第6話 「動く時」
「お待たせ。」
グレスが教会から戻ってきた。
「死体はどうする、まさかそのままにするつもりでは無いだろうな?」
「ちゃんと処分するさ、中庭があるからそこで燃やして灰にする。」
「そうか、手伝おう。」
「……。」
こいつらはなんで人を殺して平然と居られるのか?カナハも、仲間が殺されたんだよ?何でそんな冷静になれるの?
数時間後…
「…よし、これでこの世界の人間にはバレないだろ。」
「そうだな、また来た時には墓くらい建ててやるか…」
「…んでそんなこと…」
「ん?どうしたジュン?」
「おまえらっ!!何でそんなことを平然とできるんだよ!!!同じ仲間だったんじゃないのかよ…!!!」
「仲間…ねぇ、」
カナハが首を傾げる。
「ジュン、これは俺たちの世界の都合だ、関係の無いジュンまで気に病むことは無い。」
何言ってるんだ??俺の手でお姉さんを傷つけさせたくせに。
「グレスお前、なんであの時俺に剣を持たせたんだよ?わざわざ俺がやる必要なかったよね?」
「ジュンのその魔力が勝機になると思った、それだけだよ。」
「だからって…関係ない俺にやらせるなよ…あんな綺麗だったお姉さんを……」
「…クレイシ・ガルアット、俺たちの国でとある宗教団体を襲撃そして鏖殺、刑務所に収容された後に勇者特選群に選抜され、さっき中庭にも6体も死体が出できた。どうやら日本でも殺人をしている。」
「…は??」
「彼女の生前の犯歴だよ、これでもまだ君は人を傷つけた罪悪感に苛まれるのか?」
「勇者特選群は、我々の国のワケあり犯罪者を集めて出来た遠征隊だ、私だって過去に人を殺してるんだよ、この世界ではやっていないけどね。」
突然のカミングアウトに驚きを隠せない。
「なんで…嘘でしょ?人を殺したひとには見えなかった……」
「人は見かけによらないのさ、これからジュンはもっと凶悪な人達に出会うと思うよ。」
「…カナハも、犯罪者だったの…?」
「特選群が出来るずっと前、とある任務で上官が指示を間違え、私は関係ない家族を殺害した。それで責任は全て私に擦り付けられた。」
「え…」
「だが、今は国王がその事実を正そうとしてくれる。だから私は付いてきているんだよ。」
カナハの過去が明かされる。順は固まったまま動けない。
「とりあえず、今日は疲れた。昼飯食ってお土産買って帰ろうよ。」
「みんなが食える金くらいならあるぞ、また私が払おう。」
「おう!まじか!じゃあまたゴチになるわ。」
「ほら、ジュンも、何が食いたい?決めていいぞ。」
「え!あぁ…」
改めて、とてつもない出来事に待ち込まれているんだなと思った。
それでもまだ、目の前で人が死ぬ現場を見たのはショックが大きかった。
………
「相変わらず速い乗り物だな、こいつ。」
「帰りも特急なんて贅沢だよ…ほんと…」
財布の中身を確認しながらため息を吐く。
「我が国にも、こんなものがあったらいいんだがな…」
「そんな難しいこと言うなよぉ!!製造方法だってわかんないんだし!!」
「電気を使って走ってるんだよ。」
「電気?!じゃああのおっちゃんと同じじゃん!!」
「だからあの人もとてつもない速さで移動できるのか!!」
「おっちゃん…?」
「前言った最強のカミナリ親父の事だよ。あいつも魔力が電気になるんだ。」
「それとこれとは、何か違う気がするけど…」
「…まぁいいや!で、カナハ!残りの奴らはどこにいるんだっけ?」
「ドルベク様とメルラ…一緒にいるはずだが、どこに行ったか分からん。」
「……。え?」
「だが、クレイシとメルラは文通をしていた。返事が返ってこない今、クレイシの死に気づき、全力で我々を探しに来るだろう。」
「イマドキ文通?遅れてんな、お前らの国は。」
「仕方ないだろ、ずっと魔力で頼ってきたんだから。」
「てか、見つけ出すって言ったって無理じゃない?証拠もないし。」
「そう言うと思って、私は教会に炎の魔法陣を描いた紙を置いてきた。」
「なるほど!それならお前だって気づいてこっち来てくれるかもな!!」
「ちょっと!!こっち来るかもしれんの?!勘弁してって!!」
またあんな化け物がこっち来ると思うとゾッとする
翌週
ことが進むのは早かった
……
東京 某教会
「この魔法陣…カナハか、…クレイシを殺して、なんのつもりだ…?」
「考えるのは1つ、君に対しての宣戦布告…」
「なるほど…上等じゃないか、望み通りクレイシと同じ目に合わせてやるよ…」
「俺も行こうか?ヤツも中々手強い。」
「いや、俺一人で十分だ、俺にやらせろ。あいつの魔力くらい、なんてことない。」
涙を流しながら紙を握り潰す。
「そうかい、では私は先に帰ってるよ。君まで死なないでね、メルラ!」
「あぁ、殺したらすぐに帰るさ、あいつの首を楽しみにしててくれ、ドルベク。」
そう言うと、ドルベクは笑顔で軽く手を振り教会を後にする。
「カナハ貴様…この大魔導士メルラを相手にしたからには…それなりの覚悟が出来てるんだな…?」