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『月曜日は土曜日に始まる』(ストルガツキイ兄弟)の場合

執務室で某国大統領が一人で仕事をしていたときだ。


ノックもなくドアが開き、誰かが入ってきた。


いったい誰だ?失礼なやつだ。


そう思って顔を上げた大統領、

入ってきた相手を見て仰天した。


入ってきた男は、なんと、

大統領自身だったのである!


その「もう一人の大統領」は、

全裸で、ぼうっとこちらを

見ていたかと思うと、

いきなり手を伸ばし、

大統領の執務デスクの上に

載っていた茶菓子を、

ガツガツとほおばり始めた。


いったい、これはどうしたことだ?!


すると、パタパタと足音が響いてきて。


開けっ放しのドアから、

バケツを抱えた、小太りな白衣の男と、


そしてその後ろから、

国防相が入ってきた。


「ああ、ここにいたか!

よかったよかった!」

白衣の男は、

「もう一人の大統領」を見て言った。


後から追いついた国防相、

そうとう慌てて駆けてきたらしく、

ぜえぜえと肩で息をしている


大統領「国防相!これはいったいナニゴトだ!」


国防相「申し訳ございません、大統領閣下!

この男が大統領のクローンを作ったと主張して

大統領との面会を求めて来まして・・・。

しかしアポがないとダメだと

押し問答をしていたときに、

このクローンが勝手に走り出しまして・・・」


大統領「お・・・俺のクローン?」


白衣の男「大統領閣下!これは厳密には

クローンではありません!

ハイチの伝承でゾンビと

呼ばれていたものですぞ!」


大統領「ゾンビって・・・いやさっぱりわからん。

そもそもお前はナニモノだ?」


白衣の男「申し遅れました。私、

魔法妖怪科学研究所の

ヴィべガルロと申します」


大統領「魔法妖怪科学研究所?」


ヴィべガルロ「はい。世界中から

妖怪変化・魑魅魍魎を集めて、

我が国の科学推進に貢献する

成果を、奴らの妖術から

引き出そうとしておりまして」


大統領「そんな研究所は聞いたことがないぞ!」


国防相「それが、大統領!」

おそるおそる、国防相が手を上げ発言する。

国防相「この男が言う通りの機密ファイルを

確認したところ、たしかに、そのような

名前の研究所が存在していまして」


大統領「な、なんだとー!?」


国防相「おそらく、ソビエト連邦時代に

開設され、そのまま現政権にも、

よく内容がわからないままに引き継がれ、

毎年、予算も配分されていたようで」


ヴィべガルロ「まあ、研究所が

ソビエト連邦時代のものであれ、

なんであれ、我々研究員には

どうでもよろしい。

だいじなのは研究成果ですぞ。

そう、何十年もの研究を重ね、

ついに大統領閣下にも報告できる

成果が出せました。

それが、このゾンビです。

見事に、大統領閣下そっくりでしょう?

影武者に使うもよし。

面倒な式典に、代理で参加させるもよし!」


大統領「しかし、なぜこいつはさっきから

茶菓子を食い続けているんだ」


ヴィべガルロ「この者は、

赤ん坊と同然、自然の根源的な

欲求にまみれている状態でしてな。

つまり、食欲です」


大統領「茶菓子を全部食らいつくして、

なんだか、イライラしているようだが?」


ヴィべガルロ「おお!忘れていた!」


そう言って、ヴィべガルロは、

抱えてきたバケツを、

全裸の大統領ゾンビに差し出した。


道理で臭いと思った、

バケツの中は生のニシンでいっぱいだった。


ヴィべガルロ「この者の

食欲を満足させることは

なかなか大変でしてな。

弁当を持ってきたのです。

さあ、これをたらふくお食べ」


大統領ゾンビは、バケツの中のニシンを、

どんどん、丸呑みにし始めた。


大統領「ちょっと、、、食わせすぎじゃないか?」


ヴィべガルロ「いえいえ。

原初の自然状態に近い

この者の食欲を満たすには、

これくらいは、食わさねば」


大統領「しかし、、、そいつの腹が、

なんか、、、異様に膨れ上がってるぞ?

なんだか、風船みたいに、、、

マズイんじゃないのか?」


パーン!

と大きな音が響きわたり。


大統領ゾンビの腹部が、

穴の空いたゴム鞠のようになり、

そこから、胃液にまみれたニシンの肉片が

雨あられと、大統領たち三人に

降り注いだ。


国防相「ぎゃーー!」


大統領「くさいー!すっぱいー!

きたないー!!」


ヴィべガルロ「おかしいな。

こんなハズじゃなかったんだがな」


大統領「貴様、どうしてくれるんだ?

オレのスーツがめちゃくちゃだ!」


ヴィべガルロ「うーむ、たしかに。。。

しかし大統領閣下、ご安心ください。

こういう時のために、我が研究所は、

アラビアから、このようなアイテムを

取り寄せておりましてな」


大統領「・・・それはまさか!?

アラジンの魔法のランプか!?」


ヴィべガルロ「さよう。

このランプをこのように

こすりますとな、さあたちまち、、、」


ボンッと音がして、

狂気めいた哄笑を響かせながら、

真っ赤な肌のジンが、

煙とともに現れた。


ヴィべガルロ「さあ、ジンよ!

わしからの願い事じゃ!

この部屋にいる三人のカラダを、

汚れのないキレイなカラダに

戻してくれ!」


ジン「御意!がーはっはっは!」


不思議な煙が、大統領と国防相と

ヴィべガルロを包み込み。


その煙が消えた時。


ああ、おそらくはジンが、

「汚れのないキレイなカラダに」という

コトバを曲解してしまったのであろう。


大統領と国防相とヴィべガルロ。


ニシンゲロからは

キレイにしてもらえたものの、

ついでに、着ていた服もぜんぶ消されており、

大統領執務室の中で、三人揃って

一糸まとわぬ全裸になっていた。


ヴィべガルロ「うわーーー!」

大統領「ぎょえーーー!」

国防相「あーれーー!」


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