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まつろわぬ神々の詩(うた)  作者: ロッドユール
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死の森の子どもたち

 葵は再びカリカチュアのところにいた。葵は少しでもお城のことや町のことを知りたくて、カリカチュアのところに毎日のように通っていた。

「世界は丸いんですか」

「そうだ。世界は丸い」

「丸い・・」

 葵はそのまん丸い大きな目をくるくる回して驚く。葵には想像もできない世界だった。

「丸いって、まん丸いんですか」

「そうだ」

「・・・」

 しかし、何度聞いても、やっぱり、今立っている大地が丸いというのが、葵にはまったく理解できなかった。というか想像ができなかった。

「なぜ丸いのに、私たちは滑り落ちないのですか?」

「さあね。そんな風にできているのさ。なぜかな」

「う~ん」

 やっぱり、葵には分からなかった。

「そこは神の領域さね。あんまり深く考え過ぎないことさ。何でもかんでも、人間が分かろうとするのはよくないことさ」

「はい・・」

 しかし、葵は不思議でしょうがなかった。

 カリカチュアは、葵の知らない世界のことを色々なんでも知っていた。それをカリカチュアは、葵に訊かれるままに葵に語って聞かせた。葵は小さい時から働いていたので学問というものを学んだことが一度もなかった。だから、カリカチュアの話てくれることは、すべてが新鮮でおもしろかった。 

「この森の子たちはあなたがさらってきたのですか」

 そんな話の合間、葵は思い切って、今までずっと疑問に思っていたことをカリカチュアに訊いてみた。

「悪魔の森に入ると魔女にさらわれて、殺されて食べられてしまうと聞きました。でも、私には、あなたがそんなことをする人には思えないんです」

 葵はカリカチュアの顔を覗き込む。

「・・・」

 カリカチュアは、表情なく黙っていた。

「あの・・」

「はははっ」

 すると、カリカチュアは大声で笑い出した。

「酷い言われようだな」

「違うのですか」

 葵はきょとんとして、カリカチュアを見た。

「魔女は子どもを食べると聞きました。村の人たちはみんな言ってました」

 葵は真顔で言う。

「ははははっ」

 カリカチュアはさらに笑った。

「じゃあ、この森の子どもたちは、一体どうして?」

 葵が訊いた。

「・・・」

 すると、カリカチュアは笑うのをやめ、表情を変えた。そして、しばらくカリカチュアは、黙って何かを考えていた。

「この森の子どもたちは・・」

 カリカチュアはそう言いかけてから虚空を見つめ、再びしばし黙った。葵はそんなカリカチュアを見つめる。

「みんな捨て子なのさ」

 そして、カリカチュアは言った。

「えっ」

「親が面倒見切れなくなったり、育てきれなくなったり、貧しさでどうしようもなくなって、それで、この森に捨てていくのさ。死の森で殺されたとか神隠しにあったとか、魔女にさらわれたとか言ってな」

 カリカチュアは葵を見る。

「そんな・・」

「そう言えば言い訳も立つし、みんな納得するだろう?しょうがないって。それなら、誰も悪くない。子どもを捨てたとしてもな」

「そんな・・じゃあ・・」

「でも、大人たちはみんな知っているのさ。死の森に捨てたってことを。みんな知ってるんだ。本当はな」

「そんな・・」

 葵は言葉もなかった。

「そんな仕組みになっているのさ。大人の世界っていうのはな」

 カリカチュアは葵を覗き込むように横目で見た。

「・・・」

 葵はショックを受け、何も言えなくなった。そして、何かを思いついた。

「どうした?」

 カリカチュアが葵の様子に何かを感じた。

「・・昔、私の村で、一人の少女が死の森で襲われたって」

「ああ」

「もしかして・・」

「それはスーだ。お前と同じ村の出身だ。スーは」

「じゃあ、スーは」

「あいつは捨てられたのさ」

「・・・」

 葵はスーの屈託ない笑顔を思い浮かべた。

「じゃあ、もし・・」

 もし、スーが捨てられていなかったら・・、葵とスーは同じ村で幼馴染として育っていたかもしれない。

「私も・・、私も孤児なんです」

「ほぉ~」

 カリカチュアはそんな葵を黙って見つめ、怪しく目を細めた。

「でも、私は七歳まで村の人に育てられ、お城に働きに行きました」

「・・・」

「私は捨てられなかった・・」

 その差は何だったのだろうと、葵は思った。

「私は・・」

「お前には、スーとはまた違う物語がある」

 カリカチュアがそんな葵に言った。

「えっ、物語?」

「まあ、いずれ分かるだろう。それが運命ならな」

「運命・・」

 葵には、まったく言っていることの意味が分からなかった。

「でも、あなたはいい人なのですね」

「何?」

 カリカチュアが葵を見る。

「あなたは捨てられた子どもたちをこの森で守りながら育てていた」

「・・・」

「あなたはいい人だったのですね」

「はははっ」

 カリカチュアは再び大口を開けて豪快に笑った。

「あたしがいい人か」

「魔女はもっと怖い人かと思っていました」

「初めて言われたよ。ふふふっ、はははっ、三百年生きてみるもんだ」

 カリカチュアはそう言ってさらに笑った。

「なぜ笑うのですか?」

 葵が首をかしげる。

「魔女ってのは、人間に嫌われるのが当たり前なのさ」

「そうなのですか」

「ああ、そんなもんだ。魔女なんてのはな」

「そうなんですか・・」

 確かに、魔女は名前を聞いただけで葵も恐れていた。でも、カリカチュアに会って、葵はその考えが変わった。

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