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プロローグ
プシュー ガランッ ——電車の扉が開く。車内に入ると、流れるように座席へ着く。
するとすぐ隣に、綺麗な薄紫色のワンピースを着た美しい女性が座り、車内にはいい香りが漂う。
そして俺たちは、
いつも通りの言葉を交わす——
「おはようございます」
「おはよ~~」
「今日もお綺麗ですね」
「えへっ ありがと」
名前も知らない。職業も知らない。歳も知らない。彼女の事は何も知らない。
そんな彼女に俺は思いを寄せている。そして彼女と接することの出来る、唯一の時間。それが俺の平日の朝なのである。