第1話 「おはよう」
※この話を読む前に、プロローグを読むことを推奨します。
「……はっ!」
目を開けると知らない天井。やけに眩しい蛍光灯が俺の目を刺激する。
「あっ!目を覚ましました!先生!」
どうやらここは病院で、チャリで事故った後に運ばれたようだ。
「助かったんだな俺」
そう考え、すぐ隣に置いてあった俺のスマホを手に取る。
……ん??????
「俺、めっちゃ痩せてね?」
スマホの画面の反射で見えた自分の顔はまるで別人だった。 あんなに垂れ下がっていた頬の肉は削ぎれ落ちている。胸や腹を触ると浮き出てくるのは脂肪ではなく鋼のような筋肉だった。
事故る前はあんなデブだったのに驚くべき変異だ。そのせいか顔認証反応しないし。
・・・
「真住……順くんね、今の体調はどう?すんごい事故だったそうだけど」
医者から聞くと、どうやら俺は事故って1日寝込んでいたらしい。そして1人友達と名乗る奴がお見舞いに来てから俺は痩せていたらしい。
……今から怖いことを言う。俺は中学を卒業したと同時に引っ越した。そして高校は1人きりの状態で過ごし、今はわざわざお見舞いに来る友達などいない。
「先生?その友達の名前とかって……」
「名前は聞いてないねぇ、なんせ受付せずに直ぐ君の元へ向かったからねぇ」
怪しすぎだろそいつ。なんで止めなかったんだよ。
「ちなみにねぇその子、面会中はカーテン閉められてて中は見れなかったけど、君に話しかけるように独り言を言っていたよ。」
「独り言…?なんて言ってたんですか?」
そう聞くと、医者がやけに考え込む。
「そうだねぇ……我々もすべて聴いていた訳じゃないど確か……。」
寝込んでる間、何か変な夢を見ていたような気がするが何も覚えていない。
「やっぱりきみは面白いなだとか、とかなんとか……」
事故って失神した人になんて言葉をかけるんだよ。同じクラスのヤツらがからかいに来たのか?
絶対探し出してボコボコにしてやるわ。今の身体ならいけるな。
「そしてねぇ、あの子が帰ったあとに気づいたんだけど、お見舞いに来た人用のお客さんの椅子が壊れてたんだよ」
「椅子がですか?どんな風に……」
「これなんだけど」と言って、医者は机の上に何かを置いた。
目の前に持って来られたのは、もはや元は椅子だと言っても信じてくれないくらい粉々になった木片だった。
……なんか見覚えあるような?
「これ高いんだよね、どうしてくれるの?」
「はぁ?」
失神してた俺に言うなよ、明らかにお見舞いに来たアイツだろ。
「はぁ?ではなくて……」
・・・
あのヤブ医者と言い合いになりつつも、思った傷は治っていたので家に帰ることにした。
何故か元々悪かった視力まで戻っていて、メガネを付ける必要はなくなった。
翌日、体型が変わって不思議がられたのか、みんなから話しかけられるのが嬉しかった。
そんなある日、新しく買ってもらった自転車でゆっくりと帰っていると…。
「おい、そこの学生さん、ちょっといいかい?」
おいおいこんなところで職質?警察も随分と暇だな。
「はい、なんでしょ……う……!?」
振り向いた途端、俺は後悔した。
明らかに他の一般人とは違うオーラを醸し出した、日本には売ってなさそうな羽織を着た自分より歳上であろう男。
そいつは流暢な日本語で話す。
「君さ、なんで“魔力”もってんの?」
「え……は、はい!?」
やばいわこいつ!ダッシュで逃げよう!!
俺の久しぶりの本気の立ち漕ぎ。後ろなんて気にせず漕ぎまくった。
・・・
「ゼェッゼェッハァッハァッ!」
ここまで来ればあの不審者も撒けただろ。
休憩がてらコンビニに寄ろう……。
「なんで逃げるんだよ、俺は襲うだなんて言ってないよ?」
「えっ」
振り向けばさっきのやばい羽織の男。
嘘だろ?息切れも無くここまで追いついたって言うのか?
「いやさぁ……別に話をしたいだけだし、そこまで必死に逃げる必要なくない?」
いやっ、不審者から逃げるのは当たり前だろ!
