第4話 全ての個性(パーソナル・スキル)を逆転換!
「何なのよ、これぇぇぇぇぇぇぇッ!」
ラスティは思わず、その場にガックリと膝をつく。しかしそれは無理もない事だった。ラスティの放った大量虐殺爆弾は全てを破壊し尽くす恐ろしい魔術。使用する事を禁じられた、禁呪と呼ばれる魔術。その筈である。
しかし。フィオとラスティの戦いでなかば廃墟と化していたギルドは、壊れるどころか完全に修復している。
「おお! モンスターにやられた傷が治った!」
「俺もなんだか体調がいいぜ!」
「わしゃリュウマチが治ったぞい!」
「なんかギルドも修復されちまってるぞ!? どうなってんだ!?」
「いやいや、それよりみんな見ろ! 俺たち生きてるぞ! イカレ女の禁呪発動したのに、死んでねぇぞ!」
「おおおお! まじだぁー!」
「助かったぁー!」
出口付近で身を寄せ合っていた人々が、一斉に歓声を上げる。
「フィオが、フィオがまた俺たちを救ってくれたんだ!」
「うおおお! フィオ! ありがとうフィオ!」
「フィオ! フィオ! フィオ! フィオ!」
人々の歓声に、今度はフィオも手を振って答える。
「僕達の戦いに、巻き込んでしまってごめんなさい! 無事で良かったです!」
そう叫び、ゆっくりとラスティのそばに歩み寄った。
「お、おいテメー! それ以上こっちに来るな!」
ラスティは尻餅をついて、そのまま逃げるように後ずさる。フィオはその様子を見て、一旦立ち止まった。
「君の周りに、密かに転換球を設置しておいたんだ。そして大量虐殺爆弾の破壊の力を、全て逆転換して癒しと修復の力に変えた。だからみんなの傷や病気が治り、破壊されたギルドが元に戻った」
「な、何だそれ......! そんなふざけた力、許されねーだろ......! 何がハズレスキルだ! クソったれチートスキルじゃねぇか!」
ラスティが忌々しそうに歯を剥き出す。
「チートスキルかはわからないけど、上手く使えば便利だよ。聖転換は一般的にはハズレスキルと呼ばれてるけど、僕はそう思ってないんだ。どんなスキルも使い方次第だと思う」
「チッ! 偉そうに説教かましてんじゃねぇぜ。そんな事はわかってんだよ! アタシは天才だからな!」
ラスティはプイッとソッポを向く。
「ラスティは凄いよ。だけど、守る事にかけては僕も自信があるんだ。君がどんな魔術を使ったとしても、僕は全て防いで見せる。だから僕の、勝ちだ」
フィオはゆっくりとした足取りでラスティに近づき、彼女の額に「ピシッ」とデコピンをした。呆気に取られるラスティ。
「一撃を加えた。僕の勝ちだ。ジョーカー様、これでいいんですよね」
そう言って、振り返るフィオ。ジョーカーは頷きながら拍手をする。
「ああ、君の勝ちだ。素晴らしい戦いだった。君は私が思っていた通りの人材だった。次のステップに移行する必要もなかったようだね」
そこで一旦区切り、ジョーカーはラスティ、それからランブル達の方を見た。
「ラスティとの戦いは、君にとっていい刺激になったようだ。彼女は君を役立たずと呼んでいたが、それは間違いだったと証明された訳だ。おそらく今までの冒険では、相手の強さが不十分で君は本来の実力を出しきれていなかったのだろう。つまり、正当な評価を受ける事が出来なかったんだ。さぁ、何はともあれ君は今日から私の右腕だ! よろしく頼むよ」
ジョーカーはフィオに握手を求めるように右手を差し出した。
「はい! よろしくお願いしま......」
フィオも右手を出し、ジョーカーの握手に応えようとした。だが足がふらつき、その場に倒れる。
「大丈夫か、フィオ」
しゃがみ込んでフィオを気遣うジョーカー。フィオは仰向けになり、力無く微笑む。
「緊張が途切れると、いつもこうなっちゃうんです。虚弱体質の【個性】持ちなもので......すいません」
「気にするな。今はゆっくり休むといい。一旦私のアジトに行こう。詳しい話はそれからだ」
「はい、すいません.....」
ジョーカーがフィオに肩を貸し、彼を立ち上がらせる。すると突然、ラスティが笑い始めた。
「あははは! そうだよ、そう! テメーは虚弱体質! だからアタシはテメーにイラついてたんだ! だから役立たずだと思ったし、パーティーにいらねぇゴミだと思った! 忘れてたぜ! そしていい事を思いついた! 今動けなくなっちまったテメーをぶっ殺し、それからジョーカーをぶっ殺す! 仮面さえ奪えば、アタシがジョーカーになりすましても誰も気づかない! もちろん、証拠は全て隠滅! 目撃者は皆殺しだ! あはははははははははは!」
狂ったように笑うラスティ。そしてその直後、彼女の肉体に変化が起こる。
「グギッ、ウギギギギ、ウギィーッ!」
頭からは二本のねじれたツノが生え、目が赤く光る。さらに犬歯は鋭い牙となり、筋肉が膨張。うなじ部分からは大型のコウモリのような漆黒の翼。その姿はまさに。
「うおおお、マジかよ! あのイカレ女、デーモンになりやがった! しかも、もしかしてアークデーモンか!?」
冒険者の一人が叫ぶ。ラスティが変異したのは、悪魔、またはデーモンと言われる強力なモンスターに酷似した姿だった。彼女は「グルァァァッ!」雄叫びを上げながらズシンと床を踏み抜き、爆裂させる。
「あれは流石にまずいな。こんな所にも悪魔薬の被害者がいたか。フィオ、どうやら休んでいる場合ではなくなったぞ。あれには私でも手を焼く。君の助けが必要だ」
ジョーカーはぐったりと彼の肩に寄りかかっているフィオに声をかける。
「はい、あれは確かにやばそうですね。ですが、すいません、ジョーカー様。僕、本当にもう歩くのが精一杯で......」
力なく笑うフィオ。
「わかっている。だから君は次のステップに進む必要がある。私が今から言う事を試してくれ。君の持つ全ての個性を聖転換で逆転換するんだ」
「え!? 全部を逆転換、ですか?」
「そうだ。これは仮説だが、おそらく間違いない。六年前、私は本当に君に出逢い、助けられたんだ。その時君が見せてくれた【力】が、おそらくその方法で発現する。今は一刻を争う事態だ。とにかくやってみてくれ! 君の力が完成するまで、奴は私が食い止める!」
「わかりました!」
フィオは目を閉じ、自分の内にある個性に意識を集中した。
ジョーカーとラスティが戦う激しい爆裂音の中、全部で五つある個性の一つ一つを確認する。
フィオの現在の個性は以下の通り。
⚫︎虚弱体質
⚫︎臆病で謙虚
⚫︎鈍感少年
⚫︎魔術の劣才
⚫︎防衛本能
(これらを全部、逆転換させる!)
フィオはカッと目を開き、叫んだ。
「聖転換!」




