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泣き虫魔法少年アーサーと白猫ノーラの奇妙で憂鬱な冒険  作者: ヨシオカセイジュ


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愛しのノルディア part1

 城の廊下を、先頭にレスター、そのすぐ後ろに

 アーサー、そしてヘンリーとノーラが並び

 フローレンスが最後を心配そうな顔で歩く。

 行き先は勿論、ハワードの居室のある

 離れの塔へと宙空で続く長い渡り廊下だ。


「しかし、大丈夫なんでしょうか」

「どうしたの、フローレンス」

「ご当主様はそれこそ、首相であろうと、

 王室の関係者であろうと、

 約束もなしに訊ねてこられるのを

 絶対に許されない方ですから……。

 アーサー様にキツくあたらなければよろしいのですが」

「確かに、ハワードさんはそのあたり

 厳しそうというか、ウルサそうだなあ。

 姉さんのビンタ並みのパンチが飛んでくるかも?」

「ああ、そんな事になったら……アーサー様!」


 ヘンリーが茶々を入れるのを、ノーラがじろりと睨んだ。

「大丈夫よ、フローレンス。ハワードもアーサーが

 自分を訊ねてくるのはわかっていたはずよ」

「本当ですか?ノーラ様」

「ええ。それどころか、今日、この時間に

 訪れるのも予知していたでしょう」

「あの人、そんな事がわかるってのか?」

「それがこの家を英国ーいえ、ヨーロッパ有数の

 大貴族で資産家にのしあげた秘密であり、

 ウォルズリーの一族、それも当主にのみ

 伝えられる力ー“ヴィジョン”よ」

「……“ヴィジョン”?」

「未来を見通し、過去へと遡るー。

 戦争も、経済も、思いのままって訳よ」

「マジかよ……」

「その気になれば、世界征服だって簡単よ?

 ま、歴代当主もそこまで欲深くはなかったけどね」

 ヘンリーは、ハッとしてノーラを見つめた。

「姉さん、あんたが何百年にわたって

 この家の守護者を務めてたのって、

 ひょっとして子孫がよからぬ考えを

 おこさないための監視だったんじゃ……」


 ノーラはそれには応えず、話を続ける。

「それでも初代ほどの“ヴィジョン”を持つ者はいなかった。

 なんせあいつは、過去でも未来でも思いのまま、

 自分の身一つで自由に跳ぶことができたからね。

 ウォルズリーの家系の中では、アーサーの母親、

 アンもいいところまではいったけど、

 魔力ではここ数百年ではハワードがダントツで一番よ。

 でも、そのハワードですら“ヴィジョン”を観るためには

 “ミュージアム”の力を借りなければいけない」

「何だよ、その“ミュージアム”って?」

「それはね……」


 レスターの足が止まった。

 城の本館からハワードの離れの塔へと繋がる

 長い渡り廊下の入口へと辿り着いたのだ。

「アーサー様」

 レスターがくるりと振り返った。

「参りましょうか。」

「レスターさん。ぼく、一人で行きます」


「……了解いたしました」

 レスターが懐から、古く、大きな鍵を取り出した。

 塔の入口を開けるための鍵で、この城では

 レスター以外、見ることも許されない鍵だ。

「内部は、暗く、複雑になっております。

 くれぐれもお気をつけて」

 ゆっくりとアーサーに手渡した。

「大丈夫、だと思います」

 アーサーは渡り廊下の向こうにそびえる塔を眺めた。

 さほど大きくはないのに、見るものを怯えさせ

 拒むかのような威圧感に満ちている。

 以前、小さな光を追って真夜中にこの廊下を

 渡ろうとした時、激しく拒絶されたのを思い出した。

 歩き出そうとしたその時、ノーラが声をかけた。

「アーサー」

 その声に、ほんの僅かだが揺らぎが感じられる。

「ハワードも、あんたの想像を超える怪物よ。

 油断せず心して行きなさい。そしてー」


「あんたの思うこと、すべてをぶつけてきなさい」


 アーサーは小さくうなずくと、

 自らを落ち着かせるように、深く息を吸い込み、

 一歩を踏み出した。

 魔力を持つ者を自動的に拒むように仕掛けられた

 魔法障壁が即座に反応し、稲妻のような光が

 アーサーを弾き出そうとするが、身体を包む

 柔らかなオーラがすべて吸収していく。

 ノーラたちが見守る中、廊下を渡りきると、

 扉をあけ、塔の中へと消えていった。


「さて、と」

 ノーラがレスターやフローレンスを振り返った。

「アーサーも当分帰ってこないだろうし、

 あたしもちょっとのんびりさせてもらうわね」

「ノーラ様、当分帰ってこないとは……?」

「そうね、四、五日……まあ、一週間後の

 親族会議までには戻ってくるでしょう」

「ええ⁈それでは、お食事などはどうすれば?」

「ああ、その点なら大丈夫よ、フローレンス。

 あの塔の中では時間の流れが普通とは

 ちょっと違うから、心配いらないわ。

 今度出て来た時にご馳走してあげて」

「本当に、大丈夫なんでしょうか…?」

「あんた、本当に心配性ね。安心しなさい!

 はい、解散、解散!」


 仕事に戻るレスターとフローレンスと別れ、

 二人で歩きながらノーラが声をかける。

「ヘンリー、あんたアーサーが

 帰ってくるまでどうするつもり?」

「そうだなあ、MI6には顔を出さない方が

 いいし、まあ彼をバックアップできるように

 体制を整えておくようにするかな」

「ふん、なるほど。正解ね。

 向こうも当日はありとあらゆる仕掛けを

 してくるだろうから用心に越したことはないわ」

「クイントンにも協力してもらうかな」


 ノーラの足がピタリと止まった。

「ねえ、坊や。あたしを抱いてみる?」


 ヘンリーの目が、これ以上は無理だろうと

 いうほど、大きく見開かれた。

「え、ちょ、ちょっと姉さん、何を!

 そりゃあ魔女の姿のあんたは魅力的だし、

 アーサー君のママの姿もそそられたけど……!」


「あんたバカねえ、違うわよ!」

 そう言って笑っているノーラの表情が

 苦痛に歪み、ゆっくりと倒れ込んでいった。

「おい、姉さん!」

「……大きな声を出さないで、

 他の者に感付かれてしまうから。

 悪いけど、これ以上歩けそうにないのよ。

 このまま抱いて寝室まで運んでもらえる?」


 そう言うとノーラは静かに目を閉じた。

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