「走ってる間、みんなありえないスピード出てたって君のこと振り向いてたよ?」
「え?」
確かに、帰宅RTAを引退した俺はまだこの体で本気を出していない。
「やっぱりおかしいわ俺の身体……」
さっきこの不審者が言っていた“魔力”ってやつ?そのせいなのかもしれない…。
勇気を出して話しかけてみる。
「えっえっとその魔力って……ナンデスカ……。」
「やっぱり知らないみたいだね、良かったよ、魔力の量も少ないし。どうやらこっちの人間じゃないみたいだ……」
こっちの人間?
どこかで聞いたことあるフレーズ。
やはりこの人は俺の身体の急変の謎について何かしら知っているのかもしれない。
「あの、その……ジブン、最近事故を起こして気絶してて、怪我する前はめっちゃ太ってたんです。それで起きたら急にこんな体型に変わっちゃって」
不審がりながらも打ち明けてみる。可能性があるなら言った方が良いだろう。
「えーじゃあ君は生まれてからずっとこっちの世界に住んでたんだね!良かったぁ……!危うく殺さなきゃいけないとこだったよ!」
「ヒッ!」
背筋が凍った。
本当に殺しかねないような雰囲気を醸し出していたので、返答次第では今の自分はいなかったのだろうか。
「まぁいいや、俺も君と詳しい話が聞きたい、どこかで話をしないかい?」
「え、えぇ」
さっきまで俺の事を殺そうとしてたやつとは話をしたくない。
でもここで断ったら一生自分の身体の変化について知る機会はないと思ったのでここから移動してファミレスで話をすることにした。
・・・
「ふぅっ…あっそうだ!自己紹介が遅れたね、私の名前は『グレス・レヴァイス』。これでも国の王をやってるんだ、よろしくね。」
国の王?!そんなのがこんなところ1人でうろちょろしてるとか、おかしすぎるだろ……。
「王って……それって本当ですか?どこの国の王やってるんですか?」
「それは君に言っても分からないと思うよ、この世界の国じゃないからね。」
これもどこかで聞いたことのあるフレーズ。
失神した時の夢がだんだんと蘇ってくる。
センター分けのイケメンから“ある国”の国王と会え。と言われたのを覚えている。
まだうる覚えだが、その記憶だけは確かだ。
「もしかして……『戦争犯罪国家』ってところですか?」
本当に夢で聞いた言葉か分からないが、朧気ながらに浮かんできた言葉を言ってみた。
「っ……!」
驚いた顔をした後に、しばらく黙り込ん出しまった。
さすがに他国をそういう風に言うのは不謹慎だったか。
「君……なんで知ってるんだ?」
「え!……っと、その……」
やっぱりあの夢は本当だと確信した。
「私の国はね、はるか昔から他国に対して酷いことを沢山してきたんだ。そのせいで隣国は敵国になり、もう味方になってくれる国なんて無くなってしまったのさ。」
「それは大変ですね。。」
「まぁこれから自分がどうにかするさ!」
この人凄い自信家だ。
「ていうか国王がひとりで自分の国から離れて大丈夫なんですか?」
「ん?まぁ大丈夫だよ。うちの国は強い人がいっぱいいるからね自分より強い人いっぱいもいるよ。」
その強い人とは、貴方がどれくらいの強さなのか分からないから理解できない。
「へぇ、てかなんでこっちの世界に来たんですか?どうやって来たかも謎だし。」
国王は暫く黙り込んだ後、話し始めた。
「…それはねぇ、前国王の尻拭いだよ。」
「尻拭い?」
「そう、俺たちの世界では共通で3つの条例が決められているんだ。その中の一つに、君達の世界に侵攻しては行けない。って言うのがあるんだ。それで前の国王はそれを破ってこっちの世界に遠征隊を送ったわけだ。」
「なるほどぉ……。」
なんだかヤバい事に巻き込まれてる気がする。
「だから国王が代わった今、そいつらをうちの国に引き戻さなければならない、その遠征隊の中には前国王の息子もいるから。」
「えっと、もし断ったりしたら?」
「まぁ条例を破ってることになるからね、処刑も考える。」
こえぇよ!
俺を殺そうとしたのもそれが理由だったのね……!
