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第3話 どんなスキルも使い方次第。

鋼鉄蜂軍団兵(スティールビー・レギオン)!」


 ラスティは鋼鉄で出来た蜂の軍団を召喚。その数およそ一万。広大なギルド内を覆い尽くす程の蜂が、フィオを狙う。


 通常の術者であればせいぜい十匹程度しか召喚出来ないが、「無限魔力(インフィニティ・マナ)」の持ち主であるラスティは、無尽蔵に召喚出来る。


「なんなんだよこの数! 異常だぜ!」


「あの女、やっぱバケモンだ!」


 二人の戦いを観戦する事に決めた冒険者達は、麦酒(ビール)を片手に盛り上がっている。フィオとラスティの周囲は、冒険者達によって闘技場のように囲まれていた。


転換球(コンバージョン・スフィア)!」


 それに対して、フィオは素早く転換球(コンバージョン・スフィア)を展開した。これは彼の恩寵(ユニーク・スキル)聖転換(ホーリー・コンバージョン)」で作成された物。手のひらサイズの光球で、触れた物の性質を転換させる事が出来る。


 空中に多数展開されたそれの数は、およそ百個。今までフィオが出現させた中では最大の数だ。


 魔術防壁(マナ・ウォール)はあえて張らない。おそらくこれほどの数の鋼鉄蜂軍団兵(スティールビー・レギオン)相手では役に立たないからだ。一瞬で破壊されてしまうだろう。


「あはははっ! そんなザコスキルでアタシの可愛い蜂ちゃん達が防げるかよ! 死ねやクソが!」


 フィオに襲い掛かる無数の鋼鉄蜂軍団兵(スティールビー・レギオン)。ラスティは勝利を確信して中指を立てる。


「おい見ろ! すげぇぞあいつ!」


 冒険者の一人が叫ぶ。彼が指差すのはフィオだ。


「なっ......! 何で......!? ば、ば、馬鹿なッ!」


 ラスティは自身の目を疑った。それもその筈。ラスティの鋼鉄蜂軍団兵(スティールビー・レギオン)は一匹もフィオの体に傷を負わせてはいない。


 フィオは巧みに転換球(コンバージョン・スフィア)を操り、蜂達の「目標」を「転換」させていたのだ。


 それは凄まじいスピードだった。転換球(コンバージョン・スフィア)を操るフィオの手の動き、指の動き、そして球の速度は尋常ではなく、とても虚弱体質の青年には見えない。


 蜂達はその全てが転換球(コンバージョン・スフィア)によって「目標」を「転換」させられ、新たな攻撃対象としてラスティへと突っ込んで来ていた。


「チッ! このクソ蜂共が! 広範囲爆撃(ワイドレンジ・ボム)!」


 素早く印を結び、魔術名を唱える事で繰り出される魔術。ラスティの周囲を取り囲んでいた一万もの蜂が一斉に爆散していく。


「うおお! あっぶねぇ!」


 爆散した蜂の鋼鉄片が、観戦している冒険者を襲う。だがそこへ、すかさずフィオの転換球(コンバージョン・スフィア)が飛来。鋼鉄片を冒険者達のいない外側へと弾き飛ばした。


「た、助かった......」


 冒険者は胸を撫で下ろす。一万の蜂が爆裂した数十万にも及ぶ鋼鉄片は、次々と観戦者達の頭上に降り注ぎ、その数は増していく。最終的にギルド全体に降りかかる形となり、冒険者以外の受付嬢、酒場のウエイトレス、料理人なども危険に晒される事になった。


「きゃああーッ!」


「誰か、助けて!」


「うわぁーッ!」


 だが、その全てをフィオは転換球(コンバージョン・スフィア)で弾き飛ばしていく。


「うおお、危なかった! 死ぬかと思ったぜ!」


「すっげぇ! すげぇよあいつ! 何者なんだ!?」


「ジョーカーはフィオって呼んでたぜ!」


「フィオっていや、ランブルの部隊(パーティー)にそんな魔術士がいたな! なんかパッとしないって話だったけどよ、でもあいつのパーティーSランクなんだよな!」


「きっとフィオがSランクに引き上げたんだよ! 間違いない!」


「おおお!いいぞフィオ! 俺達はお前を応援する!」


「頑張れフィオ! そんなイカれた女、ぶっ飛ばせ!」


「頑張って、フィオさん!」


 ギルド内の人々全てを守ろうとするフィオの活躍に、大歓声が巻き起こる。


「フィオ! フィオ! フィオ! フィオ!」


 巻き起こるフィオコール。ジョーカーはその様子を見て「ふふッ」と楽しそうに笑う。しかし当の本人であるフィオに、歓声に答える余裕は無い。凄まじい爆裂で、ほとんど廃墟のように変わり果てた冒険者ギルドの中央ホール。対峙する二人の冒険者は睨み合う。


