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第十五話

「立ち話も良いもんですが、とりあえず中にどうぞ。陛下には申し訳ねえですが、今年はうちの倅も同席させてもらいます」

「おお、それはそれは。レベック殿もとうとう家業のお勉強ですか」

「こまっしゃくれた物言いでまだまだ子供ですけんど、今日はよろしくお願いします」

 リックさんに案内された建物の中はお靴で入れる木の床だった。お城の床は固い石でできていて、転ぶととっても痛い。ここならきっとお城の床よりは痛くないだろうから、ベルリラが転んじゃっても泣いちゃったりしないかな。

「誰だお前」

 大きなテーブルを挟んだソファの片っぽに、誰かがどっかり座り込んでいる。ほいくえんでボクをいじめてきたいじめっ子みたい。

「お前こそ誰だよ」

 兄様が睨み返したその人は、ネイ兄様より年上みたいだけど上の兄様達よりは下みたい。ちょうどベルリラと同い年くらいかな。

「レベック! よさんか!」

「ネイ殿下! その様な口を聞いてはなりません!」

 睨み合う二人に大人達の声が飛んでくる。リックさんとセタール先生だ。リックさんにレベックと呼ばれて怒られたその人は頭にゲンコツまでもらってる。とっても痛そうな音がした。

「うちの倅がとんでもねえご無礼を致しました。どうぞ、どうぞご勘弁を」

「顔を上げてくだされ、リック殿。男児たるもの、腕白な方が大成するとはよくある話。久しぶりだな、レベック殿。昔君が三つか四つくらいの頃に初めて顔を合わせた事があるが、覚えているだろうか」

「知らねえよ、そんな昔の事」

「だろうな。では、改めて名乗らせていただこう。私はショーゴ、ショーゴ・ナーストロイ」

「ナース……トロイ……? まさか!」

「やっとわかったか! このバカタレ!」

「そしてこちらはネイとリュート。先程はうちの倅達が失礼した、君より年下の子ら故ご容赦願いたい」

「嘘だろ……?」

「嘘じゃないもん!」

「殿下!」

「レベック殿より年下と言えど八つと五つで、そんなに離れてはいない。君さえ良ければ仲良くしてやってくれないか」

 父様の大きな手がボクの背中を押して、一歩が前へ。はじめましての人には自分からあいさつを、お父さんにもほいくえんの先生にもそう言われてるから。

「はじめまして。ボク、リュートっていいます。今日はよろしくお願いします」

「……ネイ、です」

「……俺はレベック。……さっきは悪かったな」

「こっちこそ、ごめんなさい」

 はじめましてとごめんなさいをして、大人達のお仕事の見学のはじまりはじまり。途中テーブルの上に広げられた大きな紙はナーストロイのどこに何があるかが書かれた大きな地図。夏至のお祭りに使うお花はナーストロイのあちこちから集められるんだって。

「……うむ、今年も十分な量の花が集まりそうで何より」

「お城の祭りに使われるとなっちゃあ、ナーストロイの民として力も入るってもんですよ。この国がずっと平和なのも陛下や先代、先々代の国王のお力でしょう、王様のためならって言う連中の多いこと多いこと」

「ありがたい事だな」

「うちも陛下のおかげで繁盛してますからねぇ。この城下町、いやこの国中に王家の事を悪く言う人間なんておらんでしょう」

「わからんぞ。人間、その気がなくともどこぞで恨みを買ってしまうものだからな。だからこそ、素晴らしき仕事には正当な対価を支払わねばならん。今後とも良い取引をよろしく頼む」

「ほんにほんに、ありがたい事です。こちらこそ、今後もよろしゅうお願いします」

 やっぱり大人達のお話はたいくつであくびが出ちゃう。それはネイ兄様もレベックさんもいっしょみたい。大人達のお話が終わった途端兄様が手を上げた。

「ねー。国中からお花を集めることが出来るならさ、おれたちが見たことなさそうな面白いものって無いの?」

「お! それなら今朝ちょうど入ってきたぜ!」

「レベック!」

「まあまあ。大人の話など子供たちには退屈なもの、話の間大人しく我慢してくれていたのですから大目に見てやってくださらないか」

「ですが、王子様に向かって」

「こっちこっち、行こうぜ!」

「行こ! リュート!」

「はい!」

 大人達なんて無視して、レベックさんの案内に兄様といっしょについて行く。すっごくたいくつだったんだもん、がまんしたごほうび! だけど見せてもらえたのは国中から集められたお皿とか、花瓶とか、あとはきらきらした宝石とか、大人達が喜びそうなものばっかりでボクたちにはつまんないものだった。兄様といっしょに遊べるおもちゃとかないのかな。そう思った時、閃いた。