「あっそうだ!その隊の中で、青い瞳でセンター分けのヤツっていますか?そいつが失神した時の夢の中に出てきたんすけど……」
恐らくあいつもこの世界の人間ではないだろう。この国王との会話の中で思い出してきた事を話してみる。
「遠征隊員の顔と名前はは一通り覚えている。でも青い瞳のセンター分けはいなかったよ、もしかしたら他国もそんなことをやっているのかもな。」
「やっぱりそうかぁ、やっぱり国が違っ……ん?」
突然スマホの倍部が鳴りだす。
バイト先から連絡来てるじゃん。また急のシフト変更かよ!
「すいませぇん、急にこれからバイトが入っちゃってぇ。」
「バイトかぁ、こっちの世界にもあるんだな。誰かがバックれたとか?」
「そうなんすよ!しかも今日水曜だから絶対“あいつ”いるじゃん……」
スマホで今日のシフト表を確認してみる。
すると、やはり入っていた。“あいつ”が……。
「あいつ?苦手な上司でもいるのかい?」
「いやぁ……上司っていうか、新しく入ったばかりのバイトの後輩でぇ、無愛想だしら額に傷跡あるから怖いんすよ。」
「!……額に傷跡?どんな感じの?」
国王が食らいつく。そんなに傷跡が気になる?
「ど真ん中に右斜めの線が入ったような傷跡で……。」
「……!名前はなんだ!今そいつはそこにいるのか!」
急に声を荒げる国王。他の客に見られるからやめてくれ!
「そんな大声出さなくても……でも名前は普通に山田っすよ?」
「そうか、でも偽名を使ってる可能性もある。どうかそいつに会わせてくれ。」
「分かりましたよ……でも別人だと分かったら話すのやめてくださいね?」
「了解した、約束は守る。」
そんなこんなでこの知らん国の国王と一緒にバイト先に行くことにした。
時間まで余裕もあるので、自転車は乗らずに歩いて向かうことにした。
・・・
「ねぇ、もしそいつが俺の予想通りだったら、最悪戦闘になるかもしれない。そのために……」
「いやいや!勘弁してくださいよ!俺を巻き込まないでください!」
殺し合いになるのならそんなことに巻き込まれるとか真っ平ごめんだ。
「安心して、そうなった時のために君の命の安全を保証するための提案だ。」
そういうことじゃないんだよなぁ……。他所でやって欲しいんだよなぁ……。
「今、微量だが君の中に魔力が宿ってるから出来るはずだろう。」
そう言って国王は両手を前に出した。
「……えっ、えぇぇぇ!?」
なんと、その両手からなんとも神々しい、黄金に輝く剣と盾が現れた。
マジで目を疑った。
「お、おい……じょ……冗談だろ……??」
その手に現れた剣は両刃になっていて、刃には幾何学的な紋様が掘られている。
一方、盾には立派な龍が翼を広げている絵が掘られている。
どちらもこの世の物とは思えない。急に、しかも変な方法で出すのはやめて頂きたい。
「どっどういうことですか!どうやって?!え?!」
「驚くのも無理は無い。これは我々の世界に伝わる『神器』と言うやつだ。」
「じっ、ジンギ?」
目の前で超常現象を起こされて、ものすごく動揺している。
「そう。神器の素材自体、純粋な魔力の結晶を超圧縮させて出来たものなんだけど、誰がどうやって作ったかも謎に包まれたままで、何をしても形状変化しない“完全物質”って言われてるんだ。」
「は、はぁ……」
ただでさえテスト前の勉強で疲れてるのに、そんなマシンガントークをペラペラ喋られても理解できない。
魔力の結晶?完全物質?訳わからんわ!
「そして、今から君はこの神器と『契約』してもらう。」
「契約?」
やっとこの人の口から知ってる単語が出た。でもこの世界の言葉の意味とは違うかもしれない。
「そう、この神器と契約を交わすことで君も使えるようになる。だから戦闘になったら君は盾を使ってその場を凌いでもらいたいってわけさ。」
勘弁してくれ!そんな危ないことに俺を巻き込まないで欲しい。
「いやそしたら全力で逃げるんで大丈夫ですよ!」
「そう言いたいところだけどさ、君の中には微量だが魔力があるんだ。きっと俺と仲間だと思って殺しにくるよ。」
そういう状況に慣れているのだろうか、真顔でとんでもないことを言う。
「いや怖!そしたらもうその盾と剣両方使って俺の事守って戦ってくださいよ!そっちも盾あった方がいいげひょ!」
噛んだ。
「確かにそうすればいいんだけど、君は自分の体の変化について知りたいんだろ?どっちにしろこの神器と契約することで君にもメリットがある」
「例えば?」
「まず、有魔力者同士でなければ契約は交わすことが出来ない。だけど今魔力を持っている君なら契約が出来るはずだ。そしてこの神器と契約することでたくさんの魔力の供給が受けられる!」
「もっと強くなれるってこと?」
「そう!そしてこの神器から魔力の扱い方を教わるんだ。そしたら自分で何かしら見えてくるものがあるんじゃないか?」
なんか良い感じに言いくるめられてる気がする。でもこの得体の知れないものに触るのも怖い。
俺は一体どうすればいい?
