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第5話 「同じ痛み」

 急な出来事に困惑している。



 シスターのお姉さんが、グレスに向かって刀を振りかざす。



「婚約してたの?このシスターの妹さんと?」

「そうだ、我々が遠征に行くずっと前から交際していたはずだったんだが…」

「別れたの?婚約までしてたのに??」

「どうやら、国家の反逆に失敗した場合、彼女まで処刑の対象になるのを案じたらしい。」



 会話の後ろで、刃と刃が激しくぶつかる音がする。



「ふざけるなぁっ!2年前っ、私にあの子を幸せにするって言ったくせにぃっ!!この嘘つきがぁ!!」

「何も嘘はついてない、結果的に彼女は幸せだぞ?」

「くっ…!じゃああの子は今何をしているのよ?!」

「ちゃんと資格に合格して、医師をしているよ。」


「そういうことじゃないわよ!!」



 納得できないのか、クレイシは攻撃を止めない。




「ねぇ、カナハもあのお姉さんと仲間なんでしょ?これ止めないの?」

「そうだな、『元』仲間だ。私はこれを止める権限は無い。」

「元…?どういうこと?」

「言ってなかったか…勇者特選団は事実上解散した。それぞれがバラバラになってドルベク様を支持している。」

「…??」



 どういうことかさっぱり分からない



「ドルベクって、前国王の息子だよね?一緒になって行動すれば良かったじゃん。カナハは何であんなとこでバイトなんかしてたの?」

「任務の遂行が極めて困難だと分かってきてから、メンバーの雰囲気も悪くなってきたからな。」

「…その任務って何?わざわざここまで来てすることなの?」

「それはじきに分かることだ、ジュンがまだ知る必要は無い。」



 まぁ任務の遂行を諦めてるなら後で知っても変わらないか…




  ザァァンッッ!



 クレイシの左肩に剣先が当たった。



「ぐぅっ!!」


 全力で後ろに下がるクレイシ。





「…ごめんね…また痛い思いさせちゃった…私ダメなお姉ちゃんよね…」



「なんだ?カナハの時より浅い傷なのにめちゃくちゃ痛がるじゃん。」

「…彼女は妹と、呪いとまで言える契約をしているんだ、痛覚を共有する契約。」

「まじで?!契約ってそんなことも出来るの?」

「普通だったら不可能だ。だが、限りなく血がおなじ者同士なら可能なのかもな。」

「あいつ思いっきり攻撃しまくってたけど、その事知ってんの?」

「あぁ、だから今深追いしないのだろう。」



 呆然と立ち尽くすグレス、その目はどこか悲しげだった。



「…そうね…私達も同じことされたなら、あなた達にも同じ思いをさせてあげなくちゃ…」



 そう言うとクレイシは、右手を上に掲げる。




 【痛覚の魔法陣】




「なんか手の上にでっかい魔法陣が出てきたぞ!」



 クレイシの手の上には、血のように真っ赤な魔法陣が出来ていた。



「私たちと同じ痛みを知りなさい!!裏切り者がぁ!!」




 魔法陣から魔力が一気に押し寄せてくる




「っつ…!」


「っ……なるほど、あの魔法陣から放出された魔力に触れると、あいつと同じ痛みを感じるのか…」

「何その魔法!そんな後出しありかよ!…え、でも俺痛くないぞ?」



 グレスとカナハは痛みを我慢している様子だが、自分だけ痛みなど一切感じない。



「なっ何故だ?!お前も魔力を持っているから痛覚は共有されているはずだぞ!!」


「……どうやら俺の予想は当たっているのかもしれない、ジュン!!あいつに向かって盾を構えろ!!」



 何かを察したグレス、順に向かって大声で指示を出す。



「わ…分かった。」



 グレスの前に行き、左手を掲げる順。

 すると、以前のように眩い光とともに盾が出現する。




  ゾワァッ!!




