作戦だったがその隙をみてプロトは走り出す。
「あ、こいつ。逃げ出しやがった」
嘘だとわかった二人は一目散に追いかけてきた。
崩壊した建物の瓦礫が多く残っている場所だったので逃走にとっては都合がよかった。
二人は車から銃を持ってきているようだった。
後ろを振り返ればユンの虚しい亡骸が台に横たわっていた。
「ごめんユン。いつか仕返してやるからな」
プロトは走り出す。
夕暮れになった。
追っ手は巻いたようだ。
ふとプロトは思う。
「おれんちどこだ?」
確かゴール地方はパルデア大陸のほぼ中央に位置する。
そのとなりにはノーム地方という砂漠地帯があると本で知った。ここはまさにその地方ではないか?
辺りにはサボテンや意味のない石ころなどが無数に点在していた。
やはりそうだ。ここはノーム地方だ。
となると歩いてゴール地方を目指さなければならない。
そしてハルにユンが死んだことを報告しなければならない。
村の連中は襲撃されて落ち込んでいると思うが俺が生きていることがわかれば少しでも元気がでるかもしれない。
自転車が放置してあった。
運がよくタイヤもパンクしていなかった。
「よしこれで一気に帰り道までまっしぐらだ」
途中から歩道が整備されていた。ここはもうゴール地方との境界付近だろう。自転車に乗り込み一気に坂を下る。
夜0時頃
プロトは家まで辿り着いた。
母親と父親に無事を報告する。
母親と父親はどちらもとても心配していたため驚いて腰を痛めてしまったぐらいである。
しかしユンが死んだことをいうと父親は
「ハルに報告しなければ」
とすぐに態度を変えた。
そして翌日三人でハルの家を訪れることにした。
プロトの家はゴール地方でも指折りの立派な邸宅だった。反してユンの家は粗末そのものだった。対称的ナフタリだったが仲はよかった。
翌日ハルの家に着いた三人に対しハルは迎え入れた。
そして父親が話を切り出した。
「ユンが死んだらしい。それも拷問されて」
ハルは一瞬固まった。
「それは事実なの?」
「ああ事実だ」
ハルは目に涙を浮かべ神に懇願するように泣き崩れた。
ハルとユンはまずしいながらも立派に一緒に生きていた。それなのにまだ11歳で命を落としたことにショックを受けざるを得なかった。
そしてプロトは言った。
「ハル。待っててくれ。ユンの敵は絶対に打つ。やつらを木っ端微塵に粉砕してやる」
ハルはその日から5日間は何も食べなかった。
その後プロトは日に日にユンが死んだことに対する怒りが増長していた。
「絶対絶対やつらを木っ端微塵にしてやる。」
ここにプロトの復讐劇が始まった。




