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泣き虫魔法少年アーサーと白猫ノーラの奇妙で憂鬱な冒険  作者: ヨシオカセイジュ


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ハワードとアーサー part1

 アーサーは重い扉を開けて、塔の内部に足を踏み入れた。見上げると石壁に沿って遥か上部まで、手すりもない狭く急ならせん階段が続いている。

 所どころにある古いランプ以外は灯りらしきものはなく、足元もはっきりとは見えない状態で、初めて訪れる者は誰もがしり込みして動けなくなってしまうと言われているのが理解できた。

 しかし、恐る恐る一歩を踏み出したアーサーは、不思議な感覚を覚えていた。

「ぼく、この階段を覚えている……」

 それはまるで住み慣れたわが家に帰るように、目をつむっていても間違うことはないであろう体に染みついた感覚だった。


「憶えている、この壁のシミも、階段の欠けた場所も」

 知らず知らずのうちに、心臓の鼓動が早くなっているのが分かる。

「これは……なに?誰の記憶なの?」

 ふと足元を見ると、日本から履き続けている焦げ茶色のローファーに被るように、硬い革と革紐を組み合わせた編み上げ式のブーツが見える。

 手を見れば、がっしりとした青年の手であったり、深くしわが刻まれた老人の手のようでもある。

「……とにかく、急がなくっちゃ」

 今、この階段を上っているのが自分自身なのか、希望に燃える青年なのか、それとも絶望に打ちのめされた老人なのか。

 混乱しながらも顔を上げ、アーサーは階段を上り続けた。


 どれくらい時間がかかったのか定かではないが、最上階のハワードの居室までたどり着いたアーサーはドアを開けた。


 部屋の中は外から想像する以上に広く、ゆったりとした応接室になっているのだが、ハワードの姿はなかった。

 そのまま部屋を通り抜けると、重厚なインテリアと大きなデスクのある執務室だが、ここも無人だった。

 不安に駆られながらアーサーが最後のドアを開けると、そこは寝室になっており、リラックスしたガウン姿のハワードがいた。

「……やっと、きたか。待ちかねたぞ」

 ハワードの言葉に応えようとしたアーサの口をついて出たのは、全く予期せぬ言葉だった。

『久しぶりだな、ハワード』

 低くしわがれたその声には、ハワードに対する優しい響きが満ちていた。

「その声は、父上か。あまりアーサーを驚かすのは止めてやってくれ」

 気がつくと小さな光が出現してゆっくりとアーサーの周りを見守るように漂っている。

「きみは、あの時の……?」


 呆然とするアーサーの前で、ハワードは本棚から抜き出した本を組み替えなおして、壁際に扉を出現させた。

「これは、歴代ウォルズリーの当主だけが知る、世界の秘密へとつながる扉だ。」

 ゆっくりと扉を開くと、中から光があふれてくる。

「おまえはわしに聞きたいことがあるのだろう。ならば、ついてこい」

 身動きできずに固まっているアーサーをしり目に、ハワードは先に足を踏み入れると、振り返った。

「どうした、ここまで来て怖じ気づいたのか?」

 アーサーが無意識のうちにポケットに手を入れると、父親が作り、母親が魔法をかけた組み木細工の箱ーマジックボックスに指先が振れた。

『パパ、ママ……』

 ぎゅっと固く握りしめると、アーサーは顔を上げた。

「行きます!」

 ハワードに続きアーサーが中へ入ると扉は消え、室内には再び静寂が訪れた。

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