外堀を埋める夏
イラスト/ 茂木 多弥さま
「ねえ夏生、もうすぐ夏休みだよね?」
高二の夏、夏芽は幼馴染で腐れ縁男子のクラスメイト夏生に話しかける。
「そうだけど、いきなりどうした?」
「来年は受験だし、せっかくだから私たち付き合わない?」
「何がせっかくなのかわからないが却下だ」
夏芽の提案を速攻却下する夏生。
夏芽は校内でも有名な美少女で、性格も良く人当たりも優しい。憧れているもの、告白するものは後を絶たない。
そんな彼女からの告白にクラス中がざわつくが、その告白を秒で断る夏生の言葉に悲鳴のようなため息が漏れる。
「何でよ、理由を聞かせてもらっても?」
当然食い下がる夏芽。
「お前みたいな可愛い奴を彼女にしたら、毎日他の男に取られないかやきもきしなくちゃならないし、プールとか海行くたびにナンパ野郎どもから守ったりしなきゃいけないだろ? 俺、ケンカとか苦手だし、守り切れなかったら後悔して死ぬ自信あるから却下な」
「えっと……なんだか私のことめっちゃ好きみたいな気がするんだけど?」
「ああ、めっちゃ好きだな」
「でも付き合うのは駄目?」
「まだ死にたくないからな。お前に逢えなくなっちゃうし」
「やっぱりめっちゃ好きなんだ……」
「控えめに言っても好きだな」
「うーん、だったら、もし私が他の男に取られないように約束して、自分でナンパ野郎を撃退できるぐらい強ければ付き合ってくれるの?」
諦めない夏芽。
「なるほど……それなら一考の余地はあるかもしれないけど、口では何とでも言えるからな。可愛い夏芽と付き合うなら可能な限り不安の芽は潰しておきたいんだよ」
どこまでもブレない夏生。
「ふふん、そう言うと思ってちゃんと用意してきたんだからね」
そう言って夏生に二枚の紙を差し出す夏芽。
「……これは?」
「婚姻届けと空手初段の認定書よ。どう? これで安心して付き合えるでしょ?」
「ぐむむ……そこまでされたら仕方ない……か。わかった付き合うよ」
「やった! ありがとう夏生!」
そのまま爆発すれば良いのに……
クラス中の全員がそう思った。