「そして神器には予め決められた条件がある。その条件さえこっちが了承すれば簡単に契約できるのさ」
「その条件って…?」
「この神器だと、まず『王家の血を持っている者でなければならない』そして、『民から信頼されている者でなければならない』最後に、『強き者でなければならない』それだけさ」
「いや俺無理じゃん」
そう、無理に決まってる。
「そんな事ないさ!ちなみに、契約する時の“魔法陣”は3つの色によって分けられる」
また知らん単語出てきたぞ……。
「“魔法陣”ってなんですか…。」
「あぁ!言い忘れてたね!まぁ魔力を体の外に出すための玄関って思ってくれ、また詳しく説明するから」
ここまで会話を着いて行けてる自分がすごいと思う。
「まぁいい!ものは試しだ!やってみてくれ!」
「えっえぇ?」
そう言われて、一旦自転車を止め、差し出された剣と盾の持ち手を恐る恐る掴んでみる。
意外と軽い……。
カッッ!
「おわぁっ!」
瞬間、眩い光とともに自分の手の上に何やら陣が浮かんできた。
色は青だ。
「青!?嘘だろ!?!?」
「おわわわわ!」
自分の心臓に何かが流れ込んでくる感覚がする。だがどこか心地よい……。
しばらくすると青い光は落ち着き、何事も無かったかのように光沢による反射で輝き出す。
「おい……君マジで何者だよ!!」
「え?何って、俺契約できたんですか?」
「あぁ、それも青契約だ。全ての条件が揃っているということになる」
「え?は?俺が?ちょっとどういうこと??」
あのさっき聞いた条件が俺に全て揃ってるってこと?
「ちなみに俺は緑契約だった。ファレアス王家の一族では無いからな。一部の条件だけでも一応契約は出来るんだ。」
俺の家系にはそんな王族の血なんて引いていない。ごく普通の家庭で生まれ、家庭にいざこざはあったものの、普通に育ってきた人間だ。
「やっぱりあいつが何かしたんだ……」
「そうだろうな、こりゃまた大きな出来事になりそうだ」
「えっとちなみに、あとひとつの色の契約って?」
何色なんだろうな。きっと確定変動で虹色とか?
「あぁ、それは赤契約だよ。つまりどちらかが契約を拒否している。または契約解除する時に出てくる色だ」
「なるほど……」
………
そしてついにバイト先に到着した。
「あ!おはよう〜まずみッチィ!急なシフトごめんね〜!いつも助かるよ!」
いつもムカつくくらい陽気な挨拶を交わしてくる店長。シフトに文句を言ってやりたいが、ここはグッと抑える。
「あっおはようございます!ダイジョブです!手が空いてたもんで」
「ほんと〜?!良かったぁ!じゃあよろしく頼むよ〜!」
「はい……」
俺が休むとわざとらしく機嫌悪くするのに、こういう時に限ってアレだ。
「……君、頼まれたら断れないタイプだろ。」
「そうかもしれない……」
商品棚の裏にいた国王に性格診断された。なに隠れてんだよ。
「そういえば店長、山田のやつどこにいますか?」
「あぁ!山田ァ?多分冷蔵の倉庫で作業してんじゃねぇか?品出しまだ終わってねぇみたいだし、手伝ってやれ!」
「わっかりましたぁ」
例の人物、山田が作業している倉庫へ移動する。
「おい山田〜!品出し終わってないの?手伝うよ!」
「あ…おはようございます…これお願いできますか?」
「…?!」
「あ、わかった!これ出せばいいんだね!」
相変わらず額の傷跡が怖い。
すると、身を隠しながら着いてきた国王が俺の肩を手でどかし、山田の前まで歩き進む。
「おい、お前、『カナハ・マナリス』だろ。」
「……誰ですか?あなた……?」
ご精読ありがとうございます。
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誤字指摘なども常時受け付けております。
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