第2話 ギルド最高戦力に勧誘されました。
「あ、あのう......」
フィオはようやくその言葉だけ絞り出した。周囲の冒険者達は、フィオとジョーカーのやり取りを見守っている。
「なんだい、私のフィオ」
どうやらフィオは既にジョーカーのものらしい。
「どうして僕なんでしょう。パーティーリーダーの称号【ジャック】ならともかく、僕は称号なしの【ノーマーク】です。選んだ理由を、教えていただけませんか」
こんな偉い人に対等に口をきくなんて僕はどうかしてる、とフィオは思った。本来なら理由など考えず、素直に従うべきだろう。だが、フィオはどうしても理由が気になった。
「そんなのは簡単さ。君は私の次に優れた冒険者だ。君は覚えていないようだが、昔一度、私は君に助けられた。その時に君の力の一端を見たんだよ。素晴らしい力だった」
「僕が、あなたを助けた......?」
フィオには全く心当たりがなかった。どう頭を捻っても思い出せない。そもそもフィオには十四歳歳よりも以前の記憶が無い。もしも彼と出会ったのが十四歳よりも前なら、今後も思い出す事は難しいだろう。
「ああ、今はまだ思い出さなくてもいいよ。その話はまた後だ。それと称号の件だが、確かに私の右腕なのにノーマークなのは可哀想だね。まずはジャックに昇進させよう。それ以降のことはおいおい考えるよ」
再び周囲がざわつく。だがそれは無理もない事だった。
本来ならジャックに昇進するのは大変な事なのだ。パーティーで功績を上げ、ギルドマスターであるクイーンに認められて初めて昇進出来る。そしてそれには最低でも五年はかかると言う。だが、ジョーカーにはそれすらも曲げる権限があるのだろう。
「僕が、ジャックに昇進......」
「不服かい?」
「いえ、とんでもないです! 身に余る光栄です! ありがとうございます!」
本来、フィオがジャックの称号を受けるには時期尚早であると言えよう。だがせっかくジョーカーが認めてくれたのだ。引き受けなければバチが当たるというものだろう。
それにフィオは単純に嬉しかった。彼をパーティーから追放したランブルと同じ称号。それはフィオが彼と対等であると認めてもらえた事だった。
ランブルは天才だった。ギルドに入って二年でジャックに昇進したらしい。彼は二歳年上で、フィオが冒険者学校一年生の頃に良く面倒を見てくれていた。憧れの存在だった。だからギルドに入った時、真っ先にパーティーに入れてもらったのだ。
「ちょっと待って下さい!」
それは少女の声。振り返ると、フィオの背後にはラスティが立っていた。そしてそれを追うようにランブル達が集まって来る。
「おい、ジョーカーの御前だぞ! 控えろ!」
ギルドマスターにして【クイーン】のアドバンが駆け寄って来てラスティを取り押さえる。
「離して下さい! 私は納得できません! 私の方がフィオ先輩よりも優れています! なのにどうして私じゃなくてフィオ先輩を選ぶんですか!」
ラスティは叫んだ。パーティーリーダーであるランブルもラスティをたしなめようと声をかける。
「落ち着けラスティ。ジョーカー様がお決めになった事だ。俺たちが口を挟める事じゃない。それに悔しいのはお前だけじゃない。俺だってそうさ。このギルドにいるジャックの称号を持つ奴ら全員が悔しい筈だ。だけど、それでも我慢するんだ」
ランブルはそう言ってなだめるが、ラスティはギンッと鋭い眼光でランブルを睨んだ。
「チッ! るせーよこの玉なしヘナチンが! アタシは我慢なんてしねぇ! そこの役立たずを叩きのめして、アタシの方が上だって刷り込みしてやんよ! おっさん離せやオラァ!」
バゴォ! と音がしてクイーンのアドバンが吹き飛ぶ。彼は鼻血を噴き出しながら上昇していき、高い天井に激しく突き刺さった。
「なっ......!」