「ねえ、レベックさん」

「何?」

 父様やセタール先生達大人には聞こえないよう、レベックさんだけに聞こえるよう小さな声で話しかける。ボクの声が聞こえるようにちょっとかがんでくれたレベックさんはきっと悪い人じゃないから。

「あのねあのね、お絵描きの道具ってある?」

「絵を描く道具?」

「お絵描きに色塗りがしたいの」

「色塗り……ってえと絵具があるが」

「クレヨンって無いかな」

「くれよん?」

「えっとね、筆のいらない絵具なんだって。固めた絵具で直接紙に描けるようになるの」

「はあ、なるほど。あー……と、それっぽいのを作ってる街に心当たりはある」

「本当?」

「時間はかかるかもしれねえが仕入れられるとは思うぜ。取り寄せてみっからうちに届いたらすぐ城に送らせるわ」

「父様達には内緒って出来る?」

「多分な。それよりお前、随分面白そうなこと言い出すじゃねえか。気に入った、俺の子分にしてやる」

「子分はやだなぁ」

「じゃあ何がいいんだよ」

「ボク、レベックさんのお友達になりたいな」

「そう来たか。じゃあ一つ命令な、俺の事はレベックさんじゃなくてレベックって呼べ。俺もお前の事名前で呼ぶから」

「えへへ。よろしくね、レベック」

「よろしくな、リュート」

 差し出されたグーの手にグーでこっつんこ。ナーストロイに来てはじめての友達できた。

「何のお話してんの?」

 父様達といっしょにいたはずのネイ兄様がボクたちに声をかけてくる。新しい友達のレベックと顔を見合わせて笑ったら、兄様がほっぺたを大きくふくらませた。

「何の話してたのさ」

「俺の子分にしてやるって言ったら、こいつが友達なら良いよって言うもんだからよ」

「えへへ、お友達できた!」

「えーいいなー。おれも友達になりたい!」

「どうしよっかなー」

「リュートだけずるい! さっきの事は謝るからさ、ね?」

「しょーがねえなぁ。じゃあお前も今日から友達な!」

「やったー! よろしくね、レベック!」

「こっちこそよろしくな、ネイ!」

 バイオリンのおけいこの休憩のはずだったお出かけ、まさか友達が出来るなんて。

「じゃあまたな!」

「またねー!」

「また遊びに来ます! ありがとうございました!」

日が暮れる前におうちに帰らなきゃ。レベックとリックさんに手を振って、馬車でお城へと帰る。

「楽しかったか?」

「はい……」

 ごとごと揺れる馬車の中、兄様とそろって大あくび。今日は疲れちゃった。でも、楽しかったなぁ。父様に頭を撫でられながら、もうひとつ大あくび。

 レベックにお願いしたクレヨン、いつお城に来るかな。来たらいっぱいお絵描きがしたい、ネイ兄様といっしょにお絵描きがしたい。色塗りが出来たら、ネイ兄様も喜んでくれるかな。ネイ兄様のお部屋にお泊まりの時はいつも眠くなるまでお絵描きしてるから、ネイ兄様の宝箱がもうすぐいっぱいになっちゃう。クレヨンがお城に来たら、あれでぬりえをしても楽しそう。兄様はきっとぬりえも上手なんだろうなぁ。

 そんな事を考えてたら、馬車の中で寝ちゃったみたい。お城の自分の部屋でベルリラに起こされて、お夕飯の時間。お夕飯を食べたら今日もネイ兄様のお部屋にお泊まりとお絵描き。クレヨンのことはネイ兄様にもまだ秘密。色塗りができるようになったら、ネイ兄様は喜んでくれるかな。


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