 ラスティは怒りによって、ほとんど怪物のような醜い形相に成り果てている。一方、フィオは冷静だった。目の前の敵に全意識を集中していた。


 彼はラスティだけを見つめていながら、無数の鋼鉄蜂軍団兵(スティールビー・レギオン)からの攻撃を転換球(コンバージョン・スフィア)でさばいて見せた。それは彼の持つ個性(パーソナル・スキル)、「防衛本能」のなせる技だった。


 それは決して珍しい個性(パーソナル・スキル)ではなかったが、フィオが慈愛に満ちた心優しい性格だった事が相乗効果を生んだ。そして強力な「力」となり、彼や仲間を今日まで守り抜いて来たのである。


「おいランブル! あんなすげぇ奴隠してたのかよ! もっとみんなに紹介してくれても良かったのによ。何で隠してたんだ!?」


 ランブルの周囲にいる冒険者達が、彼の肩を叩いたりしながらはしゃぐ。


「い、いや、隠してた訳じゃ......」


 フィオを追放してしまった手前、気まずさからしどろもどろになるランブル。


「まぁ何にせよ鼻が高いよな! いやぁ、ウチのパーティーにもあんな魔術士がいたらなぁ! あ、でもジョーカー様の右腕になるのか! 残念だったなランブル!」


「あ、ああ......残念だよ。ははは......」


 乾いた笑い声を漏らすランブル。フィオコールはさらに盛り上がっていく。


 フィオとラスティは睨み合ったまま、いまだ動かない。だが鳴り止まないフィオコールに、とうとう苛立ちを爆発させたラスティ。女性とは思えない凄まじい咆哮を上げる。


「おおおおおらぁぁぁッ! クソやかましいぞ、このチンカス童貞共! こんな役立たずのクズの名前連呼してんじゃねぇ! ブチ殺すぞ!」


 下品極まりない暴言。ギルド内に静寂が訪れる。


「おいクズ! たまたま運良くアタシの蜂共を防げたからっていい気になってんじゃあねぇぞッ! もう手加減するのはやめた! 次は全力だ! このギルドごと、いや、この町ごと全てを破壊し尽くしてやる! 大量虐殺爆弾(エクスターミネート・ボム)を最大威力で六十秒後にぶちかます! テメー、守るのが得意だって言ってたな! 面白ぇ、守って見せろや! この超特大範囲攻撃魔術からな!」


 ラスティはそう叫び、印を結び始めた。その動きは複雑で、完成までには六十秒の時間を要する。もはや、ジョーカーの右腕になると言う当初の目的も彼女の頭には無い。


「エクスターミネート・ボムだと!? 禁呪じゃねぇかよ! あいつまじイカれてんぞ!」


「禁呪を防げる魔術士はこのギルドにはいねぇ! くっそ、冗談じゃねぇぞ! みんな早く逃げろ!」


「六十秒で町の外まで行けるのか!?」


「無理ゲーじゃね!? でもやるっきゃねぇか!」


「いやぁぁ! 死ぬのはいやぁぁ! 置いていかないでぇ!」


「うわぁぁぁぁぁッ!」


 ギルドの中は大パニック。混乱の渦の中、人々は右往左往しながらギルドの出口へと押し寄せる。


 だが、フィオはまだ冷静さを欠いてはいなかった。それは近くに控えるジョーカーも同様だ。


「皆さん、落ち着いて下さい! 僕が必ず皆さんを守ります! この命を懸けて!」


 フィオは集中状態のため、それ以上気の利いた事は言えなかった。それが精一杯の言葉だった。


 だが、その精一杯の言葉が届いた。人々はピタリと止まる。そして頷き合って、肩を寄せ合った。覚悟を決めたのだ。


「フィオ。プレッシャーをかけるようで悪いが、あれを止められるのは君だけだ。このギルドにいる全員の命がかかっている。頼んだよ」


 ジョーカーは人々が覚悟を決めたのを見てとって、フィオにそう伝えた。フィオは「はい!」と頷き、素早く手を動かした。その目は、ラスティを見つめたままだ。


「ははは! 完成したぞクソが! 死ねぇぇぇぇぇッ! 大量虐殺爆弾(エクスターミネート・ボム)!」


 ラスティを中心に輝く爆風が巻き起こる。それは全てを粉砕し、生きとし生けるものを虐殺する風。さらに無限魔力(インフィニティ・マナ)を持つラスティは自身の魔力を注ぎ込み、その威力と範囲を最大限に高め、なおかつ防御不能の効果まで付与させていた。つまり、この破壊を防ぐ術は存在しない。


 たったひとつのスキルを除いては。


「な、な、ななななななな、何これッ......!」


 ラスティは再び、自分の目を疑った。



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