「嘘だろ......! クイーンだぞ......!」
「ギルドマスターを片手で......! あの女、バケモンか......!?」
絶句する冒険者達。高々と拳を掲げるラスティを見て、パーティーリーダーのランブルもあんぐりと口を開ける。
「ラスティ、なんて事を......!」
だがそんな中、一人冷静なジョーカーは納得したように頷いた。
「ふむ。なるほどね」
フィオの背後に立つ彼はそう呟き、次の瞬間には天井に刺さっているアドバンを救出。彼を抱きかかえて華麗に着地した。
「そこの君、魔術士だね。彼の治療を頼む」
「あ、はい!」
ジョーカーは近くにいた魔術士らしき青年に声をかけ、アドバンを引き渡して治療を指示する。そしてラスティに向き直り、優しく諭すように声をかけた。
「ラスティ、ではこうしよう。魔術でも打撃でもいい。君がフィオに一撃でも入れる事が出来たら、フィオではなく君を私の右腕にする。ジャックへと昇進させ、アドバンを半殺しにした罪も不問にしようじゃないか。どうかな?」
「おお、いいじゃんいいじゃん! そうこなくっちゃ! うけて立つぜジョーカー! オラ覚悟しろよクズ! テメーだよゴラ、こっち見ろや!」
ラスティは怒りと笑いが混じったような凄まじい形相でフィオを睨みつつ、彼を指差す。その迫力に、フィオは震え上がった。そして泣きそうな顔でジョーカーに助けを求める。
「む、無理ですよ僕なんかじゃ! ラスティの相手は務まりません!」
手と首をぶんぶんと振って勝てないアピールをするフィオ。
「大丈夫だよフィオ。君が臆病なのは知っているが、それでも君は充分強い。そして自分の力の使い方をより正確に知れば、もっともっと強くなれる。さっきも言ったけど、君は私の次に優秀なんだ。本来はね。だから私の言う通りにすれば、間違いなく彼女に勝てるよ」
落ち着いた口調でフィオを諭すジョーカー。その声を聞いていると、フィオの心に妙な安心感が生まれる。
「僕が、彼女に......」
ふぅーっと深呼吸をしてラスティを振り返るフィオ。
「あん!? んだゴラ!」
「ヒエッ!」
凄むラスティにビクッとなるフィオ。
「まぁ、無理に戦えとは言わないよ。君自身が選ぶと良い。この場から逃げて、一生役立たずのクズと言われ続けるか。それとも自分の力を最大限に発揮し戦い、勝利して私の右腕となるか。二つに一つ。そして選ぶのは君だ。だが、これだけは言わせてくれ。君が得意な事は、なんだ?」
「僕が得意な事は......守る事です」
そう答える事で、フィオの心に再び自信が戻って来る。ラスティに罵倒され、侮辱される事で失いかけていた自信が。
「その通りだ。もしも彼女と戦うのなら、まずは徹底的に身を守れ。傷一つ負ってはならない。方法は問わない。とにかく完璧に防御するんだ。それが出来たら次のステップに進む。どうだ、やってみるか? それとも逃げるか?」
再びフィオに問うジョーカー。フィオは強い眼差しでジョーカーを見返す。
「僕、やってみます。どこまで出来るかはわからないけど、全力で身を守ってみます!」
「ふふっ。よし、その意気だ。頑張れ!」
ジョーカーはそう言って、フィオの肩にポンと手を置いた。
対峙する、フィオとラスティ。ジョーカーは二人の間に立ち、右腕を前に掲げた。
「それではこれよりフィオとラスティの決闘を行う! 勝者は【ジャック】の称号と【ジョーカーの右腕】の地位を手に入れる! 場所はここ、冒険者ギルド一階ホールだ! 勝利条件は、相手に一撃を入れる事! では、初め!」
ジョーカーの号令と共に振り下ろされる右腕。次の瞬間、フィオとラスティは最初の一手を繰り出した。
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