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第3話 「廊下」

「はぁ……減給かよ、俺何も悪いことしてないのに」


 自転車でトボトボ帰る。

 すると、目の前から見た事のある……いや、もう見たくもない2人が立っているのが見える。逃げるか?


「おっ!いたいた!ジュン!こっちこっち!!」

「あぁ……」


 進む方向を変えようとしたところ、すぐにバレた。


「いやぁ遅いよジュン!もうすっかり空も暗くなったじゃないか!」


 ……もう何も言葉が出ない。

 なぜ出会って1日も経ってないやつにこんなこと言われなきゃならないのか。


「その、マズミ……ジュン。申し訳なかった……。」

「あぁっ……わか、、分かればいいんだよぉ???」


 眉間にシワが寄り、瞼が自然とピクピクする。

 隠しきれない怒りと虚しさ、とりあえず今日はこいつらの顔は見たくない。


「とりあえず!また飲食店かどっかで話するか!」

「そうだな、マズミジュン、君のことについても詳しく知りたい」


 勘弁してくれ…帰らせてくれぇ…!


・・・


 ファミレス店内


「今日は私の奢りだ。申し訳ないことをしたからな」

「え、あざす」


 やけに丸くなったな、妹のこと脅したからか?


「ごち!じゃあ早速なんだけどジュン、こいつにこれまでの事を話してみてくれないか?」


 はっ?俺が??


「はぁ…。」


 俺は一度ため息をついた後、失神してから今までの事を全て話した。


「青い瞳のセンター分け?そいつがどこかの国の重鎮?聞いたことないぞそんなやつ」

「そうだよね。でもどうやらそいつがジュンの身体に魔力を入れたのは間違いないんだ」

「しかも王家の剣と青契約…それが1番の疑問だ!」

「他国のやつがうちの国の王家の血を持っているなんておかしな話…」 

「他国の人間ということは私達の国以外にも『廊下』は存在するという訳だ。」

「そう言うことになるね、うちの国以外どの国も公表していなかったけど、やっぱり存在してたんだよ。」


 話の種を差し置いて、二人で話が盛り上がる。

 俺を話の輪から外さないで欲しい。


「あの……ちょっと、俺にも分かりやすく説明してもらってもいいですか?」

「あぁすまない、君の話なのに置いてけぼりにしてしまったな。」


山田は体をこちらに向け、話し出す。


「まず我々がどうやってこっちの世界に来たか説明しないとか……それはだな、こっちの世界とあっちの世界を繋ぐ大きな穴があるんだ」

「穴?」

「そう、うちの世界では『廊下』って呼んでるんだけど、こっち側の世界につれて段々狭くなっていくから分かりづらい場所にあるよ」


 まぁそんな場所、アメリカとかに簡単に見つかったらやばいもんな……。


「はるか昔、私たちの国では大きな戦争をしていてな、まぁ今も休戦中で違う国とやり合ってはいるが、それで王宮まで攻め込まれた我が国の王は、相手の国の強き者と激しい決戦を繰り広げたんだ。」

「そして国王が地面に向けて大きな一撃を放った。その時に出来たのが最初の大穴、『廊下』ってわけだ」


 なんだかスケールの大きな話になってきた。昔からこいつらの世界とこっちの世界は繋がってたってことか?


