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第十話

 週に一度のバイオリンのおけいこが夏至のお祭りのために二回になって、セタール先生も週に二度お城に来るようになった。そうなってから、ベルリラがずっとごきげんさん。代わりにおべんきょうの時間とばあやも一緒の食事マナーの時間も増えたけど、バイオリンのおけいこが楽しいからがんばれる。今日だって兄様と一緒にセタール先生のじゅぎょうとバイオリンのおけいこ。

「ありがとうございました!」

「こちらこそ、ありがとうございました。お二人の上達ぶりは本当に素晴らしい、教えていて気持ちが良いくらいです。特にネイ殿下、あと数年……いや一年もすれば私から教えられる事は無くなるでしょう。国内の著名な音楽家を専属の教師に据えるよう陛下に進言しておかなくては」

「セタール先生みたいに厳しくない人がいいなぁ」

「おやおや、それではネイ殿下は余程厳しいレッスンをお望みのようだと陛下に進言しておきましょう」

「セタール先生の意地悪!」

「ははは、この話は追い追いしていくと致しましょう。それでは御二方、失礼します」

「はーい!」

「またね、セタール先生!」

 ばたんと閉まる分厚いドア。隣にいる兄様の顔を見れば人差し指を口に当ててしーのポーズ。ドアに耳を当てて、お部屋の外の音を聞く。こつこつこつ……、セタール先生の足音だ。先生の足音が遠ざかったら二人でお部屋を抜け出して、先生の後を追いかける。

「先生足速い……」

「しょうがないよ、大人だもん。それよりお前がセタール先生を追っかけたいって言ったんだからちゃんと追っかけてよ!」

 こどものボクたちでは先生を見失わないように走って追いかけるのがやっと。そんな所に。

「王子! 廊下を走ってはいけません!」

 ばあやに見つかった。ばあやはセタール先生以上に厳しい人、ネイ兄様と一緒にいたずらしたのがばれたらおしりぺんぺんされちゃうくらい。廊下を走ってるのが見つかってもおしりぺんぺんだからこのあとおしおきされちゃうかも。

「お願い! 見逃して!」

「なりません! 廊下を走って、転んで怪我でもしたらどうするおつもりです!」

「その時はバーロン兄様に何とかしてもらうから!」

 セタール先生が行っちゃう。二人揃ってそわそわと足踏みしているボクたちを目の前にばあやは首を傾げる。

「何をそんなに慌てていらっしゃるのです。もしや、また何かとんでもない悪戯でも」

「今日はそんなことしてない!」

「なら何故」

「……セタール先生を追っかけてたの。ボクたちのおべんきょうが終わったあと、先生はどうしてるのかなって気になって」

「セタール様でしたら」

「ばあやは知ってるの?」

「ええ。自慢ではございませぬがこのばあや、国王陛下やじいや殿に恐れられるほどの情報通にございます。それ故、王子の授業の後のセタール様のご様子だって」

「ボクたちそれが知りたいの! お願い! 教えて!」

「リュート王子がここまで仰るなんて。明日は雪か、槍でも降るのでしょうか」

 ここに行けば、とばあやに教えて貰ったのはベルリラのお部屋。お城のメイド達に与えられるお部屋とは違う、ベルリラのためだけのお部屋。

「ベルリラ、失礼しますよ」

 ばあやがノックして開けたドアの先、いつもの白いエプロンを外したベルリラと、いつもよりちょっぴり優しい顔をしたセタール先生が居た。ばあやの言った通りだ。

「アジェン様。まあ、リュート様にネイ様まで。何かご用ですか?」

「私ではなくリュート王子がセタール様に」

「……えへへ。先生が、ボクたちの授業終わった後何してるのかなって」

「私の後を殿下二人が追ってきているのは知っておりましたが……なるほど、そういう訳でしたか」

「ほら言ったじゃん。セタール先生相手にはすぐばれるって」

「ふふ、セタール先生はすごいんですよ」

「ベルリラ、よさないか」

「本当の事じゃないですか。剣の腕は王様にも勝るって、お母様が」

「ネイ殿下とリュート殿下の前だぞ」

「セタール先生が、ベルリラのお父さん?」

「……ええ、いかにも」

「ええ! 全然似てない!」

「ネイ王子!」

「私はお母様に似ていると良く言われますから、見た目ではわからないですよね」

「何でセタール先生がお父さんだって隠してたの?」

「隠しておいた方が良いんです。伯爵家の娘が王城でメイドをしているだなんて先輩達が知ったら、驚き過ぎて目玉落っことしちゃいそうですし」

「ベルリラの事、父様や母様は知ってるの?」

「もちろんですとも。国王陛下、王妃殿下の他にはじいやとこのばあやが」

「……ベルリラはおうちには帰れないんでしょ?」

「だからこうしてお父様が会いに来てくれるんです。ネイ様の家庭教師のついでに、ですけど」

「セタール先生は、父様のいとこってやつになるんだよね? 父様のお父さん……おじい様と、セタール先生のお母さんがきょうだいだって聞いたよ」

「ええ。リュート殿下の仰る通り、国王陛下と私は従兄弟の関係になります」

「じゃあじゃあ、父様とセタール先生は家族?」

「家族……ではありません。親戚、という方が適切かと」

「父様のしんせきのセタール先生がベルリラのお父さんなら、ボクたちとベルリラもしんせき? になるの?」

「ええ、そう認識していただければ間違いは無いかと」

「おれ知ってる! 親がいとこ同士のこどもははとこって言うの! ベルリラはおれたちのはとこ!」

「ネイ殿下は物知りですね。その通りにございます」

「……ベルリラはお城に住んでるんでしょ? じゃあベルリラもボクの家族! 同じおうちに住んでるからボクの家族!」

「まあ。同じおうちだからってリュート様と家族だなんて。……ふふ、それじゃあ私がリュート様とネイ様のお姉ちゃんですね」

「お姉ちゃん!」

 ベルリラのお手手がボクの頭を撫でる。ナーストロイにはにほんのボクになかったものがいっぱい、お兄ちゃんもお姉ちゃんもにほんのボクにはいなかった。きょうだいがいるって嬉しいし、楽しい。

「名残惜しいのですが、私はそろそろ帰ります。ベルリラ、殿下や陛下に失礼のないようにな」

「はい!」

「セタール先生、またね!」

「さよなら!」

 ベルリラとネイ兄様と、三人でおうちに帰るセタール先生に手を振って、今日のおべんきょうはおしまい。

「ベルリラ」

「何ですか?」

「ベルリラがお父さんとお母さんに会えなくてさびしくなっても、ボクたちが家族だからね」

「……ありがとうございます、リュート様」

 そう言って笑ったベルリラはやっぱりちょっとさびしそうで。お父さんに会えないさびしさはボクもわかるから。大丈夫だよって言う代わりににぎったベルリラの手はあたたかかった。


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