「?!ぐっ…!何よ、この魔力の量!!」



 盾から放出された魔力によって、クレイシの魔力は押し返されていく。



「ジュン、あの時より魔力が…!」

「やっぱり!ジュンは魔力の回復もできる!!あの時ただ単に魔力を突っ込まれただけじゃなかった!」

「でも!!この量はさすがに…!!」



 クレイシが出した魔法陣がどんどん薄くなっていく




 …パキィンッッ!!




「割っただと?!ただの神器出現の魔力放出のみで?!」

「なんなのその子?この魔力の放出量、魔導士レベルよ。」



 まどうし?なにそれ、俺の魔力ってそんなに凄いの?



「お前は国へ帰らないんだろう、知る必要はない。」

「あら…そうだったわね、それじゃあ続けましょうか。」



 彼女がこっちへ来る、俺どうすればいい?



(ジュン、済まない…私は両手を怪我していて助太刀出来ない…)




「ジュン、あいつがここまで来る瞬間、右手を掲げろ。」

「…え?分かった…」



 そう言うと、グレスは剣を横へ投げ捨てた。



「何してんのぉ???」


「どうしたの?やっと私を傷つける気が無くなった??」



 タッタッタッタッタッ!!



 こっち来てる!!やっぱりグレスの言うことを信じた方がいいみたいだ!!



 順は思いっきり右手を上に掲げた。


 そして、眩い光とともに、さっきグレスが投げ捨てた剣が出現した。



「何よ!!その子に私をやらせようってこと?!あなたどこまで残酷になったの?!」



 それでもこっち向かってくるお姉さんも同類だよ!!



「いいわ!!相手をしてあげるわ!!しっかり構えなさい!!」

「うわぁっ!日本刀持ってこっち来んな!!」




 クレイシが振りかざそうとする瞬間、順も思いっきり剣を振る。




 ズバァンッッ!!




「ぎゃあっ!!」



「……えっ?」


「…嘘だろ?」

「これは…」



 しばらくして、順が正面を見ると、血まみれで倒れていた彼女がいた。



「え?なにこれ?!何が起こったの?!!」

「なんて力だ…」

「魔法陣無しの魔力放出…これは…」



 剣を降って何かにぶつけた感覚はない、間接的に俺はお姉さんを攻撃した。



「うそよ…いったい何だって言うの…?その子…」



 震えながら、彼女は立ち上がる。


 グレスがこちらへ寄る。



「だから、きみが知る必要は無い。…もう遅いんだよ。」

「そ…う…。」



「…貸せ!」



 グレスが剣を強引に奪う。



「っえ?ちょっ!?」



「…最後に、何か言い残すことは?」

「…妹…フーレイに…ごめんって…愛してあげれなくて…ごめんって……!…死んでも貴方を…守るよ…って…伝え…て…。」

「分かった。それだけでいいんだな?」

「…えぇ、もう…何も要らない…。」

「そうか…ジュン、下がって後ろを向いてろ。」



 グレスが俺達の方を振り向いた時、その目に光はなかった。



「おいっ!!どうなるんだよ!!お姉さんはっ!!まだ話し合ってないだろっ?!!おかしいって!!何が起こってんだよっ…!!!」


「…行くぞジュン、ここから出るぞ…。」



 カナハが順の手を引っ張る。



「おい!!カナハお前も何とか言えよ!!なんなんだよ!!!」

「魔力で侵された傷は治らない。私たちの国では治療できるが、もうあれじゃ間に合わない。」


「…っはぁ?ちょっとおい待てよ!!俺は…!!」



 ギィィィィィイ……バタンッ!!



 扉が閉まる。

 この建物の中にはグレスとクレイシだけになった。



「これ…だけは知りたい…あなたは…フーレイを…愛していた……?」 

「…あぁ、もちろん、今思うと、俺はほんとに情けないことしたなって思うよ。」

「そう…わかっ…た……死んだら……お前を呪う……。」


「……。」




  ズバァンッ!!!


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