「なんほど……てか今も戦争中なの?!革命後なのに王が不在ってヤバくない?!」

「それは大丈夫さ!だって我が国には“世界最強のカミナリ親父”がいるから。」


 誰だよそいつ。別名終わってんだろ。


「ッチ!貴様が王になったからてっきり寿命かなんかで死んでいたと思ったぞ!」

「まだピンピンだよあの賢者のおっちゃん。俺がベズと戦ってる時は他のやつが相手して時間稼ぎしてたから上手くいったよ」

「あの人の足止めに成功させた奴がいたのか?!それに次期賢者候補の奴もいたはずだろ!」


 国王でさえ敵わない強さしてんのか。どんだけ強ぇんだよ。


「まぁこっちの作戦が見事にハマったってわけさ!」

「なんなんだその作戦って言うのは、あんな奴ら相手に……」


 包帯ぐるぐる巻きの手で頭を抱える山田、痛そう……。


「賢者って、そのピンピンのカミナリ親父のこと?」

「そうだ、あの方はケタ違いに強い。もし会う機会があったら言葉遣いには気をつけた方がいいぞ」

「ケタ違いって、どれくらい…?」


 興味本位で聞いてみる。


「魔力を出す時、魔法陣を使わない」

「え?いや……魔力を体の外に出す時は魔法陣が必要なんじゃ?」と、山田の腕を指さして言うが、2人とも大きな反応は見せない。


 すると、店員が「タラコパスタで〜す」と料理を運んできた。


「あのおっちゃんは一度の魔力の放出量が半端ないんだ。だから魔法陣を使う必要もなく、全身から魔力放出が出来る」

「バケモノじゃん……」

「まさにその通りだ。あの人の伝説は数えたらキリがないぞ」

「1人で不利な戦争を逆転させて休戦にまで持ち込んだとか、またまた1人で伝説の厄龍を退治したとか」

「ほ、ほへぇ〜……」


 そっちの世界にはそんなヤバのがいるんだぁ……きっと厳しい人なんだろうなぁ……。


「えっ!なにこの料理うっま!タラ、コ?……パスタ?帰ったらうちの国にも広げよう!」

「行儀が悪いぞ、と言うかこの店はフォークは無いのか?」

「えっ?国どころか世界も違うのにフォークとか知ってんの?」


 驚いた。まさか異世界でも同じ単語を使って話しているとは。


「あぁ、そこも説明してなかったな。その廊下が出来た当時、こっちの世界の人間を何人か拉致したんだ。」


 え?いまサラッとエグいこと言ったぞ?


「まぁ大昔だし、どっちの世界もあまり整ってなかったからね、で、その拉致った人達から日本の文化とか言語とか色々教わって訳。」ズズッ!


 あっ!!そういえばこいつらが日本語話せてるのに違和感持ってなかったわ。


「で、そろそろジュンにお前の事とか色々話した方がいいんじゃない?」ジュルジュルッ!


 麺すする音でけぇな。もう少し控えてくれよ……


「そうだったな。我々の正体について疑問もあると思うしな」

「大アリだよ!急に人格変わるし!言ってる事意味わかんないし!急に襲ってくるし!腕燃えるし!!」

「腕が燃えるのは関係ないだろう!それは私の魔力なんだから!!」


 関係はあるだろ。


「ははっ!ズルッ腕が燃えるってよ!ズルズルッ今となってはジュルッこのザマだ!ジュルジュルッ!」


 俯く山田。

 こいつデリカシーとかあんのか?


「国王、ちょっとうるさい……」

「おっ、すまんすまん!久しぶりの飯でさぁ!てか急にタメ口になってきたね?まぁいいや、グレスでいいよ!」


 そういやこいつ、グレスって言うんだった。


「うん、グレス、うるさい。」


 国王だろうがなんだろうが、もうこいつは呼び捨てで呼んでやる。


「酷い…」ズズッ!


 黙ってろ!


「まぁいい、で、私がなんで日本に来たかだろ?」

「うん、確か……勇者……なんとか?だっけ?」


 グレスを無視して話を戻す。


「『勇者特選団』。前国王であるベズ・ファレアスの命にて、息子であるドルベク様を勇者とし、異世界である日本国が私たちへ戦争を仕掛けようとするというプロパガンダを流し、戦争を予め阻止するべく送られたのが私たち。ということだ」


 話を聞く度にスケールがどんどん大きくなってくる。異世界ではとんでもないことをやっていようだ。


「え……?なんのためにそんなこと?!」

「理由は二つあると考える。」


 山田は右手で日本の指を立てる。

 ゴクリと息を呑み、耳を立てる。


「1つ目は、異世界の領土が欲しかったから。2つ目は王位を降りたくなかったベズ・ファリアスが、息子に継承させるための試練と称してそのまま死んだことにして存在を消したかったから。こんなところだ」

「うわぁ……そんな傲慢な国王だったの?」


 どこの国でもどこの世界でも腐った人間っているんだな。考え方の根本が違うわ。


「世襲の腐敗だね!過去の栄光だけ残り、一族が時代と共に進んでいくのは空っぽな威厳だけ。」

「……」


 グレスが革命を起こした理由がわかった気がする。


「ご馳走様!美味しかったよこれ!」

「俺も!奢りありがとね、山田」

「カナハで良い、もう山田呼びはやめてくれ」

「あぁ、そう?」


 てかこいつバイト出来るってことは、どうやって日本の住民票手に入れたんだよ……。


・・・


 飲食店からの帰り道。もう外は真っ暗で、不規則に点滅した街灯とチャリのライトを頼りに進む。


「2人とも帰る家とかあるの?一旦元の世界に戻るとか?」

「いやぁそれは無い。こっからあっちの世界に戻るまで丸1日かかるんだぜ?廊下の中暗いし」

「しかもずっと落ち続けるような感覚、あまり好きでは無い」


 2人とも顔をしかめる。こっちの世界に来るまでに、一苦労してきたようだ。


「廊下ってそんな恐ろしいところだったの……じゃあいつもどこで寝てんのさ?」

「廊下の近くにダンボールの家作ったんだ」

「路地裏の開けた場所で寄りかかって寝てる」

「ホームレスかよ……」


 とりあえずこいつらにネカフェという存在を教えたら死ぬほど感謝された。

 ご精読ありがとうございます。

 言い忘れていましたが、第一章の前半は、ジュン達はまだ異世界には行きません。少し長いプロローグだと思って読んでくださると幸いです。

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